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ある老人の溜息と液だれ事情 #8
美幸と過ごして幸せになれた。いつも美幸がそこにいるから。
美幸と付き合ってから長い月日が経っていた。
それはもう、結婚生活と同じくらいになろうかとしていた。
それと同じくらい、僕は嘘つきでいたのだ、、、。
思い出すと、職場ではバレンタインデイでの義理チョコは控えましょう、みなさん。
という風潮があった。
その方が、女子にも都合がいいと思った。
社交辞令的で無尽のようなものだし。
頂く男性からしても本心は、「義理なら要りません」と言いたいのだった。
そもそも、1ヶ月後のお返しが面倒で仕方がなかった。それが本音かな。
美幸はバレンタインデイの時期になると、せっせとチョコを収集していた。
それは僕のためだった。
毎年、持ちきれないほどの量のチョコをプレゼントしてくれた。
実際に、持ちきれなかった。
決して高級チョコではない。
どこにでもありそうな、チョコレート菓子。
持ちきれないので、職場の帰り道に金物屋さんがあって、そこでポリバケツを買って、取っ手をもちぶら下げて帰ったこともあった。
またある年は、職場の空き段ボール箱に詰めて帰ったこともあった。
自宅に持ち帰った大量のチョコは置き場に困って、クローゼットの奥の方に、遠慮がちに保管していた。
とある夕食時に「元カミさん」と子供たちが英語で今日のあったことや何やらと、英語でお話ししていた。
子供たちは英会話のサークルに参加していたので、うらやましくなるほど英会話が上手になってきていた。
自分だけその会話の仲間に入れないのが、実は悔しかったりする。
その日の就寝前に、息子が会話の内容を教えてくれた。
お父さんがクローゼットの奥にチョコレートを隠していることを、みんな知っていること。
子供たちや「元カミさん」たちは、それを毎日少しずつ食べていること。
ざっとそのような内容らしいが、それは私も大体はわかっていたのだ。
私も毎日少量づつチョコを食べていたけど、減り方が不自然だし。
そもそも、その時の会話の内容は大体は見当がついていたし。
2月の今の時期になると、いつもこのことを思い出す。
あぁ、それでも幸せだった。
僕だけ、幸せでいてずるいかもね。
今はもう、誰からもチョコレートはもらえていない。
でも義理なら、「要りません」。
返礼が面倒なので。