龍のことば(「木下龍也」で短歌7首)
①ミウラ折りめいた手つきで生も死もきみが31音に折る
木下龍也とは、歌人である。
きのした・たつや。1998年生まれ。歌人。著書は『つむじ風、ここにあります』『きみを嫌いな奴はクズだよ』(ともに書肆侃侃房)、『天才による凡人のための短歌教室』『あなたのための短歌集』『オールアラウンドユー』(いずれもナナロク社)。また、共著に『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』『今日は誰にも愛されたかった』(ともにナナロク社)がある。
代表作としては以下の作品が挙げられる。
ああこれも失敗作だロボットのくせに小鳥を愛しやがって /木下龍也
— ひとひら言葉帳 (@kotobamemo_bot) October 2, 2023
戦場を覆う大きな手はなくて君は小さな手で目を覆う 木下龍也 #短歌
— あたらしい短歌bot (@tankabot_1980) March 2, 2022
どんな色でも受け入れるために死はこれまでもこれからも漆黒╱木下龍也 #短歌
— 死の短歌bot (@shi_no_tanka) February 22, 2023
②ひらくたびきみの31音が透明な蝶としてはばたく
「よい短歌とはなにか?」という質問に、木下さんは”驚く短歌”、”読む前と読んだ後の世界を更新してくれるような快感”と返答している。
わたしも彼の短歌で最初に感動したのは、偶然見かけたこの1首だった。
どこへでも行けるあなたの舟なのに動かないから棺に見える
この短歌に驚きと、読んだ前後で世界が更新されるような快感を覚えたのだ。
それ以来、わたしも短歌をつくりつづけている。
③「魔法」とはタネや仕掛けを十分に発達させる知恵のことです
木下さんはたびたび、ご自身の短歌を「手品」であって「魔法」ではないと評する。
僕の短歌は手品なんですよ。タネも仕掛けもある。魔法も手品も英語にするとマジックなんですけど、魔法は真似ができない。
https://qjweb.jp/feature/75394/
その言葉への身勝手なアンサーとしてつくらせていただいた。
④筆跡を痕とよびたい。インクよりきみを消耗した筆跡を。
木下さんは「あなたのための短歌一首」という、短歌の個人販売プロジェクトを行っている。
購入者はメールでお題を送る
木下さんはそれをもとに短歌をつくり、便箋に手書きして返信する
制作した短歌を作者は記録せず、一切公表しない
NHKでも取り上げられた、彼の代表的、象徴的な活動だ。
⑤寝るまえに龍のことばをきく まんが日本昔ばなしのように
前述したプロジェクトでつくられた短歌を収録した歌集が『あなたのための短歌集』(著:木下龍也 ナナロク社)だ。
見開きの右ページにお題が、左ページに短歌が書かれている構成となっていて、短歌初心者でも気軽にチャレンジできる。少なくとも「なにが言いたいのかわからなくてつまらない」ということはない。
例えば、本の表紙にはこんなお題と短歌が書かれている。
お題:長い間、片想いしていた相手がいます。もう前に進もうと決めました。背中を押してくれる短歌をください。
短歌:ふりむけば君しかいない夜のバスだから私はここで降りるね
『あなたのための短歌集』には、名前に関する――名前の漢字を使ってほしいという――お題も多い。この短歌はそのオマージュである。
⑥月に向けのびるはしごの遠方にいるきみも月そのものじゃない
木下さんは現在『群像』という文芸雑誌で、いわゆる投稿コーナーの選者を務めている。
読者は月ごとに変わるお題に沿って、短歌をつくって送る。木下さんはそのなかから作品を選び、選評を書き、自身も同じお題で短歌を作る。初稿から決定稿までのプロセスさえ、彼自身が解説してくれる。
読んでいると、彼もまた自分と同じ短歌のプレイヤーであることが実感できる。
⑦立つ きみが草くさくなるまでBackspaceで刈り込んだ芝生に
木下さんが執筆した短歌の指南書には、このような文章がある。
短歌は0から始めなくてもいいジャンルだ。(略)歌集を読めば、あなたはその上に立って、より高いところに手を伸ばすことができる。
木下さんの短歌に触発されて、わたしは短歌を始めた。彼は土台だ。
わたしは、彼より高い位置に行きたい。
そして短歌は、ビギナーがベテランよりも優れた1首をあっさり詠みうる世界なのだ。
結びに
木下さんがNHKに取り上げられた番組のダイジェスト版が、YouTubeで公開されている。興味がある方は、ぜひ見てほしい。