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【旅の思い出?】東京旅⑥芋女の憂鬱


つづき

25歳のときに経験した東京の話のつづきです。
2日目の話どこいったんだろうね!←
興味ない方は飛ばしてください。
次を早めに更新します。



予約して頂いて泊まったホテルは三井ガーデンホテル銀座プレミアというところだった。
当時はまだ三井ガーデンホテルのプレミア系列はこちらと汐留イタリア街しかなかったように思う。

綺麗でおしゃれな高級ホテルで、クイーン(キングかな?とりあえずでかい)サイズのベッド。
ふかふかのタオルに厚手のバスローブ、沢山のアメニティ。
ミニバーにはお酒も充実している。
浴室はガラスが透けて、夜景を見られるようになっている。
大人が泊まる大人のための部屋は、見たことがないほど非常にどエロい仕様だった。


わたしは都会の夜景に感動して、ひとり興奮してキャッキャ喜んでいた。
その当時も部屋を自分仕様に整えてお風呂に入ったあと、備えつけのワイングラスでミニバーにあるワインを少しだけ飲んだ。(※フリードリンク)

当時勤めていた会社では私はなんの責任もなく、誇りはあったがそんな大それた仕事はしていない。
でも私は旅が好きだったし、大学の友人たちに会いに関西にもよく帰っていたので、スーツケースはグローブトロッターを使っていた。

車もだけど、スーツケースも私のこだわりのおしゃれのひとつ。

続く物価高に今は円安もあって、同じものを買おうとするとおそらく30万円近くすると思う。

ヴァルカンファイバーを用いた特殊技術で並外れた強靭さを持つとされ、見た目もトランクケースで他に類を見ないほどおしゃれでかわいかった。
(私の中で、というだけだが)


キラキラした夜景がよく見える部屋に、私のオレンジ色のグローブトロッターはよく映えた。
ワインをちびちび飲みながら、ここまでアテンドしてもらったお店を反芻する。
もちろんサービス業だったので仕事に活かすためでもあるが、知り合いの社長のスマートさが特にとても勉強になった。

常にレディファーストでお財布を持つことさえ許されず、毎回エスコートされお姫様のように扱ってもらった。
お手洗いに行くタイミングでさえ、それとなく促されるので恥じらいなく化粧直しもできる。
社長さんの私への扱いが丁寧だからなのか、店員さんの態度も心なしか違う。
顧客が大切にする女性を店全体でおもてなしする、そんな気概を感じた。

わたし自身、マナーや振る舞いは大学時代から勉強していたので連れて行ってくださった格式の高いお店でも怯むことはなかった。
おそらく私の振る舞いを見ながらお店を選んで下さっていたのだと思うのだが、心底勉強していて良かったと思った。
連れて行っても恥ずかしくないと思われないと、きっとそのお店の敷居を跨ぐことはないだろう。

こういうことはおそらく都会では日常茶飯事なのだと思う。
しかし私にとっては初めての経験だった。

ここまでされると、もしかするとここまでしてもらえる私って、実はとても良い女なのではないか…と錯覚してしまう。


…完全に錯覚である。
マジもんの田舎芋女なのに、東京の夜景と非日常にはそんなふうに思わせる悪魔のような何かがあった。

この経験があるから、わたしは今でいう港区女子たちの一種の執着が僭越ながら少しだけ理解できる気がする。
彼女たちの努力ももちろんあるだろうけれど、若い女の子は基本的に世間知らずだ。
少しキラキラした世界を見ることで、そしてそれに慣れることで、私はここにふさわしいと錯覚してしまう。
場所を提供してくれる男性に価値を感じ、自分のことを持ち上げてくれる人を探す。
そのために体の関係を持つこともあるのだろう。

気持ちはわかる。
自分は良い女かもしれない、と思わせてくれる男は場所や年齢関係なく、間違いなく素敵な男性だと思う。
ただ、いわゆる港区界隈ではそれを誰にでもしているだけ。
自分は本命ではない。
そう割り切れるなら最高だと思う。

これは自論だが、私は行きたいと思えば自分でもその場所に行ける女がいい女だと思っている。
男性にぶら下がるのも能力、でも自分に価値があると思いたいがためにお金を持つ人に群がる様子は正直美しくない。
その人脈や有限の価値を活用して、自分自身でその場所にいけるような賢さを持った人こそ、良い女だなと思うのである。

別に港区女子を批判したいわけではないし、知ったようなことを言いたいわけでもない。
こういう遊びができるのは一部の方だろうし、経験できるならしておくべきとも思う。
ひとまず、このあたりにしておく。


翌日、自分が良い女だと錯覚している芋女、ことわたしは社長さんの案内でオフィスへお邪魔した。
会社で何をしているかとか、企画会議の内容とか概要を教えていただいて、私にアイデアを求める部分の具体的なことを説明いただく。

4つほどアイデア出しをして、どのように進めるか改めて話すことになり、わたしはオフィスを後にした。

合流した社長さんのアテンドでBunkamuraシアターコクーンへ赴き、舞台鑑賞。
(阿部サダヲさん主演)
内容がちょっと偏っていてよくわからなかったけど、舞台の生きた空気にわくわくしたし、舞台上にも観客席にも知ってる芸能人が沢山いてびっくりした。
シリーズものの完結作だったようだ。
(※内容わかるわけないやん、と今なら思う)

そのあと食事をして、青山へジャズライブを見に行った。
有名なウッドベースの奏者の方が、ベースだけでルパン三世を弾くような粋な選曲も多く、わたしは初めてのことばかりですごく楽しかった。


でもそこで少し異変が起きる。


オフィスで打ち合わせが終わったのなら、もうそこで解散でもよかったのでは???
夜が更けていくほど、脳内では警笛のようにその素朴な疑問が湧いてきていた。

わたしは素敵な音楽に聴き惚れていて気づかなかったが、社長さんはだいぶ酔いが回っている様子だった。
隣に座っている彼の手が軽食を摂るのを辞め、わたしの腕に伸びてくる。


ゾゾゾゾゾゾ


ああだめだ、やっぱりなんかおかしい。
頭の中の警笛が強く鳴る。

彼の手が私の手を握ったあと反対側の肩を抱く。
体温の高い彼の足が私の足にくっついてくる。


げえぇ、気持ちわんるっっっっ


素直すぎる感想である。
私には気のいいおじさんでしかなかったが、彼からすれば私はそういう対象だったようだ。

失礼な話だし、バカでもわかるような話。
そりゃここまでしてくれてるならそうなるのも想定できるはず。
今ならわかるし、その気がなければそもそもそういう流れを作らないようにするだろう。
私はおじさんではないが、おじさんの返報を求める心にも理解ができる。
田舎の小娘に、既に安くない金額をかけている。

おじさんは間違いなくキモいが(言い方)、私にも非があった。
いや、非はないのだが大人の暗黙の了解のようなものを理解していなかった。

世間知らずすぎる芋女は、これらを下心でなく親切心だと思っていた。
仕事相手として尊重してくれるからこそ、色々なものを見せてくれたんだと思っていた。
勝手だけど、裏切られたような気になってショックだった。

わたしはここで初めて悔しいと思った。
女として扱われることを嫌悪した。
この経験から、わたしの仕事観は変わることになる。


何も知らない彼はゆっくり私のほうに顔を傾け、小さく耳打ちする。



「このあと、部屋に行ってもいい?」


げええええええ無理無理無理無理無理



大変失礼な話だが、心が悲鳴をあげている。


無理無理無理「無理」無理無理むりむりむり


「え?」


しまった。
声に出てた。

せめてもっとオブラートに包め芋女。


「か、か、勘弁してくださいぃ…」



焦る気持ちの中で捻り出した言葉が

勘弁してください

だった。
なんかもっといいセリフあるやろ。


とてもかわいそうな社長は驚き、そうか…と言って俯いた。
気まずい空気の中お店を出て、
彼はそそくさと私をタクシーに乗せた。
今度は支払いをしなかった。


私は内心とてもホッとした。
場所が場所なら、相手が相手なら…とタクシーの中で色々考えては震えた。
自分で払ったタクシー代がすごく清々しかった。
電車でよかったのに、と思った←


キラキラしていたはずのホテルの部屋はなんだか普通になっていて、その日はシャワーを浴びてすぐにベッドに潜り込んだ。


スマホを見ながら彼のツイートで舞台がダメだったか…とか色々病んでいるのを読んで、リプライもできず、ああどうしようなんて言おう…と思いながら寝た。
舞台はシリーズものの完結作だったから確かにダメだし、ていうかそこじゃないです。
ムニャムニャ。

翌日、わたしはブロックされていた。

仕事の話なんて、本気じゃなかったんだ。
わたしは友達を失った気分だった。
東京に来なければ、私はおじさんと友達のままでいられたかもしれないのに。

考えても仕方のないことだが、どうしてもやるせない気持ちになってしまう。
そんなこともあって、東京には苦い思い出があるのである。

友情でも恋愛でも仕事でもなんでも、私はあくまで私であって、女を出すのは好きな人の前で然るべきときだけ、男性に媚びを売ることはしないと決意したきっかけでもあった。

おじさんには色々な経験をさせて頂き、本人は不本意だと思うがとても感謝している。

その後おじさんはメンヘラのようになったと風の噂で聞いた。
プライドを傷つけてしまったんだろうなあ。

まあ、もうそれも過去の話。

(この話は終わり!)
つづく

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