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まちづくりにファイナンスを活かす⑩~投資ファンドにまちづくりができるのか?

2022年11月、株式会社そごう・西武の売却先がフォートレス・インベストメントグループに決定し、12月にはフォートレスによるリーシングプランとして、西武百貨店池袋店の低層部にヨドバシカメラが出店するとの報道がなされました。
これに反応したのが、地元豊島区の高野区長。豊島区の文化芸術拠点として、デパートに量販店はそぐわないという主張をされています。そもそも、ファンドがデパートを保有するという新しい時代において、地域の賑わいの象徴であったデパート、その在り方が問われてきたと感じるところです。そこで、ファンドが地域の賑わい拠点を保有することに対して、地域がどのように対峙するべきなのか、ファンド業界に片足突っ込んで身分から少し考察してみようと思います。

そもそも論として、投資ファンドにまちづくりは可能か?

投資ファンドの基本的な仕組みは、その企業(あるいは不動産)を取得するためのファンド(お金を入れる箱と思って頂ければわかりやすいです)を設立、その収益性をもとに投資家から資金を調達し、金融機関から資金を借入します。J-REITや私募REITといった長期型のファンドを除くと、一般的には3-5年程度を投資期間とするケースが多いです。ですので、ファンドには必ず出口戦略というものがあり、取得をした時からあらかじめ想定する出口価格を定めておき、そのトータル(運用期間中の収益+出口価格)でリターンを算出します。
そのため、なかなか長期目線での企業の成長可能性、不動産の価値向上といったことを考えづらい仕組みになります。もちろん、リノベーションを前提としてアップサイド(成長余地)を取りに行くような不動産ファンドもありますので、皆無という訳ではないのですが…、どうしても運用期間中のできるだけ早い段階で収益の源泉を確保しなければらならない仕組みになっているのです。
他方、まちづくりというのは実現するまでに多くの歳月を要します。分かりやすい事例として六本木ヒルズなどの法定再開発がありますが、10年以上の時間を要するケースも多く存在します。単に開発されて終わり、というわけでもないですので、代官山のヒルサイドテラスのように30年近くの歳月を掛けながら段階的に開発する事例も存在するわけです。
となると、持っている時間のスケール感が「投資ファンド」と「まちづくり事業者」との間で、どうしても相いれない部分は生じてしまいます。これはどうしようもないです。
同時に投資ファンドは、常に期待を上回るリターンを確保することを投資家から強く望まれています。リターンを確保する義務が生じるわけではないですが、その期待リターンに到達しないファンド会社に投資する投資家はいませんので、そのプレッシャーと常に戦っていることになります。
多くの場合、まちづくりへの貢献自体は収益を生みませんので、このプレッシャーの中で戦っているファンドマネージャー・アセットマネジャーからすれば、出来るだけ配当利益を下げるような可能性のある行為(短期的ですが…)には取り組みづらい、ということになります。
ですから、仮に高野区長がフォートレスに対してダイレクトに請願をしたとしても、フォートレスからすれば重要なのは投資家の期待に応えること、ですので区長の要望を聞き入れる可能性は低い、と言わざるを得ません。

そもそも論として投資ファンドにまちづくりとしての貢献を期待するのであれば、彼らの短期的な時間軸のなかで対応して欲しい点を、彼らが企業価値を算定する段階で明文化しておくべきだったと思います。
それがビジネスの世界でのルールかなと感じますし、それを欠如したやり取りをしてしまったことで、なんとも後味の悪い印象になりました。

投資ファンドを敵対視しないまちづくりの考え方

他方で、「だったらファンドなんかに街の象徴であるデパートを買わせてはいけないのだ!ファンドなんか、害悪なのだ」というファンド亡国論?的な論調に終始してしまうのは避けなければなりません。
そもそも、そごう・西武をセブンアンドアイが売却しようと考えたのは、本業である小売業のなかで利益率が低く、セブン商品との相乗効果が見込みづらいと判断したからなのでしょう。そういった意味で、すでに日本の代表的な小売業(セブンアンドアイ)において、デパート単体では生き残れないと判断されてしまった、という冷酷な現実があります。地域の「賑わいの象徴」を抱えておく意味がない、というわけです。
他方、フォートレスは彼らが保有する不動産に潜在的価値を見出しました。池袋西武を取り巻く池袋駅周辺は東池袋公園の開発やマンションと区役所を合築した再開発等によって、かつての猥雑な雰囲気が一掃されつつあります。タワーマンションの開発も進み、若年層の居住回帰も始まってきました。こういった新しい層に照準を当てた店子を誘致していくことで、建物全体の価値を引き上げていく(=売却益を取る)、そういったことを考えていると思われます。
つまり、スケール感や時間軸は異なるにせよ、”価値を上げていきたい”という方向性自体は豊島区が考えていることとそう違わない、ということになります。
では、フォートレスと豊島区、どうやったらうまく付き合っていけるのでしょうか?
それは、ルールメイクができる豊島区が、よりファンドのような民間投資者の指向性をより深く理解することに尽きる、と思います。ファンドにとって「短期」で「建物」を中心とする価値向上の実現が至上命題になりますが、建物価値を定量的に上げていくために地域価値を上げていくことも、伝え方次第では彼らにとって取り得る戦略にはなると思います。
重要なのは、それを後出し的に言わないということです。
あらかじめ明確にルール化し、それを企業価値算定の基準として提示できる状態(きちんと条例で明示する)にあれば、当然そこに従ったはずです。今回決定的に掛けていたのは、そのプロセスを自治体が持っていなかったというところだと感じています。

収益を生まないものを持ち続けることの意味を問う

もちろんルール化さえされていれば万事良かったのか?というと、そこも少し疑問が生じます。当たり前ですが、西武百貨店は民間事業者が利益をつくっていくことで施設が維持されており、公共施設のように毎年予算が税金によって投下できるものとは根本的に異なります。収益がなければ店を閉じざるを得ず、そうなると建物そして企業が維持できなくなります。

収益を確保することは民間事業にとって絶対なのです。

この点が、自治体に欠けていると感じます。
仮に、低層部をいまのままハイブランドの店舗として残したとします。
フォートレスとしては、ここは利益を生まない床と判断していますから、ほかの床で利益を増やすか、あるいは費用を削減して全体の利益を維持するしかありません。他の床で利益が増えるのであれば、西武百貨店自身がすでにできていたでしょうから、となると建物の維持や社員雇用にメスが入る、ということになります。
つまり、ポジティブな意味で”収益を生まない床を持つ意味”があるとすれば、そこが大いなる集客装置となって、館全体の利益を押し上げる、そういった効果があることが前提となります。残念ですが、現在のハイブランド店舗はすでに池袋以外にも多々出店していますので、そういった力があるとは思えません。
自治体としては、収益を生まない床を”地域文化のために残せ”と主張したいかもしれませんが、民間サイドからすれば、その主張自体が”館全体の生き死にに関わるかもしれない”ことをよくよく考えておく必要があります。

口を出すな、という訳ではありません。

相手方の商売や仕組みを理解したうえで、どうしたら”収益を生まないものを民間事業者に維持してもらえるか”という、相手方の視点に立ってモノを考えてあげることが、リールメイクのできる自治体に必要なのではと思った次第です。








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