まちづくりにファイナンスを活かす②~資金調達の現場から~

最近、ファイナンス(金融)に関するご相談をよく受けることがあります。相談内容はかなり多岐に渡っていますが、「新しく事業がやりたい。でも、資金を集める術がない。どうしたらよいか?」という相談が割と多い傾向にあります。今日は資金の部分も含め、実体験を踏まえて起業のとっかかりの部分に少しフォーカスしてみたいと思います。

 実は、(これは個人的な印象ですが)日本は相対的に起業しやすい土壌にあるんじゃないかと考えています。日本政策金融公庫をはじめとする公的機関による融資助成、自治体や商工会議所、東京だと開業ワンストップセンターなどでの会社設立や事業計画作成支援などの取組み、自治体による各種制度融資と保証協会による保証スキームなど、会社をつくって事業を拡大したいと考える人たちに対する支援措置が設けられているからです。 これに加えて、寄付型や事前購入型のクラウドファンディングサイトも拡充されているので、「資金を集める術がない」ということはまずあり得ない状況にあると思います。

これが途上国の場合、バングラデシュのグラミン銀行のような取り組みがなければ起業すること自体、非常にハードルが高いわけです。先進国においても、例えばシリコンバレーのように投資家ピッチをしなくても、借入で事業開始ができる日本は、もっと起業熱が高まってしかるべきという環境にあるともいえるわけです。

ただ、これら制度が拡充されているものの、周知されているかというと正直かなり微妙だと感じています。また、この国では起業ということ自体に対する心理的ハードルが高い(何か特別な能力やスキルを持っている人じゃないとうまくいかないとみんなが考えている)印象があります。(かくいう私もそうでした)

 私自身、2017年末に会社退職し、2018年2月に会社設立したのですが、最初はどうやって会社という組織をつくるのかさえ良く分かっていませんでした。ただ、丸の内に前職勤務先があったため、明治安田生命ビルの1Fにあった「東京都開業ワンストップセンター」なるものの存在は知っていましたので、このワンストップセンターを通じて「会社をつくるには定款を揃えること」、「まずは会社の印鑑を作ること」、「資本金を入れるだけの通帳があったほうが良いこと」、「まずは個人事業主としての開業届を出しておいたほうが良いこと」、、、超基本的なことから教えてもらったという感じです。こんな初歩的なところにまずきつつ、約1か月ほどかかって、完全自前作業で合同会社アーバンギークスを立ち上げました。

そして、事業を開始すると分かったのですが、ちょっとした買い物や移動で数十万単位のお金があっという間になくなっていくのですね。当初、資本金として200万程用意していましたが、7か月後には殆ど口座から資金がなくなる状況に陥りました。

かつての私含めて、多くの起業家は事業開始時点において、収益が半年以上ないことを前提に事業を組まないのかなと思います。ものの本には8カ月程度は事業売上がなくても会社が回るようにしましょう、とあるのですが「〇〇さんから仕事が来るはず」、「このクライアントからはかなり前向きな話をもらっているから大丈夫」、おそらくそう考えて(というか思い込んで)「起業」という心理的ハードルを乗り越えたはずです。

なので、これがうまくいかないときの喪失感といったらないです。当初、私の想定したビジネスモデルは「地方の有望な不動産ビジネス」に「東京の資金(ファンド)を導き、ビジネスを立ち上げていく」というものでしたが、具体のクライアントがほとんどイメージできていませんでした。また、会社をつくれば、誰かしら面白がって仕事をくれる(これも思い込みに近いですが。。。)と勝手に思っていました。

ただ、世の中そんなに甘くないのですよね。結局、そんな私に手を差し伸べてくれたのは、初めて勤務した都市計画事務所で一緒に仕事させて頂いた都市プランナーの方でした。当時(15年近く前)、猛烈に働いていた私を見ていて、独立して仕事がないだろうからと誘ってくれたのです。そのときに思ったのは、「一緒に仕事をしたこともないのに仕事を振ってくれるようなことはまずなくて、過去の自分を評価してくれた人からしか、仕事はやってこない」ということでした。私は、まず目の前に頂いた仕事の種をひとつづつこなしながら、これまで仕事ご一緒した人たちへ丁寧なコミュニケーションを図るようにしました。同時に、少しでも自分自身を知ってもらうために、社内研修や講演会などを積極的に引き受けることにしました

そうやって少しづつ仕事は増えたものの、口座にお金がない状況は続きました。実は起業当初、借入するつもりはありませんでした。借金に対する漠然とした恐怖があったからです。また借金を負うことで家族に迷惑かけるんじゃないか、という気持ちも強くありました。

ただ、そうも言っていられません。「事業をやめてサラリーマンに戻る」or「借金をして起業の道を突き進む」、悩んだ挙句、私は借金を負うことを選びました。せっかく始めた会社をこのまま終わらせたくない、という気持ちが勝ったからです。

新しく事業を始めたいと思う方は、どこかのタイミングで「借金を負ってよいのか?」と悩むと思います。「借金=悪」みたいな漠然とした恐怖、誰しも感じていると思います。ただ、事業を成長させるためには資金を集めることがどうしても必要になります。小銭を稼ぎながら事業を拡大していく、そんなシナリオを誰しも考えますが、ほとんどの場合、最初のうちはほとんど利益にならないという現実に直面します。これを回避するには出資金を手厚くするという方法もありますが、これだと出資金をある程度潤沢に確保しないと起業に辿り着けないことになります。

借金は事業を成長させるうえで必要不可欠だと思います。私は、借金には事業を成長させる「良い借金」と、事業の厳しい現実から逃避させる「悪い借金」の二種類があると考えています。良い借金を実現させるには、深く掘り下げた数字の裏付けのある事業計画を”自分自身の力”でまとめ上げることが重要です。10年後に1億稼ぎます!という数字を並べたものを時々拝見しますが、これは事業計画とは呼びません。

あなたが今持っているリソースを活用して、何を何個売ると売り上げが立つのか、そのためにどれだけの費用がかかり、想定外の費用としてどれぐらいの予備を見込むのか、何より売り上げを立てるために(買ってもらうために)どうやって商品やサービスを知ってもらい購買する機会をつくっていくのか?、その機会はどこからやってくるのか、そういった数字の裏側にある疑問に対してすべて答えられるロジックが見える数字の集合体が事業計画になると考えています。

事業計画って本当に難しい。私も、常に悩みもがきながら事業計画を作り、つくりながらリバイスしている日々です。でも、ここで悩みもがくことで、事業計画に重みと深みが出てきます。何より、自分の事業に自信(過信ではなく)が持てるようになってきます。想定外のことが発生しても、想定内の事象に置き換えられるようになります。

次回は、そんな事業計画の作り方に触れていきたいと思います。

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