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まちづくりにファイナンスを活かす⑥~まちづくりCFOになろう!~

先日、観光庁のwebに以下のようなプレスリリースがありました。記事自体は長いので抜粋しますが、今後観光DMOを設立・運営するにあたって、組織内にCFO(チーフ・ファイナンシャル・オフィサー)を置くことが必須となるようです。

(引用)(4)観光地域づくり法人の組織
◎ 以下の[1]~[3]の全てに該当するすこと
  [1]法人格を取得していること
  [2]意思決定の仕組みが構築されていること
  [3]専門人材が存在すること
※データ収集・分析等の専門人材(CMO:チーフ・マーケティング・オフィサー)が専従で最低一名存在していること
※財務責任者(CFO:チーフ・フィナンシャル・オフィサー)を設置すること

さて、CFOというまちづくり領域では馴染みのない職能が出てきました。日本語に訳すると”最高財務責任者”ということで、ますます良く分からなくなるこのCFO、その職能について、今回は少し話していきたいと思います。

CFOってなんだろう?

実は私、九州宮崎を拠点に九州パンケーキを中心とするプロダクト開発、九州パンケーキカフェなどのカフェ運営を行う、株式会社一平ホールディングスのCFOを拝命して、2年ほどになります。そういった意味では私自身、まだCFO業界の新入生、まだ新人です。この業界、大先輩の皆さまがたくさんいらっしゃるので、”これがCFOの職能だ!”なんて大それたことを言える業務経歴を持っているわけではないですので、現在進行形で成長しているCFOの立場から、筆を進めていきますね。

CFOの職務とは?と問われると、”如何に円滑に資金調達を進めていくか”、というのが一義的な役目になると思います。企業が成長するためには、どうしても投資資金が必要になりますので、”成長する余地のある事業分野を分析”し、”その将来価値を予測”し、企業価値をはじき出して、その数字を投資家を勧誘していく、みたいな流れになるのかなと思います。”私の会社、事業計画に基づく将来価値はこれぐらい、それを今この価格で(一部を)お売りしますよ”、みたいな感じでしょうか?

もちろん、これをきちんと戦略立ててやっていくには、事業をドライブする経験値というか、素養が必要になります。何をどれぐらい売ればよいのか、コストは適切なのか、そのコストのもととなっている人件費、個々の人材はずっと定着して成長してくれるのか、その定着要素は会社にあるのかどうか? あらゆることを織り込んで現実性かつ野心的な事業計画をまとめていく必要があるわけです。

ここには、多様な事業をドライブした経験があるほうがベターです。私はこの点が不足していましたので、いまでも日々苦労しています。今後、CFO就任にとって必要条件の一つと言えるかもしれません。

CFOになってわかること

そんなCFO。いろんなCFOを見てみると、証券会社や銀行出身の方が多いのが特徴です。企業価値をはじいて投資家と交渉調整しながら資金調達を実行し、かつ事業を成長させるべく会社の財務全般をコントロールする、という立場からすると、当然のことかなと思います。ただ、ではCFOは事業計画を描いて投資家と交渉して、資金調達ができればよいのかっていうと、答えはNO、かなと思います。

自分がCFOという職務を拝命して分かったこと。CFOの職能の大部分は事業会社内のいろんな立場に従事している人たちの聞き役である、という点ですね。販売の現場からは、”この店舗には、こういった課題点がある。”、”この事業にはまだ発揮できていないポテンシャルがある”といった意見が上がってきますし、開発メンバーからは”この販売計画を達成できるか、正直自信がない…”、”この商品展開をもっと増やしたい。投資が足りていない”、財務経理のチームからは”支払システムが複雑すぎる”とか、いろんな要望・不満が寄せられます。

各メンバーの意見を聞きながら、自分で数字と実態の事業をつぶさに観察して、そのうえで判断となる数字をまとめていく、その過程では”聞き役としての役割”がとても重要だなと実感します。

だから、”CFOに必要な素質は何か?”と敢えて問われたら、私としては”財務経理のスキル・ノウハウも重要だけど、まずはメンバーの話を聞く力”と答えると思います。コミュニケーション能力と言ってしまうと単純なのですが、CFOは現場で動いてくれている人たちにとって身近な存在である必要があるなと思うのです。

で、まちづくりのCFOの職能ってなんだろう?

専門的なスキル、という意味で言えば「資本:エクイティ」と「負債:ローン」の両面をバランスよく利用して資金調達し、きちんと収益をつくっていきながら事業拡大を図っていく、みたいな感じになるんだと思います。ただ、いわゆるITベンチャーとまちづくり会社は、事業成長性という部分で大きく異なります。ITベンチャーは投資の分だけスケールすることが求められがちな世界ですが、まちづくりはローカルな世界であり、スケールするような成長が期待されるわけではありません。そもそも事業性が乏しく、ともすれば補助金・助成金・ボランティア人材によってワークしているような世界です。”稼ぐ”という言葉すら好ましく思わない人たちもいます。

そんななかで、CFOという職能をそのまま当てはめてしまうと、本来の職能とはだいぶ異なったものになってしまう、そういった懸念を持っています。ですので、まちづくりのCFOという職能を新たに定義づける必要があると思います。 それは何でしょうか?

それは、”閉じたマーケット”のなかで、組織・施設・人財そして含む地域が永続的に自立可能な経済をつくっていく、その先導役となること、ではないかなと思っています。大きくスケールするものではないけど、ローカルなマーケットのなかで、みんながそれなりに(生活に満足できる)利益を出して、自治体の補助なしに組織が回っていること、民間企業であれば当たり前なのですが、その当たり前なことを、官と民のはざまで調整しながらまとめていく、そのまとめ役なのかなと考えています。

だからまちづくりのCFOは難しい、でもやりがいもある

ITベンチャーのCFO、とても大変だと思います。VCから調達した場合、外部成長と出口戦略を常に求められる状況になるので。

ただ、それとは真逆の大変さが”まちづくりのCFO"には出てくると思います。稼ぐことを良しとしない風潮、他方で稼がないと組織が潰れるという現実。

この折り合いをつけながら、先程お話ししたように”いろんな立場の人たち、特に現場のメンバーの聞き役として話を聞き、意見を数字に反映していく”、”(数字を現実のものとするために)事業がうまくいっていないときに、そのリカバリ策を現場のメンバーと共有・実行していくのか”という動きを取っていかなくてはいけないのです。

どうも、その”聞き役”としての役割が、このプレスリリースにある”CFOという職能”には含まれていないような印象を持っています。まちづくりのCFOに期待されているのは、単純な資本政策の専門家ではないと実感しています。

それだけ難しい職能だからこそ、経営陣の一翼としてドライブできる範囲も大きいですし、見える世界も広がってくるのではと感じています。あいにく、まだ観光DMOのCFO就任の話はないのですが、もし意欲あるDMOさんから話があったらアプライしてみたいなとも思うところです。

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