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何者かになるということ/佐原ひかり『スターゲイザー』
あの、わたし、アイドル好きなんです。
あそこの騒ぎになった会社の。
あそこの会社って、縦のつながり強いんですよね。
〇〇くんのバックについてる△△くん素敵だな、〇〇くんと仲良い××くん頑張ってるな、で、あれよあれよというまに事務所担のような様相に。
(多分)ジュニアがモデル
コバルト短編小説新人賞&氷室冴子青春文学賞出身の著者が贈る、
令和の青春×アイドル文学が、今ここに生まれる!
アイドル事務所「ユニバース」に所属するデビュー前の青年、通称「リトル」。
彼らはデビューに向けて、限られた時間の多くを費やしレッスンに励んでいた。
そんなある日、リトルたちが出演するイベント「サマーマジック」で最も活躍した一人を、デビュー間近のグループ「LAST OZ」に加えるという噂が流れだす。
この噂をきっかけに皆が熱を帯びていく中、リトルの一人である加地透は疑問を抱いていた。
“恋心も、学校生活も、自分の体も、全てを捧げなければデビューは叶わないのか?”
デビューに対して人一倍強い野心を抱いている持田、
わずか14歳にしてソロデビューを打診された遥歌、
誰よりもストイックで自分の見え方を計算し尽くした振る舞いをする葵、
芸能人一家の複雑な環境で育った問題児の蓮司、
デビューができる期限まで残り一年を切った若林、そして透。
デビューを目指すこと以外はすべてバラバラの6人が出会った時、
彼らの未来は大きく変わる――かもしれない。
あらすじは上述の通り。(集英社ホームページからお借りしました)
おそらくは某社のジュニアがモデルになっているのでしょう。細かい設定は違うけど。
ストーリーは6人の少年(または青年)のオムニバス形式で進んでいきます。
ステージ上では輝いているように見えるあの子も、変な横槍で道を外されかけたあの子も、みんな何かを抱えていて、もがき苦しんでいる。時には卑怯にも思える手段で現状を変えようとするし、エライ大人の言うことに従わなかったりする。決してみんながステージを降りてもキラキラニコニコしていて仲良くきゃっきゃしているわけではない。
でも、一度ステージに立てばそんなことは見せずに笑顔を振りまき、がむしゃらに踊り、手を振るのです。
宙ぶらりんで何者でもない
このお話の中で、「10年活動してデビューできなければもうデビューの道はない」と明確に決められているのが鍵だと思うんですよね。
人前に出る仕事ではある、でも一人前(=CDデビュー済)ではない。すごく宙ぶらりんな状態。
デビューしたところで待っているのはほとんど選ぶ権利もないまま回ってくる仕事を機械的にこなす毎日であり、明日も人気アイドルでいられるという保証はない世界であり、苦しい世界から苦しい世界へ苦しさの形を変えただけ。
それでも唯一無二の何者かになりたくてもがいて、もがいていることを悟られたくなくて、必死にもがいている。その姿の美しさよ。アイドルって白鳥みたい。涼しい顔して泳いでるけど、水中の足はずっとバタバタ動いていなくては沈んでしまう。
でも彼らが抱えている葛藤って、レベルは違えど私たちも少なからず経験することだと思うのです。本気であればあるほど足を速くバタバタさせなくてはいけないのはどの世界も同じ。この本に描かれている世界は遠い世界の話だけど、遠い世界の話でない。だからページをめくる手が止まらないのだと思う。
きみの望みも、俺の願いも、すべてステージへ連れていく。
「きみの望みも、俺の願いも、すべてステージへ連れていく。」
この『スターゲイザー』の帯についているコピー、すごく好きなんです。
ファンが見ている彼らは、彼らであって彼らでない。所詮はアイドル=偶像。
俺が望んでいることは、アイドルとしての正解ではないのかもしれない。
何が正解なのかもわからない中で、それでも全部全部ひっくるめてステージの上で眩しい光を浴びて笑顔で輝く。
自分も辛いことも悲しいことも全部ひっくるめて飲み込んで、涼しい顔で歩いていたいなぁ。
そんな気分にさせられた本でした。
いや、現実のアイドルも、清濁すぎる清濁を併せ呑んで涼しいお顔をできる鋼のメンタルの持ち主でなければ務まらないと思うのです。
最近は身近な感じがいいんでしょうか、情報供給過多すぎてね、なんだかなんだかであります。