マン島の不思議(1):マンクス猫
マン島という島をご存じでしょうか? グレートブリテン島とアイルランド島のあいだに浮かぶ、小さな島です。この島のことを知っているという方は、おそらくモーターバイク・ファンなのでは? マン島は、世界でもっとも長い歴史を誇るモーターバイク・レース、TTレース(TTはtourist trophyの略)の開催地なのです。
そのため、マン島への行き方を調べると、「すごく行きにくい」という情報を目にするかと思います。なにしろ、TTレースのために、淡路島ぐらいの島に世界中から人が集まってくるのですから。しかし、TTレースの時期をはずせば大丈夫。ヒースロー空港から一時間ほどで、あっさり着いてしまいます。
じつはそのマン島、TTレースのほかにもうひとつ、一部の人たちに有名なものがあるんです。猫好きさんはご存じかもしれませんね。そう、マン島原産の猫、マンクスです。マンクスの特徴は、なんといってもしっぽがないこと、そして、後ろ足が前足よりも少し長いため、ウサギのような歩き方をすることです。
しっぽがない猫というと、われわれ日本人はジャパニーズ・ボブテイルを思い浮かべますが、マンクスとジャパニーズ・ボブテイルは、遺伝的には遠いのだそうです。マンクスの尻尾をなくさせる遺伝子は、ホモになると猫が死んでしまう致死遺伝子。そのため、現代的な意味において、品種として確立しているとは言えないらしいです。でも、なにしろマンクスはあまりにも歴史が古い。その歴史ゆえに、ひとつの品種として扱われているのだそう。
マンクスには、その謎めいた姿と古い歴史ゆえ、さまざまな伝説があるんですよ。デズモンド・モリスが Cat World: A Feline Encyclopedia という本にそのあたりをまとめているので、ご紹介しましょう。(9項目あります。)
マンクスはネコとウサギのあいだにできた子で、その結果、しっぽがなくなり、後ろ脚が長くてウサギのような歩き方をするようになった。
マンクスはノアの箱船(!)に乗ろうとした最後の動物だった。マンクスはぎりぎりまでネズミ取りをしていたため、雨がひどく降り始め、慌てて箱船に駆け込もうとした。そのとき、箱船のドアがバタンと閉まり、しっぽがちぎれてしまった。
マンクスはスペイン艦隊の生き残りである。1588年、スペインの無敵艦隊がマン島沖で転覆したとき、しっぽのないネコが何匹か逃げだし、干潮のときにどうにか避難場所をみつけた。他のネコと接触を断たれるなかでしっぽのない種族となった。(マン島の近くに無敵艦隊が来たという事実はない。)
マンクスの先祖は、チベット(!)の寺院の守り神であった。チベットからスペインに旅し、スペイン艦隊に乗り込んだ。(転覆の話は3と同じ。)もともと、チベットのネコにはふさふさしたしっぽがあった。あまりに美しいしっぽなので、アイルランド人にさらわれたり、殺されたりした(しっぽを幸運のお守りにしたらしい。別の伝説によると、バイキングが兜の飾りにしたという)。そこで母ネコたちは、子猫が生まれるとしっぽを噛み切ることにした。アイルランド人たちはしっぽのないネコに興味を失い、こうしてマンクスは、現在まで生き延びているのである。
サムソン(!)が軽い運動のためにアイリッシュ海を泳いで渡ろうとした。そこにしっぽの長いネコがいた。サムソンはそのしっぽにからまって、危うく溺れかかった。サムソンはネコのしっぽを切って助かった。それ以降、マンクスにはしっぽがないのである。
ノアの箱船がアララト山に乗っかっていたとき、ノアの犬がマンクスのしっぽを噛み切った。マンクスは箱船の窓から外に飛び出し、海を泳いでマン島にたどりつき、そこを住みかとした。
マンクスはオリエントからの貿易船に乗ってマン島にやってきた。一説によると、二千年以上前に、フェニキア人(!)が日本(!)からマンクスを買い入れて来たのだそうな。
7の伝説には、日本でなくインドのバージョンもあり。
領主が収入を増やすために、ネコのしっぽに税金をかけた。マン島の住民たちは、ネコのしっぽを切ることによってこれに対抗した。
いかがでしょう。これだけ伝説をもつネコもめずらしい、とデズモンド・モリスも言っています。しかもマンクス、とても人懐こくてかわいい性格なんだそうですよ!
というわけで、マンクスに会うためにマン島に行ってきました(笑)。マン島の首都ダグラスの、Nobles Parkという公園に猫舎があり、そ こで大切に飼われているとのことだったので、公園を目指して歩きました。そうこうするうちに少し歩き疲れたので、公園の入口あたりの教会に入って一休みすることにしました。
教会は閉まっていたのですが 、「頼もう~」とばかりドンドン扉を叩くと、親切な牧師さんが開けてくれまし た。マンクスに会いに日本から来ましたというと、 その牧師さんが言うには、公園も教会も Mr. Noblesという人の寄付でできたもので、教会は古く見えるけれど、実は新しいのだそう。また、猫舎は狭くなったので、どこかに移転しちゃったとのことでした。がーん….。疲れた上に猫舎がなくなったと聞いてがっかりしていると、気の毒に思ったのか、牧師さんがダグラス中心街まで車で送ってくれました。
さて、猫舎はなかったのですが、ダグラスの路上で、一匹のマンクス 猫に出会うことができました! 静かな道路のはるか遠方に、猫らしきものが見えたのです。「マンクスか?!」と思ったわたしが、「にゃーお、にゃーお」と、控えめに猫の鳴き真似をしながらじりじり接近すると、 ある程度まで近づいたところで、なんと、先方も「にゃーお、にゃーお」と鳴きながら、こちらに歩み寄ってくるではありませんか!(猫語に言葉の壁はないのだ!)
そしてわたしの目の前でコロンと横になると、にゃーにゃー鳴きながら、あっちへコロン、こっちへコロン、と、コココロして見せるのです。たしかに、しっぽがない! ジャパニーズ・ボブテイルよりもいくぶんがっしりした体つきで、長めの毛がむっくりと生えていました。人なつこくてかわいいという噂は、まったくその通りでした! 思わずさっと捕まえて、だっこして頬ずりしたくなりましたが、逃げられては元も子もありません。ぐっとこらえて、にゃーおにゃーおと鳴き真似しながらシャッターを切りました。
結局、わたしがダグラスで出会ったマンクスはこの子一匹でしたが、田舎の方に行けばもっとたくさんいるのかもしれません。一匹だけでも、ほんとにかわいかったので、大満足です!!
なお、この記事の冒頭に掲げた写真は、もちろん、そのマンクスちゃんです!
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