青木薫

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青木薫

ポピュラーサイエンスを中心に翻訳をしています。西洋古典や日本の古典を読むのがけっこう好きです。ガーデニング、乗馬、茶道、能楽などを、万年初心者&低空飛行モードで楽しんでいます。

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    ノンフィクション書評サイトHONZ(2011−2024)のアーカイブ

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上杉鷹山とマハトマ・ガンジーゆかりの野草、スベリヒユの新たな魅力

「山形の人は雑草を食べるんですって?」と聞かれたことがあります。これはなにも山形県民をディスっているわけではなく、実際に、山形、とくに置賜地方では、いろいろと雑草のようなものを食べるんです。そして、山形で食べられている雑草っぽい野草の筆頭が、スベリヒユでしょう(置賜地方では、「ひょう」と言います)。上記質問者の念頭にあったのも、まず間違いなく、スベリヒユだと思います。 一般には、スベリヒユは嫌われ者の雑草です。暑さ寒さに負けずよく増えるうえに、地面を這うように広がるため、通

    • マン島の不思議(2):三本脚(トレカシン)

      ■マン島のシンボル、トレカシンとは? マン島行きの飛行機に乗ってから、SeaCatという船(「海の猫」! これまた猫ちなみ!)でダグラスを発ってリバプールに着くまで、とにかくマン島にかかわっているかぎりたえず目にしたのが、マン島のシンボル、「三本脚(あし)」(マン島語で tre cassyn:トレカシン)です。 その名の通り「三本の脚」なのですが、一度目にしたら忘れない不思議な形をしています。三本の脚が、平面上で互いに百二十度の角度をなすように突き出ているのです。この記事

      • マン島の不思議(1):マンクス猫

        マン島という島をご存じでしょうか? グレートブリテン島とアイルランド島のあいだに浮かぶ、小さな島です。この島のことを知っているという方は、おそらくモーターバイク・ファンなのでは? マン島は、世界でもっとも長い歴史を誇るモーターバイク・レース、TTレース(TTはtourist trophyの略)の開催地なのです。  そのため、マン島への行き方を調べると、「すごく行きにくい」という情報を目にするかと思います。なにしろ、TTレースのために、淡路島ぐらいの島に世界中から人が集まって

        • 「へべれけ」=「ヘベのお酌」説の真相を追う!

          このたび、わけあってプラトンの『饗宴』を読み返しました。「読み返した」と言いましたが、実は、日本語できちんと読んだのは、たぶんはじめてです。大学の一回生のとき(関西の大学では「年生」のことを「回生」と言うのであった...)、クラス授業の英語の講読が『饗宴』だったんです。だから英語で読んだ。日本語で書かれた解説書とかも読みましたが(田中美知太郎著『プラトン「饗宴」への招待』とか)、『饗宴』を日本語訳でべったり読んだことは、これまでなかったんだと思います。 『饗宴』は、ソクラテ

        上杉鷹山とマハトマ・ガンジーゆかりの野草、スベリヒユの新たな魅力

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          Freethinkers と学問の自由

          「自由」という言葉、世の中に溢れていますよね。でも、「何に関する、何からの自由なのか」を見極めないかぎり、実のところよくわからない。ある人にとっての自由が、別の人にとっては不自由になることもあるし…..。自由という言葉に出会ったら、ちょっと立ち止まって考えてみると、いろいろ見えてくることもあった面白いですよね。 わたしが考えさせられたのは、free-thinker(free-thinking)という言葉です。free と think という、ごく日常的な単語をつなげただけの

          Freethinkers と学問の自由

          「ディドー問題」を知っていますか?

          ■もともとのディドー伝説 「ディドー問題」を知っていますか? というタイトルを掲げましたが、そもそも、ディドーという人を知っていますか?   (この人物の名前のカタカナ表記は、ギリシャ語ラテン語の音引き    を省略しなければ「ディードー」です。この記事では音引きをひ    とつ省略して「ディドー」とします。「ディード」とする人もい    ますし、ふたつとも省略して「ディド」とする人もいます。) ディドーは知らなくても、カルタゴはご存じでしょう。そう、ポエニ戦争でローマ

          「ディドー問題」を知っていますか?

          アウグスティヌスの濡れ衣を晴らす!「神は天地創造の前は何をしていたか」

          アウグスティヌスが言ったこととして紹介されるフレーズが、もうひとつ(時間に関するもののほかに、もうひとつ)あります。「神は天地創造の前に何をしていたのか?」という問いに対し、アウグスティヌスは、「そんな質問をする者のために、神は地獄を用意していたのである」と答えた、というのがそれです。 そんなエピソードを読まされた人は、「アウグスティヌス、感じ悪い!」と思ったかもしれません。自分には答えられない問いを、脅しで封殺するようなヤツなのね、と思ったことでしょう。最低でも、真剣な質

          アウグスティヌスの濡れ衣を晴らす!「神は天地創造の前は何をしていたか」

          アウグスティヌスとビッグバン宇宙論

          およそ時間に関する書物のなかで、アウグスティヌスのあの言葉を引用していないものはあるのだろうか?   と、そんなことを考えてしまうほど、次の言葉はよく引用されます。ほんとうに、ほんとうに、よく引用されるんです。  考えてみれば、ちょっと不思議ですよね。時間については古今東西いろいろな人がいろいろなことを言っている。それなのになぜ、20世紀や21世紀に書かれた時間に関する本にさえも、1500年ほども前のアウグスティヌスのこの言葉が引用されるのか? しかもその内容はといえば、「

          アウグスティヌスとビッグバン宇宙論

          ケプラーを探してーーカレル橋と六角形の雪

          もう二十年ほども前のことになりますが、『ケプラー疑惑』という本が出ました。ケプラーがティコ・ブラーエを毒殺したのではないかという衝撃的な内容で、世界的にかなり話題になりました。著者はレーガン大統領のスピーチライターだった人物で、なぜそういう人物が、あの時期に、こんな本を書く気になったかはわかりませんが、物理学や化学の専門家のあいだでは早々に、精査に耐えないでたらめな内容だということで決着がついています。でも、そういうフォローアップ情報ってなかなか広まらないんですよね。長い年月

          ケプラーを探してーーカレル橋と六角形の雪

          スピノザの神、アインシュタインの神、わたしの「神」

          わたしは長らく、アインシュタインは神なんて信じていないのだろうと思っていました。アインシュタインが、「わたしは無神論者ではありません」と言っているのは知っていましたが、スルーしていたのです…..。「神はサイコロを振らない」というセリフも有名ですが、一種のレトリックにすぎないと思っていました。(実際、彼は神をネタに軽口もたたきます(笑)) しかし、そんなわたしも徐々に、アインシュタインは神を信じていたと考えざるをえなくなったのです。正直、がっくりでした。無神論者である(不可知

          スピノザの神、アインシュタインの神、わたしの「神」

          ラテン語と幾何学でハードルを上げる?:ニュートンとスピノザの場合

          アイザック・ニュートンは主著『プリンキピア』(1687年)をラテン語で、しかも幾何学の枠組みで書いたんですよ。もうね、幾何学的に扱った物理学なんて、想像を絶する難しさですよ。読み始めるなり、分厚い扉が目の前で、がががが….と閉まるような気がするぐらいです。 ちょっと脱線して高校時代の思い出ばなしをしますと、高校入学後まもなく物理の先生が、「数学の授業で微積分を習うのはまだ先だと思うけど、物理で必要なので、最初にやっておきます」といって、物理に必要なだけの微積分をさらさらと説

          ラテン語と幾何学でハードルを上げる?:ニュートンとスピノザの場合

          知の大航海に生きた男、トマス・ハリオットを知っていますか?

          I would rather doe something  worth nothinge than nothinge at all ――Thomas Harriot 16世紀のイングランド人、トマス・ハリオットを知っていますか? ハリオットの文通相手だったケプラーは(英国人とドイツ人が文通できるのはラテン語のありがたみ!)、知らない人でも知っている超有名人ですが、ハリオットの名前を知る人は、少なくとも日本ではあまりいないのではないでしょうか。 しかし英米では、ハリオットの

          知の大航海に生きた男、トマス・ハリオットを知っていますか?

          謎の植物シルピオン:古代の万能薬にして避妊薬・堕胎薬、そして絶滅が記載された史上初の植物

          アポロンの神託で有名なデルフィ(デルポイ)を訪れたときのこと、傾斜のきつい遺跡の斜面で、ひときわ目を引く大きな植物 Ferula communis (オオウイキョウ)に出会いました。その立派な姿がとても印象的だったので、帰国後に少し調べてみたところ、オオウイキョウの親戚筋に、古代においてはきわめて重要だった「シルピオン」(ラテン語の読みだとシルフィウム)という植物がある、というか「あった」という説を知りました。後述のように、シルピオンは絶滅しているため、その素性は謎で、今も議

          謎の植物シルピオン:古代の万能薬にして避妊薬・堕胎薬、そして絶滅が記載された史上初の植物

          『針の上の天使』スコラ学を揶揄する超有名な常套句は、いつ、だれが言い出したのか?

          ■極限や連続性など、近現代数学の諸概念を用意したスコラ学 「針の上で天使は何人踊れるか?」というフレーズは、みなさん、聞いたことぐらいはあるでしょう。「昔のスコラ学は、実にバカげた議論をしていた」という意味で用いられます。実際、それに類したことをトマス・アクィナスが論じてはいるのですよね。アクィナスの『神学大全』からその部分を引用したいところですが、議論がかなり長くて難しいので、要点だけ、現代風(笑)にざっくり示したいと思います。 (1)天使は空間的に移動できるか? (2

          『針の上の天使』スコラ学を揶揄する超有名な常套句は、いつ、だれが言い出したのか?

          ニュートン神話(2)接吻数の謎

          「一個の球のまわりに、同じ大きさの球をいくつ接触させられるか」という問題のことを、三次元接吻数問題と言います。この問題は、1694年に行われた「ニュートン=グレゴリー論争」に端を発する、というのが一般的な説明です。その説明によれば、グレゴリー(当時としては有名な数学者デーヴィッド・グレゴリー)は13個接触できると主張し、ニュートンは12個接触できると主張した。結局、この問題は20世紀半ばになってようやく解決され(答えは12個)、やはりニュートンは正しかった、というオチになりま

          ニュートン神話(2)接吻数の謎

          ニュートン神話(1)リンゴが落ちて重力を発見した?

          「ニュートンは、実家の農園でリンゴが木から落ちるのを見て重力を発見した」というのは、知らない人でも知っている有名な話でしょう。わたしはリンゴの産地である青森県に住んでいるのですが、青森県板柳町のふるさとセンターには、「ニュートンのリンゴの木」があります(ニュートンの実家にあった木を接ぎ木で殖やしたものらしく、世界各地にあるらしいです)。そのリンゴはフラワー・オブ・ケントという品種で、フジをはじめとする現代の品種と比べると、とても落果しやすかったらしい。(現代の品種は落下しにく

          ニュートン神話(1)リンゴが落ちて重力を発見した?