踏切の残像
自分の本当がわからなくなって来ている。そうなるほど追い詰められて、でも逃げたくて仕掛けた反撃も甘く、すぐにネズミのように縮こまってしまった、そんな君。そんな君は、まるで崖際に行くように、ゆっくり、ゆっくりと、その顔に絶望を貼付けて、一歩一歩、歩き出して、鉄の固まりが近づいた踏切に、飛び出していった。
僕は叫んだ。君の、友達の手を掴みたかったから。君の居場所はここだよって教えたかったから。二人きり、このまま愛していけるってずっと信じてきたから。
そんな景色を繰り返す。蝉の声がずっと鳴り響いている。君は二度と帰っては来ないってことは分かってはいるけれど、それでも、この場所でずっと、あの後悔を見つづけている。
あの時、掴んでちぎれて、もう二度と繋がることのないお揃いのキーホルダーを眺める。あの時の記憶を思い返し、また後悔を思い出す。
もう、夏と呼べる時期ではないし、君が帰ってこれそうな時期も過ぎてしまったけれど。君が近くにいてくれるのならば、あの白い肌の君に、あの夏の日が消し去ってしまった君に、取り付かれてしまいたいと思ってしまうのは、仕方ないことなんだろうか。
◇ ◇ ◇
学生のもっと休みたい、学校行きたくないっていう本性が如実に現れ出す9月の始まりを告げる学校のチャイムが鳴り響く。あの時の君のように、立派な、まるでお葬式に置かれるような花瓶がとある机に置かれている。その花瓶には、沢山のクロユリと一輪のスカビオサが植えられている。皆が、その花瓶に注目している。それを仕掛けたのは、僕だ。その景色を、まるで人事のように見ている。慌てて、周りに八つ当たりしている。そんな景色を見て、ざまぁみろって心の中で思う。そう。これは僕なりの復讐だ。君が行った事が原因なんだから。だから、そう、僕を見なよ。その憎しみと困惑が篭った目で。きっと君は助けてほしいと足掻いている。そんな事したってどうにもならないのに。ただただ、その行動は自分の首を絞めていくだけなのに。
そんな絶望に溺れていく貴方の手の平に、深い、深い願いを込めてキスをする。そしてその手をとらず、突き放した。そして、現実を突きつけた。
気持ち悪い薄笑いを浮かべる獣達を横目に、この心が晴れるまで暴れている。あの時の、握り過ぎて爪の後が付いてしまった、不揃いにされたスカートを思い浮かべながら。
蝉も鳴らない、夏には珍しい静寂を切り裂くように悲鳴が鳴る。そんな教室から眺める空は、今日も青空だった。でも、僕の心はこの青空とは反対だった。
◇ ◇ ◇
何度も何度もあの時の光景を思い返す。後悔にまみれ、復讐はただ空虚しか生まなかった。もうどうしようもなかった。そんな中、あの場所で、あの時の後悔を映し出すあの場所で。君が言ったあの言葉を思い出した。
「君は友達」
そう、君は友達、だから僕の手を掴んで欲しかった。君がいない場所なんて、僕にとってはもう、いる意味なんてないのだから。
でも、もう僕は決めた。あの時掴めなかった手を、僕が掴み返しに行こうって。
だから、そん青空のように透き通った世界で、愛し合えたらいいなって思ったから。僕は、踏切に立った。
繰り返す、あの時の景色を、今ここで。あの日と同じように、蝉の声が鳴り響く、この踏切の前で。あの後悔と同じように、あの日の君と同じように。僕の鞄からもちぎれてしまった、君とお揃いのキーホルダー。今日みたいな夏の日に消えてしまった、白い肌の君に、悲しくなるほど、取り付かれてしまいたかった。でも、それが無理なら、同じ世界で過ごしたかった。
やっと見えた、透明な君は、驚いた顔で僕に指を射した。
瞬間、聞こえたのは、鈍い衝突音と、列車の汽笛の音だった。
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