落ちこぼれの僕は学校で虐められますが、何故か家族に愛されています!?

2 落ちこぼれの僕はいじめられていますが、なぜか妹に過保護にされています

 使用人の運転する車で、学校に向かう。
 僕は毎回最後に乗り、一番後ろにひっそりと座る。こうでもしないと困る理由が何個かある。一番は妹のことなんだけど。
「お兄様、いつも思うのですが、どうして私たちから距離をとろうとしているのでしょうか?私としてはもっと近づいて欲しいのですが」
「ねぇ知ってる?この車意外と中が見えるんだよ」
「へぇ、そうなんですね」
「そして、僕達は自他ともに認める名家だ。一つ一つの行動に気をつけなきゃいけない」
「そうですね」
「よって、せめて世間の目があるうちはいつものことをさせません。というかそろそろ兄離れしなさい」
「いやです」
 どうしてこうなってしまったんだろう。妹は今年14になる。普通の兄妹ならばもう少し仲が悪いものではないだろうか。それともただ家がおかしいだけなのだろうか。
 とまぁ、そんな考えことをしているうちに、いつのまにか学校にたどり着いていたようだ。
 魔法学院ウィザル。小中高一貫の魔法士教育機関である。ここの中等部に僕と妹は在籍している。兄さん達は高等部にいる。
「ではお兄様。ここでお別れですね。きちんと、一人の時にはペンダントをつけること!いいですね」
 そういわれ車から降り、僕はすぐに教室に向かう。理由は、物を隠されない様にするためだ。
 いくら魔法を習っているからといってもまだ中等部、魔法を使った事はまだ出来ない。なのでこうしたみみっちいやり方をされる事が多い。
 こうならないためにも、探知魔法というのもあるが……勿論僕は使えない。だからこうして効いているか分からない対策をしている。
 けれど、どれだけ対策をしたとしても、魔法でやられては僕にも対処の仕様がない。あまり使われることはないが、隠蔽魔法とかなどで隠される事もある。
 それだけ魔法が便利という事だ。これは僕が一番知っていることだ。
 急いで教室に行くと、誰もいない。まぁ、基本的に誰もいないであろう時間に来ているのだから、当然ではある。
 教室に貼られている時間割を見ると、今日の授業が座学だけというのが分かった。座学は僕にとっては面白くも、つまらなくもないといった感じだ。大抵の事は家にある本に書かれてるし、魔法実習は参加できないし……いや形だけ参加はするんだけど。
 しかし今日が座学だけなら、一つ困ったことがある。
 今日の放課後は、どう過ごそうか。
 座学なら以外とすぐ帰れそうなものだが、生憎僕は車に乗れないと家に帰れないし、かと言って兄さん達がどの時間に帰るのか聞いてないからな……。
 そんなことを考えているうちに、教室内に人が集まってきた。
 けれどいつもより違うところがある。皆僕の方を見てなにか言いたそうにしてはいるが、何も言ってこない。いつもは何かしら言ってくるのに……。
 そんなとき、急に肩を叩かれた。
「やぁ落ちこぼれ。なんで君は今日も生きているのかな?」
「サルサ……」
 サルサ・ヴォーン。リュアレ家に負けず劣らずの名家であるヴォーン家の長男。そんなサルサ家だが、毎回リュアレ家の影に隠れている。もちろん、お互いに得意分野や苦手な分野があるわけだが、名はこっちの方が知られているので、傍から見るとそうなってしまう。まぁ、トップ同士が仲がいいため、殺伐としたことにはなってない。サルサは、そんなヴォーン家の跡取りとして将来有望とされている。 
「全く……君が羨ましいよ。だって君は家で期待なんてされてないから、後継ぎなんて気にせず自由な道を選べるじゃないか。ま、この国では君は全く働けないだろうけど!」
「あはは……」
 僕は笑って返すしか無かった。
 サルサは、幼馴染……という訳では無い。確かに家同士の交流は多かったが、僕は魔法が使えなく、さらに三男という立場から社交の場に出ていないというのがあるからだ。
 なので、出会ったのはこの学校に入ってからになる。
 そんなサルサは、何かと僕に突っかかって来る。虐めはしないが、こうして"魔法が使えない落ちこぼれ"という事を強調して馬鹿にしてくる。
「まぁ安心しなよ、俺が君の代わりになってあげるからさ」
「……まだ、それ言ってるのか」
「当然じゃないか!だって俺は……と、もうすぐ授業時間だ。邪魔したね、落ちこぼれ」
 彼は笑いながら自分の席に戻った。
 良く、彼は俺が君の代わりになると言ってくる。中等部に入ってきてからこの事を言うようになったが、実のところ良く分からない。後継ぎ問題も何も聞いていないし、僕自身の事も何も聞いていないからだ。
 どうせただの戯言だろう。そう思いながら授業の準備をする。
 しかし先程までの光景を、一人の少女が見てるとは、僕もサルサも知らないままなのだった……。

◇ ◇ ◇

 今日は珍しく、誰も虐めてこなかったな……いつもなら、休み時間に入るたびにやってくるのに……。
 いつの間にか時間は放課後。僕は今図書室に向かっている。
 この学校の図書室は特殊で、魔法を練習する場所がある。無意味だと分かっていても、僅かな可能性に掛けて僕は放課後、こうして暇があったら練習している。
 ……にしても、流石に静かすぎる……部活があったとしても、いつも図書室付近は人がいるのに……。
 まぁ良いか。誰にも邪魔されないと考えれば楽なものだ。
 そうして図書室まで向かう途中、背中に激痛が走った。
「がっ……?」
 痛みの原因は分からない。熱くて痛い……まさかこれは……魔法?
「うーむ!やっぱり俺は天才だ!こんな魔法、習ってなくても独学で撃てるんだ!」
「サルサ……」
「ほーう?まだ立ち上がるか……魔法フィルターもないくせに!」
 魔法フィルター。それは魔法の威力を弱めるもの。この学校に通う人たちは、皆入学時にこの魔法を習う。だが、もちろん僕は使えない。
「さっさと沈め!ブラストバーン!」
 目の前に見えたのは、炎、そして爆発。日常で見ないそれは、確かに人の命を奪うのに適している。
 魔法が目の前に迫るときに僕は思い出した。どうして人がいないのかを……それは、サルサの結界魔法だ。
 サルサの結界魔法は、対象を中に閉じ込め、周りから見えなくさせるもの。もちろん、中に入った人も外を見ることは無い。
 サルサの放った魔法がぶつかる。あまりの痛みに僕はその場に倒れ込んだ。
「ひゃはは!お前はこの天才魔法士サルサ様にやられるんだ!むしろ感謝してほしいものだな!」
 サルサが吠える。意識が薄れる。感覚が無くなる。
 ……もう駄目なのだろうか。僕は、もうこのまま……。
「ヒールシャワー」
 その時、鈴のような、優しい声が聞こえた。雨……その雫に触れた場所が、みるみる内に治っていく……完全とは、いかないけれど。
 それでも、充分だった。
 僕は目の前に現れた少女の名前を呼ぶ。
「レネ……」
 レネ。それが妹の名で、結界と、回復魔法の天才だ。そうか、だからサルサの結界にも入ってこれたのだろう。
「お兄様……」
 レネが僕を呼ぶ。その瞳は、悲しそうな目をしていた。
「おお!レネではないか!お前ならばこの結界も通れることは想定済みだ。やはり君とは運命のようだね……」
「……」
 レネは、一体何を考えているのだろうか。何も喋らず、ずっと僕を見つめているだけだ。
「ふふ……そんな情熱的な目で僕を見て……君の考えている事は手にとるように分かるよ!俺と最高の時間を過ごしたいのだろう?でも今はこの落ちこぼれがその場所を占拠してしまってる……分かる、分かるよ」
 サルサは一呼吸置いて、今度は僕の髪を掴みながら叫ぶ。
「おい落ちこぼれ。あの世で安心しろ。これからは俺がお前の変わりになってやるからさ!レネと共にな!」
「お前……!」
 そう。サルサは本気なのかはどうか知らないが、レネの事が好きだ。よく、レネと結婚して、僕の変わりになると息巻いていた。
 けれど……僕はそれを拒んでいた。レネの将来を勝手に決めてほしくなかったから。
 こんな僕でも兄と呼んでくれる優しい子を、こんなやつなんかに渡すつもりはない。僕だって、兄としてのプライドがあるのだ。
「そんなこと……させるか……!」
「はぁ……もう耳障りだ。さぁ、俺の愛しきレネ。お前の手で、お前の家の恥晒しを倒すのだ」
 そう言ってサルサは僕を魔法で空中に固定する。いわゆる貼り付けというやつだ。
「そうですか……なら」
 レネは、そう呟いた。そして、手に持っている杖に魔力が集まり、氷の槍を作り出した。
「ブリザーランス」
 氷の槍は、一直線に獲物に向かって発射される。しかし、レネの狙いは僕では無く……。
「……は?」
 サルサの頬を掠め飛んでいった。その頬からは血が出ている。
「私の中の恥晒しを滅するとしますかね……えーっと……サウサさん?」
「な……あ……」
 サルサは、想い人に名前を覚えてられていないショックと先程の魔法の事で気絶した。その瞬間、結界が解除される。人がいないのは変わらずだったが、部活に励む声が聞こえてきた。
 その瞬間、レネが僕を抱きしめた。 
「お兄様!大丈夫ですか!今回復魔法を掛けてあげますね!」
「いや……良いよ。もう動けるし……痛てて……」
「ほら!やっぱり無理して……全然大丈夫なんかじゃないですか!」
「僕なんかに魔法使うよりいいだろ?」
「ああもう……またそう言って……え?回復魔法が効果ない……」
「あー……まぁ爆発の魔法だったしねぇ……でも体は動くからいいだろ?」
「良くはありません!早く病院へ行きましょう!さぁ!早く!」
 レネがなにか叫んでいる。しかし、すでに意識が薄れている僕にはなにも聞こえない。最後に見えたのは、二人の男性がこっちへ走って来る姿だった。

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