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【創作】選び、選ばれ、選ばれない

神は山からやって来る。

四脚だから安定していて、同じ数だけ頭から角を生やしているのに、それでも安定している。

年に一度、冬から春になるタイミングでやって来る。日付は決まっていない。誰もが春だな、と感じた日の夜にやって来る。

わたしたちには神が必要で、いつ来るかはわからないけれど絶対にやって来る神のために、春の兆しが少しでも見えると、神を迎える準備を始める。
暦の内側で生きるわたしたちは、日を刻みながら神の到来を待つ。

神は奪いにやって来る。

わたしたちは自分が一番大切にしているものを神棚に捧げる。

神は山からやって来て、たくさんの捧げ物の中から一つを選んで奪っていく。

柔らかい毛に覆われた淡く光る身体。
唯一、角だけが軽くも硬い。

捧げ物がどんな形であっても器用に角に引っ掛けて、青くきらめく瞳を持ち主に向けたあと、神は山へと帰っていく。

去りゆくとき、足音は全くしないのに、乾いた木のような、あるいは研磨する前の宝石のような、角と捧げ物がぶつかり合う音が響く。

神は、たくさんの捧げ物の中から、一番大切にされているものを選ぶという。

それがわかっているから、わざと「大切ではないもの」を捧げる者も多かった。

彼らは、自分の一番大切なものを奪われてさめざめと泣く人を、愚かだと陰口をたたいた。

愚直とは美徳ではない、単なる愚か者だと。

わたしは、本当に大切なものを捧げている。
ずっと、捧げ続けている。
自分が、心の底から大切だと思えるものを、身をちぎる思いで差し出している。

それなのに、選ばれたことがない。

こんなにも大切にしているのに。

わたしの「大切」は、一番ではないのだ。

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