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世界図書館(秋ピリカ応募)

 世界図書館。この図書館には世界各国からの書籍が集まってくる。
 司書のわたしは、西館の一部を受け持っていた。毎日、毎日、大量に送られてくる本の数々を所定の棚へ選別、陳列する。
 この仕事、すごく大変だけど、大好きだからまったく苦ではない。

 最近、司書仲間の中である噂が広がっている。夜になると、本がひとりでに動き回るというのだ。

 ある日のこと、いつもよりもたくさんの量の本が送られてきてしまい、作業が終わるころには、最終退館者となってしまった。
 日中には人の往来も多く賑やかであるが、こうやって誰もいなくなると、なんだか薄気味が悪い。

 コツーン。コツーン。

 館内にわたしの歩く音だけが響き渡る。
 最終退館のときは、館内に誰か残っていないか確認しないといけないのだが、広いため時間が掛かってしまう。

 わたしは、急ぎ足で確認して回る。

 すると、東館の18番区画を過ぎたあたりでバサっ。って本が落ちる音がした。
 もう誰も居ないはずなのに。
 緊張してあぶら汗が出てくる。

 そーっと、音のした方に歩みを進める。

「誰か、居ますか……?」

 ……。

 返事はない。
 気のせいだったのかな?
 そう思って、落ちた本に手を添えようとした瞬間。

 本が、浮いた。
 表紙をバタつかせて、優雅に飛んでゆく。まるで、紙が生きているみたい。

 その後に続くように、すべての棚からすべての本が勢いよく飛び出して、宙を舞い出した。
 いったい、何が起きているの……!?

 本達は、きれいに隊列をなして飛び回る。弧を描いたり、くるくる回転してみたり、それは本たちが踊り狂っているかのようだ。
 圧巻の光景だった。
 同僚から聞いていた噂はほんとうだったようだ。

 わたしは、ペタンと力なく床にお尻を付ける。
 すると、一冊の本がわたしの前にやってきて、ページを見せる。

 そこには、
『Shall We Dance?』とだけ書かれていた。
 クスリと笑みが溢れてしまう。

「ええ、わたしで良ければ」

 世界から集まってきた本達は、今宵、争いもなく、ただ平和に、踊り狂うのだった。

了(856字)
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