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日本の団体スポーツ30年史(後編)

 1993年にサッカーのプロリーグであるJリーグが華々しく開幕した裏側で、不況のあおりを受け、多くの企業スポーツが立ち行かなくなってきました。
 企業チームが次々となくなり、地域と市民の手によるクラブチームが生き残りをかけ必死にもがき、プロクラブも企業・行政に振り回されながらも理想の姿を追い求めた・・・
 そんなプロとアマチュアの狭間で揺れ動いた日本の団体スポーツ激動の歴史約30年を年表にまとめました。
 今回は後編として2009年から2023年を見ていきます。


2009年 Jリーグの入場者が一億人突破


 バレーなど他のスポーツチームが廃部していく中で、常に拡大を続けているJリーグの通算入場者数が一億人を超えた。
 Jリーグのクラブは、実業団のように一企業が所有しているわけではない。またクラブ名に企業名がついていないため、特定企業だけでなく多くの企業に支援してもらいやすい。
 この一億人という数字も”地域密着の理念”が生んだ賜物であろう。

  • 業績が厳しい日産が名門である野球部や卓球部を廃部。下火になっていた実業団の廃部が、リーマンショックの影響を受けて、再び増加傾向に。

  • 大分トリニータが、杜撰な経理により隠していたが実質的には大幅な債務超過に陥っていたことが発覚。Jリーグから融資を受ける事態に。

2010年 東京ヴェルディが存続の危機に


 前年に読売グループが完全撤退した東京ヴェルディは、クラブのOBが設立した持ち株会社が今季から経営することに。
 しかし計画通りにスポンサー料などが入らず、存続の危機に立たされる。Jリーグ側が経営陣を退陣させ、一時的に直接運営する異例の事態に。
 最終的にリーグが新たな出資者を集め、債務超過を解消。リーグが送り込んだ羽生事務局長が社長となり、再スタートを切る。

  • TBSと住生活グループによるベイスターズの売却交渉が土壇場で破断。かつては企業の名誉といえた球団買収も、一筋縄ではいかない時代に。

  • 女子プロ野球が開幕。関西の二球団により構成される。女子野球の地位向上を目指す。

2011年 なでしこブームで女子サッカーの観客増加


 なでしこジャパンのワールドカップ優勝効果で、なでしこリーグが空前のブームに沸く。澤穂希ら代表勢を擁するINAC神戸は、試合のたびに最多観客動員数を塗り替えることに。
 その一方で、日本代表選手が在籍していないクラブの試合ではこれまでと変わらず、集客に苦しんでいる。
 一時的なブームで終わらせないために、女子サッカーそのものの知名度を高めていく必要がある。

  • バスケ協会が、企業チーム主体の日本リーグとプロのbjリーグの統一計画を断念。この期に及んでプロ化に反対する企業がいるとは・・・

  • 新潟に次々とアルビレックスの名称を持つクラブが生まれる中、今度は廃部したJALバスケ部の受け皿として、アルビの女子バスケクラブが誕生。

2012年 横浜DeNA、野球では負けるがビジネスで勝つ


 ベイスターズを買収したDeNAのプロ野球初シーズンは、成績は5年連続最下位と振るわなかったものの、様々な施策や地域密着活動により観客動員は増加。
 親会社のDeNAの強みを生かし、試合展開を予想するアプリを開発。若年層のファン開拓につなげた。また住宅ローンを支援する住宅ローンナイターなど話題性のあるキャンペーンを多く実施。DeNAの見事な球団経営は、会社の株価自体も持ち直す結果となった。

  • 将来のJリーグ入りを目指すヴィアティン三重が誕生。サッカーのみならず他競技のクラブも運営する欧州型の地域密着型クラブを志向する。

  • 潰れない実業団の代名詞だったパナソニックが、バスケ部とバドミントン部を廃部。もう企業だけに頼っていてはスポーツが持たない・・・

2013年 Jリーグがクラブライセンス制度を導入


 発足から20年の節目を迎えたJリーグは、所属クラブが健全経営をしているか審査をするため、ライセンス制度を導入。三期連続で赤字になることを禁じるなどのルールを設け、未達だとリーグから締め出されることになる。
 所属クラブが増加傾向にあるJリーグだが、資金不足など運営に問題を抱えているクラブも多い。そのため、クラブの経営危機を未然に捉え、回避することが本制度導入の狙いである。

  • バスケの新リーグであるNBLが開幕。しかし完全プロ化は実現せず。プロクラブの雄である千葉がbjリーグから転籍してくれたことが救いか。

  • 赤字経営が常態化していた球界の中にあって、黒字と優勝の二兎を追ってきた東北楽天ゴールデンイーグルスが球団創設9年目で日本一を達成。

2014年 J3リーグ開幕


 Jリーグの三部リーグとなるJ3リーグが開幕。地方クラブが行政の支援を得るには、Jリーグの看板を名乗る必要があり、J2よりもさらに参入の敷居が低いリーグの誕生は歓迎すべきこと。J3入りが決まったあるクラブは、さっそくスポンサーからの支援金が三倍になったとか。
 横浜から3クラブ目となる横浜YSCCも参戦。クラブ関係者が「結果を出した選手はマリノスにステップアップして良い」と語るなど、育成型クラブとしてJ1やJ2とうまく棲み分けしたい。

  • マンチェスター・シティを運営する事業体が横浜Fマリノスの株式の20%を取得。Jリーグのクラブに外資が参入することとなる。

  • NPB16球団構想が持ち上がる。10年前の球界再編騒動の際には、球団を減らす議論がされていたことを考えると隔世の感がある。

2015年 分裂状態のバスケリーグが統合


 10年以上、アマチュアとプロという二つのリーグに分裂された状態にあったバスケ界だが、ついに統合されることになった。
 国際バスケ連盟からリーグを統合しない限り、国際大会から締め出されることが決まり、抜本的な改革を強いられた。Jリーグを発足させた川淵三郎氏を迎え、彼の類いまれなる実行力で、2リーグは統一されることに。ライセンス制度の設計に尽力した大河正明氏の貢献も忘れてはならないだろう。

  • 川崎フロンターレの平均入場者数が二万人を突破。川崎にプロスポーツが根付かない歴史は、もはや過去のものに。

  • エンタメ性を重視しベイスターズの集客力をアップしたDeNAが、横浜スタジアムをボールパーク化すべく同球場の運営会社に対するTOBを開始。

2016年 Bリーグ開幕


 長年に渡って分裂状態にあった二つのバスケリーグが統合し、新たなバスケのプロリーグであるBリーグが開幕した。
 野球やサッカーにはない光や音楽を活用した演出など、エンターテイメント性の追求を理念に掲げる。デジタル戦略も重視し、スマホで入場できるシステムや、試合をスマホ視聴できるサービスの充実。またチケット販売などのデータをリーグが一元管理し、マーケティングに活用する。

  • Vリーグが再びプロ化構想を発表。チームには企業からの自立を求め、2018年開幕を目指す。

  • プレステージインターナショナルは、女性スポーツ発展のため山形にバレー、秋田にバスケ、富山にハンドとアランマーレを名乗るチームを創設。

2017年 アリーナが不足しています


 Bリーグの盛況を受けて、地域密着型のクラブを欲する自治体は多いが、全国で会場となるアリーナが不足してる問題が浮き彫りになる。
 特にB2所属の東京エクセレンスは、Bリーグの要件を満たすアリーナを確保できないことから、競技の成績に関係なくB3に降格させられることに。
 新規建設には多額の費用が掛かるため、従来の体育館ではなく、コンサート会場や議場にもできるよう多機能型のアリーナの発想が求められる。

  • Vリーグのプロ化推進計画は、参入を希望するチームが一つもなく、断念。バレーは、サッカーだけでなくバスケにも差をつけられる格好に。

  • 元サッカー日本代表の高原直康が創設した沖縄SVが、コーヒーの栽培を始める。スポーツを核とした地域活性化や雇用創出に繋げるのが狙い。

2018年 Tリーグ開幕


 卓球の新リーグであるTリーグが開幕。オープニングマッチは、従来の地味な卓球のイメージを覆す派手な演出で彩られた。
 日本人初のプロ卓球選手となった松下浩二氏が、現役時代に夢見ていた「ドイツのリーグを手本にして、国内のプロリーグをつくる構想」を具現化した。サッカーと同じようにドイツのリーグを手本にしたことで、卓球のすそ野を広げ、国内のレベルを上げることが期待される。

  • Jリーグは上位4クラブに理念強化配分金という名目の多額の資金を支給することに。護送船団方式で運営してきたJリーグの方針転換となるか。

  • 南箕輪村に本拠を置く村のバレークラブであるVC長野トライデンツがVリーグ一部に参戦。チームを立ち上げた笹川星哉は、監督と社長の二刀流。

2019年 バスケ界に1億円プレーヤー誕生


 千葉ジェッツのポイントガード富樫勇樹の年俸が一億円になった。7年前は半年で100万円の契約だった選手が100倍以上のサラリーを受け取ること。
 もちろんスポーツの世界は、お金がすべてではないが、Bリーグが子供に夢を与える舞台になったことは間違いない。大河正明チェアマン(当時)は、「旧企業チームではなくプロクラブから一億円プレーヤーが出たことに大きな意義がある」と語った。

  • こちらは逆に年棒120円!J3のYSCC所属の安彦孝真が41歳でJリーグデビュー。39歳のとき一念発起しプロを目指した変り種である。

  • 公正取引委員会は、実業団選手の移籍に設けられた制限が独占禁止法に違反する見解を示す。以降、VリーグやWリーグなどの選手移籍が活発に。

2020年 スポーツ界はコロナ渦でも奮闘


 新型コロナウイルスの影響で無観客試合となったNPBだが、各球団は無観客ならではの企画を打ち出すなど、逆境に負けないしたたかさを見せた。
スマートフォンから応援できるシステムを導入したり、ファンの写真を観客席に飾れる特典が付いたチケットを販売するなど、自宅観戦を盛り上げた。
 また女子サッカーのINACは、活動が制限されているからこのときだからこそ、有料のオンラインイベントを開き、ファンとの絆を深めた。

  • 所属選手が競技を辞めたあと会社に残るため、ほぼ移籍が無かったハンドボール界だが、ジークスター東京が日本代表経験者3人を補強し話題に。

  • 総合型スポーツクラブとなった東京ヴェルディが、グッドデザイン賞を受賞。競技を超えてブランドを統一し、ビジネス展開に繋げた実績を評価。

2021年 WEリーグ開幕


 女子サッカーのプロリーグであるWEリーグが開幕。サッカーのみならず女性の社会進出への貢献にも取り組む。
 役職者の50%以上を女性にするなどの条件をクラブに課し、妊娠・出産後も現役を続けられるよう産休制度が導入されている。参加クラブが奇数のため、試合が組まれていないクラブは、理念推奨日といってリーグの理念を体現する活動が課せられる。

  • 琉球ゴールデンキングスのホームである沖縄アリーナが開業。ここから全国で新アリーナの建設ラッシュが始まる。

  • ダンスのプロリーグであるDリーグが開幕。各チームのオーナーは有名企業であり、ダンサーはプロとして契約し、年俸一千万円を超える選手も。

2022年 リーグワン開幕


 ラグビーの新リーグであるリーグワンが開幕。従来通り、選手は企業社員も多くプレーしており、プロリーグではないが、試合の興行権は各チームが持つことになった。
 チーム名には地域名が入り、地域密着型リーグへと変貌。また東芝やヤマハなどは、企業とは別の運営法人を設立。長年、アマチュアリズムを大切にしてきたラグビー界だが、プロ化を模索するフェーズに入ったといえよう。

  • 26年から始まる最上位リーグ『Bプレミア』入りに向け、Bリーグ所属の各クラブは、競技面だけでなく、経営面でも、し烈な競争を見せ始める。

  • ファンサービスの乏しいバレー界だが、FC東京からチームを譲り受けた東京GBが、エンタメ性抜群のホームゲームを展開するなど革命を起こす。

2023年 Jリーグが秋春制への移行を決定


 Jリーグが2026年シーズンから、秋に開幕し春に閉幕するスケジュールに移行することを決定。
シーズン移行のメリット
 ・暑い夏場の試合を減らせるので、ゲームの質が向上する。
 ・欧州のクラブ間との移籍がしやすくなる。
 ・ACLのシーズンと同じになる。
デメリット
 ・雪国では冬場に試合や練習ができるのか不安。
 ・シーズンの開幕時期と新人の加入時期がずれる。

  • 北海道日本ハムの新本拠地エスコンフィールドHOKKAIDOがオープン。試合がない日でも温浴施設などが解放され、大勢のお客で賑わう。

  • 佐賀バルーナーズのB1昇格とその本拠地であるSAGAアリーナが開業が奇跡的に同時になる。V1久光も同アリーナで七千人の観客を動員。

そして2024年 SVリーグとリーグHが開幕・・・

終わりに

 日本の団体スポーツの30年を振り返ってみました。
 前編と後編の二部に分けましたが、前編と後編では様相が全く変わっていることがわかります。
 特に前編で触れた2001年の新日鉄バレー部が、新日鉄の名称を外し堺ブレイザーズとなったところは、企業がスポーツクラブを持っていること自体、企業内外の利害関係者にマイナスのイメージを持たれていたの証明でもありました。しかしここにきて、堺ブレイザーズに企業名が冠されたことは、スポーツクラブを運営することがポジティブなイメージに変わったといえるのではないでしょうか。
 このように地域スポーツの意義が認められたことは、とても素晴らしいことですが、ここに至るまで様々なできごとがあったことを忘れてはならないと思い、年表にまとめました。


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