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オシリスの星とミルクの旅路2

静かな牧場に朝日が差し込む頃、メグという名の乳牛が目を覚ました。彼女の白黒まだらの背中には、夜の冷気が残る星の光が反射しているかのように見えた。メグは特別な牛だった。彼女のミルクは飲む者に不思議な夢を見せる力を持ち、村人たちはそれを「オシリスの星の囁き」と呼んでいた。遠くエジプトの神話に繋がる幻だと信じられ、そのミルクは村の宝だった。

一方、タロウは牧場の片隅で寝藁を片付けながら、メグをちらりと見つめた。瘦せっぽちの少年で、村一番の夢想家と呼ばれていた。彼は毎朝メグのミルクを搾り、それを飲むたびに奇妙な夢に引き込まれていた。砂漠の遺跡、黄金に輝く川、そして星空の下で佇む牛の影――それが毎夜のように繰り返された。タロウは確信していた。メグはただの牛ではない。彼女はオシリスの星とこの小さな牧場を繋ぐ、何か大きな運命の鍵なのだ。

ある朝、タロウが搾乳を終えたとき、メグが突然立ち上がり、牧場の柵の方へ歩き出した。彼女の目には普段見ない決意が宿っていた。「メグ、どこ行くんだ?」とタロウが呼びかけたが、メグは振り返らず、柵の外へ鼻先を突き出した。まるで「ついてこい」と言っているようだった。

タロウは迷ったが、メグの背中に背負った小さな袋にミルクの入った瓶と干し草を詰め、彼女の後を追った。村人たちが「戻れ」と叫ぶ声を背に、二人は牧場を離れた。メグの蹄が土を踏む音と、タロウの軽い足音が朝霧の中に響いた。

旅の最初の日、タロウはメグのミルクを飲み、再び夢を見た。今度は砂漠の風が彼を導き、遠くに輝く星が道を示していた。目覚めたとき、彼は気づいた――メグが向かう先は、夢の中の風景そのものだ。「オシリスの星が呼んでるのか、メグ?」と呟くと、メグは静かに首を振って肯定するかのようだった。

二人は森を抜け、川を渡り、荒れ野を進んだ。道中、タロウはメグのミルクを頼りに夢で道を確認し、メグは不思議な直感で危険を避けた。ある夜、野犬の群れに囲まれたとき、メグが低い唸り声を上げると、犬たちは怯えて逃げ出した。タロウは驚きながらも、メグの内に秘めた力がますます明らかになるのを感じていた。

幾日かが過ぎ、二人はついに砂漠の入り口にたどり着いた。目の前に広がる砂の海と、夜空に輝く一際明るい星――オシリスの星だ。タロウはメグの背に手を置き、「ここまで来たら行くしかないな」と呟いた。メグは静かに歩みを進め、タロウもその隣を歩いた。

彼らの旅はまだ始まったばかりだった。オシリスの星が示す先に何が待つのか、メグのミルクが導く夢の果てに何があるのか。それは二人だけが知る物語となるだろう。

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 極中道 ミラクルみちる
日本ファシストの会 https://www.fascist.site/ カンパはこちらへ https://www.fascist.site/pages/5770774/page_202202041039