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「体は男性、心は女性」の人は女湯に入れないことが明確に

先月末、公衆浴場での男女の入浴ルールに関する通知が厚生労働省から出ました。LGBT当事者と女性の権利との関係性という観点から考えてみたいと思います。

厚労省通知の合理性

朝日新聞の記事によると、立憲民主党の会議で厚生労働省が発出した通知が問題になったようです。公衆浴場の衛生管理要領には「おおむね7歳以上の男女を混浴させないこと」という文言があります。通知では、この「男女」については身体的特徴をもって判断するとされており、「例えば、体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要がある」と書かれています。

立憲民主党議員の中からは、「実際に問題が起きているとの誤解を招く」との批判が出たようです。LGBT理解増進法の議論の過程で、トランスジェンダーへのバッシングに対する懸念は私も共有しております。私の知るトランス女性は公衆浴場には入らず、旅館などでは家族風呂を利用しています。男性から女性に転換している体を他人に見せることはしたくないということです。

しかし、全く懸念がないかというと私はそうは言い切れないと思うのです。成立したLGBT理解増進法は理念法であり、LGBT当事者に新たな権利を与えるものではありません。もちろん、公衆浴場で男性の体の人が女湯に入る権利を与えるものではありません。しかし、「ジェンダーアイデンティティ」という概念が導入されたことで、男性の体で生まれた人が、性自認は女性であるため性転換手術を受けていなくても女性として扱ってほしいと主張することもあり得るでしょう。さらに権利意識がより高まった段階で、性転換手術をしていないトランス女性(戸籍の上では男)が女風呂に入りたいと主張する可能性も捨てきれません。

一方、女性は女風呂は女性だけに限るべきだと当然考えるでしょう。私も同様です。将来的な権利の衝突を考えると、私は現時点で厚生労働省がこの通知を出したことに一定の合理性があると考えます。この件は、佐々木俊尚さんと議論しましたのでご覧ください。

公衆浴場の経営者に聞いたところ、これまでも女装した男性(性自認も男)が女風呂に入ってくる例が何年かに一度あったそうです。明らかに建造物侵入罪です。こうした犯罪行為を未然に防ぐためにも通知の意味はあると考えます。今回の通知は、都道府県や保健所設置市などを通じて公衆浴場の管理者に徹底されることになります。

女性スポーツの問題も考えておくべき

分野が異なりますが、欧米ではスポーツ界でも同様の議論が行われています。男性で生まれながらも女性への性転換手術を受けた人が女性の競技会に参加することを認めるかどうかという問題です。

元々男性の遺伝子を持つトランス女性が出場することで、努力を重ねてきた女性が無駄になってしまうという懸念が一部で現実のものとなっているようです。LGBT理解増進法が成立したばかりの日本において、そのような事態がすぐに起こるとは思えませんが、権利の衝突には早めに備えておくべきでしょう。

少数派の権利擁護は極めて重要。ただし…

LGBT理解増進法で「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意する」と漠然と多数派の理解に言及した点は、私自身は少数者への配慮が欠けていたと思っています。

特定の社会的身分や門地にある人々、女性、障害者などが、かつて多数派の理解が得られず少数者の権利保護が遅れてきた歴史を考えても、少数者の権利は多数派の理解に関わらず最優先で尊重されるべきです。ただし、少数者の権利保護が具体的な場面において女性の権利を著しく侵害する場合、例えば公衆浴場の安心な環境を乱す可能性がある場合には一定の制約が必要です。

私は法律に漠然とした文言を入れるより、管理要領の解釈通知で具体的なポイントを明確に示した方が当事者の理解も得られやすかったのではないかと思います。私自身、2ヶ月前から厚生労働省に対してこのような措置を取るべきだと主張していました。通知に関しては責任の一端を持つ者として今後の推移を注意深く確認していきたいと思います。

次回は最高裁判決の出たトイレの問題について考えてみたいと思います。こちらの問題は、またデリケートかつ複雑です。


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