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政治や選挙に関心がない人に投票行動を促すには


 投票率が低迷している、と言われて久しい。投票に行かない人が多いということだが、行かない理由も人それぞれで、
•       政治に関心がない
•       投票したい人がいない
•       投票所に行くのがめんどくさい
•       時間がない
•       行ったことがないのでどうすればいいのか分からない
•       投票したところで何も変わらない
などの理由が考えられる。

TTMの応用


 選挙に行かない市民に投票行動を促せるか。行動科学の理論・モデルの一つであるトランスセオレティカルモデル(Transtheoretical model:TTM)が応用可能かもしれない。TT Mは行動を説明するだけでなく、行動変容を促すための方略も明らかにしており、介入に応用した研究も多い。
TTMの4つの概念は下記のとおりである。
①行動変容ステージ
②意思決定バランス
③行動変容プロセス
④セルフエフィカシー
一つずつ説明していこう。

①行動変容ステージ
 人が行動を採択してから維持するまでの過程を、行動に対する準備性(レディネス)により、5つのステージに分けている。
前熟考(無関心)期:行動していないし行う意思もない
熟考(関心)期:行動していないが行う意思はある
準備期:たまに行動している(もしくは今すぐに行動する意思がある)
実行期:行動しているが6か月未満である
維持期:6か月以上定期的に行動している
 前熟考期や熟考期をまとめて「前期ステージ」、実行期や維持期をまとめて「後期ステージ」と呼ぶこともある。
選挙に関心がない人は、まさに「前熟考(無関心)期」であり、その先にステージを進めることができれば投票行動につながる可能性がある。

②意思決定バランス
「恩恵(利得):プロズ Pros」と「負担感(コスト):コンズ Cons」のバランスで、前期ステージでは負担感が、後期ステージでは恩恵の影響が大きいとされている。ゆえに、前期ステージでは負担感を減少させることでその先のステージに移行しやすくなり、後期ステージでは恩恵が増加したと感じられることで行動を継続することができ、前期ステージへの逆戻りを予防できるとされている。
 負担感を減少させることができれば、投票行動につながる可能性がありそうだ。

③行動変容プロセス
認知的プロセス(方略)と行動的プロセス(方略)があり、それを実行することでステージを移行できるとされている。
認知的プロセスには、意識の高揚・ドラマティックリリーフ・自己再評価・環境的再評価・社会的開放の5つがある。
行動的プロセスには、反射条件付け・援助関係・強化マネジメント・自己解放・刺激コントロールの5つがある。
 それぞれどのようなものなのかを表にまとめた。

 「意識の高揚」や「社会的開放」あたりが投票行動を促せそうだ。

④セルフエフィカシー
自己効力感。社会的認知理論(Bandura,1977)で提唱された「できる」という見込み感のこと。ステージが上昇するにしたがって増加する。
 セルフエフィカシーは実際に行動した結果、高まっていくので、まだ行動をしていない人には直接は関係がないかもしれない。

 TTMは、ステージマッチトアプローチ(行動変容ステージに合わせたアプローチ)を実施することで、行動変容ステージを次のステージ(初期から後期)へ移行させるとされている。「選挙に行かない人」=「前熟考期」の人に「投票行動」を促すには、
①負担感の減少
②意識の高揚
③社会的開放
あたりが効果が期待できそうだ。
 
①負担感の減少
 投票することのハードルを下げる。それには投票システムの改革が必要になる。わざわざ投票に行かなくてもショッピングモールなどの日常生活圏域に投票所を設けたり、選挙ハガキを持っていかなくても投票できたり、期日前投票を呼びかけたりしているが、最も効果的なのはインターネットを使った投票を可能にすることだろう。システム的には今の技術で実現可能だと思うので、なぜできない(していない)のかは分からないが、2025年くらいにはインターネットを使用した投票が当たり前の社会になっていることを願う。
 
②意識の高揚
 意識の高揚とは「行動に関する情報を収集し気づきを高める」こと。投票日や投票所の場所など、選挙に関する情報を広く伝えることができれば、気づきを高められる可能性がある。「選挙キャンペーン」がこれに当たる。2023年の広島県議会議員選挙では、広島県選挙管理委員会は「広島県議会議員選挙キャッチコピー(啓発標語)」を募集し、1,057作品の応募があったと発表した。

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/sennkyokannriiinkai/hyougo-kengi.html

 
 自発的な投票行動を促すには、まずは選挙に興味を持ってもらうことが重要と思われる。身近な人が立候補するなど、候補者を通じて政治や選挙への関心が高まれば投票行動を促すことができるかもしれないし、まずは投票に行くことで政治への関心が高まるかもしれない。

③社会的開放
 社会的開放とは「自分を取り巻く社会的環境がどのように変化しているかに気づくこと」である。投票率の高いスウェーデンでは、幼い頃から政治や選挙に関する教育が行われており、政治に参加すること、選挙に行くことが当たり前になっているそうだ。
 日本でも、幼い頃からの教育により、投票に行くのが当たり前、くらいの環境になれば、みんな選挙に行くようになるかもしれない。

おわりに


 制度や教育を変えることで投票率を上げる効果はありそうだが、時間がかかりそうだ。
 今できることは、とにかく選挙について、候補者について認知してもらうこと。
・いつ選挙があるのか、何を決める選挙なのかを知ってもらうこと
・期日前投票もあり投票券がなくても投票可能なこと
・誰が立候補しているか、どのような主義主張なのかを知ってもらうこと

一人でも多くの方々に投票所に足を運んでいただきたい。

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