山田洋次監督が描いたお正月の「しあわせ」
山田洋次監督の「寅さん」は誰もが知るお正月映画。今や昔の映画として、若い世代には、「寅さん」という単語すら通じないのかもしれないけど、知っている方の方がまだ多いと思っています。
良い歳のオジさんになると、「寅さん」の気持ちが分かる時があります。寅さんは綺麗な女性に恋をすることが多く、話の中盤で恋仲の女性と良い感じになることが多いんです。寅さんの先行きを心配する妹さくらは、常に兄の身を案じていて、「お兄ちゃんも幸せになって欲しい」と願いを他所に、寅さんは必ず、恋する女性と良い感じになった後、自らその場を去ってしまう性格です。それを「男はつらいよ」とのタイトルに詰め込んでいる、この作品はいつ見ても暖かい気持ちにしてくれます。
「それを言っちゃーおしまいよ」という決まり文句があり、寅さんと家族の珍道中が毎回面白い寅さんシリーズ。展開はいつも一緒。寅さんシリーズが好きな方は、多分この雰囲気というか空気感が好きなんだろうなーと思います。お互いに思い合っているんだけど、何かの拍子にボタンの掛け違いみたいにちょっとした気持ちのすれ違いがあって、喧嘩して少し冷却時間があって、また元に戻る、とっても人間臭いのが色々な人を虜にしているのかもしれません。
これが毎年のお正月映画できっとそれを楽しみに映画館に通った家族がどれだけいるかと思うと、この作品の偉大さに頭が下がります。
どこにでもある家族模様を描いた「寅さん」。ふと、近頃のお正月の過ごし方と照らし合わせて振り返ってみると、少し思うところがあり、今日はそんな話題。
コロナがあって、「密」から「疎」となり、無理に年末年始に帰省しなくても良いんじゃない?交通費も高いし、混むし、子どもがいたら仕方ないかもしれないけど、そこはもう少し柔軟でもよくない?そんなことを感じるこの頃、年末年始に無理に帰省しないで過ごす方もいらっしゃると思います。
確かに、年末年始って縁起を担いで、誰も新しい年は良い年にしたいし、悪いことは過去に一旦置いて、新規一転良い年にしよう!って思って、何かいつもしていた縁起を担いで、ルーティーンをつい守りたくなる、それはとても良くて、その中に変わらない何かがあって、それはそれでいいと思います。
他方、お正月からお仕事の人も多くいらっしゃいます。みんなが一斉に休むことは出来なくて、1月2日から初売りの職場に行く人や、お寺や神社でお迎えする人、コンビニや、介護、福祉、病院に関わるお仕事の方、みんなに同じく年末年始が訪れます。メディアや芸能の方もお休みはありません。
寅さん家族の年末年始はどうか?帝釈天の表参道にある団子屋さんはいつも大忙し。目まぐるしく、お客さんが訪れて、ある種、その忙しさが正月だったり、その忙しい団子屋の裏で年賀状が届いていて、その中の一枚に寅さんからの年賀状がある。「自分も無事に、今はここで働いているよ。みんな元気に過ごしているかい?」とのお決まりの短い手紙。だいたい寅さんシリーズのエンディングはその手紙のナレーションで終わることが多いんです。
これって、山田洋次さんが仕組んだ演出で、お正月に家族と過ごすことを描いているんですね。寅さん一家はあいにく、お仕事上、お正月は揃って過ごせないんです。寅さんだって稼ぎ時だから旅に出なくちゃいけないし、寅さん一家がゆっくりお節料理を食べているシーンなんて見たことないです。
じゃぁ、家族揃ってお正月過ごせないから寅さんご家族が不幸なのではなくて、むしろ幸せで、仕事しながらも忙しいお正月を送れることが寅さんにとっては幸せなんだと思います。
でもやっぱり、一緒にいたい時間や一緒の時間って大切。そんな風に自然に思えるようなエンディングを毎年、毎年、用意してくれた山田洋次監督、やっぱり素晴らしいですね。たいていの方は寅さん一家を通じて、自分の「家族」を少し思い浮かべるように作られていて、自然に人それぞれの「思い」に帰着させる、この寅さんシリーズは素晴らしいです。
今年の団子屋さんは繁盛したかな?
寅さんは今日もちゃんと稼げたかな?
寅さんを通じて、家族の年末年始を思う年末年始。
本日もご清聴ありがとうございました、本年もよろしくお願いいたします。