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選んでいるようで、選ばれている

先日、ある焼き鳥屋さんでのお話。いつもカウンターに座ると、お客さんを気にかけて、くだらない冗談を言ってくるマスター。この間なんか、「神社の集まりなのに、ジンジャーエール飲んでなかったな?」との冗談。一瞬、空気の止まるような瞬間もあるけど、次の瞬間にはカウンターは笑いのベールに包まれています。

焼き鳥屋は夏は入り口を網戸にしているので、その笑い声が店の外まで響き渡ります。赤い提灯が灯っている時には、笑い声が飛び出してくる焼き鳥屋さん。そこへ、たまたまマスターと二人だけの日がありました。

「この入り口はね、変なお客さんが来るとブザーが鳴るんだよ」「何それ、空港のゲートみたい(笑)」冗談で、そんな話を聞いたけど、いざよく聞き込んでみると、そこは結構本気でした。

何でも、マスターにとってカウンターのお客様が大切とのこと。良い雰囲気だと、初めてその日に会ったお客さん同士が会話をして、お互いに連絡先を交換して、「また、ここで会いましょう」なんてことも。逆に、カウンターに少し話好きな人が座ってしまうと、人の話題に入っていって、和を崩してしまうこともあるそう。

マスターがカウンターへ座るお客さんに気を付けていることは、そういった周りへの配慮があるかどうか、だと言う。基本は一人にせよ、複数にせよ、何かしら目的があって焼き鳥屋さんへ来ていて、たまたま近い空間
を共有し、せっかくのその場だから、よりそこを楽しくしよう、といったお客さんを歓迎するそう。で、そう言うお客さんを「選んでいる」とはっきりと言っていました。

そうか、お客さんは「この焼き鳥屋さんへ入ろう」ってお店を選んでいるようでも、実はマスターに「また来てね。」と選ばれているんだな、と。

「いやいや、こちらは客なんだから店はこちらが選ぶでしょ。」と思うけど、2度3度と足を運べるのは「選んでいただいている」部分もあるな、とマスターの話を聞いて思いました。

そして、この焼き鳥屋のカウンター。時に偶然の出会いが生まれ、それが人生を変える時があります。実は仕事のつながりがあった、とか。話の雰囲気が合ってプライベートで会うことになった、とか。無理やり、話を広げてしまうかもしれないですが、人生も人から選ばれて変わるものだな、とつくづく感じます。

仕事を選ぶ時だって、自営業で無ければ、雇い主に「この人はうちに合って、しっかり働いてもらえるかどうか」で選ばれている訳だし、自営業だって、「良い仕事をしてもらえるか」で選ばれています。どんなに、こちらが選んでいるんだ、と思っても、ほぼほぼ選ばれているから今の場所がある。のがほとんどなのでは?と思います。

焼き鳥屋さんで選ばれなくなると、「入り口でブザーが鳴るからね」と言ったマスター。優しい冗談だったけど、少し人生の本質に触れられる大事な入り口を教えてくれた気がします。

今日も赤い提灯から漏れてくる笑い声、まるでその声に揺らされているように、暖簾がゆらゆらと揺れていました。

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