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もう会うのやめよ、と彼女の背中に告げた。

7年ぶりに再会した元カノと終電を逃す。そんな夜から2ヶ月にわたって、身体の関係を続けてきた。そして昨日、僕は元カノと勝手に別れてきた。向こうはまだ続いてると思ってるのかもしれない。僕は彼女の背中に向かって、ぼそっと別れを告げただけであって、あくまで勝手に別れてきたからだ。


どうしてこんなことになったのか。



2ヶ月前、僕は夜中急に7年ぶりの元カノからラインをもらって会うことになった。

ふたりでバーに行って、お酒を飲む。7年の空白は埋まらなかったけれども、音楽も映画も小説もやっぱりお互い好きで、それを確かめられただけでも楽しかった。


「タクシー代出すから」


お店を出て、僕は元カノに言った。終電逃してうち来なよって言ったつもりだった。


いま思い出しても、あの瞬間はえろかったなって思う。7年ぶりに手を繋いで、なんだかお互いに初々しくて恥ずかしくてにやけた。

お察しの通り、うちに着くやすぐそういう感じの流れになるわけで、狭い狭い玄関でキスをした。酒の味のする甘い唾液を交わした。


元カノが家に泊まって朝に帰っていくまでの間に3回も、した。


7年ぶりに挿れた瞬間、気持ち良さで脳が溶けるかと思った。



元カノとワンナイトラブ――。そんな呆気ない結果に終わらなかったのは、7年を経て「え、うそ」ってレベルで体の相性が良くなってたからだ。


まさか元カノから「首絞めて」なんて言われると思ってなかった。


たぶん元カノも俺から「頬叩いていい?」って言われると思ってなかったと思うけど。


片手で元カノの両手首を掴んで頭の上らへんで押さえつける。もう片方の手で首を絞めたり、頬を叩いたりした。元カノは、どんどん濡れていった。



「彼氏とは、こういうことできないから」


元カノは言った。ずっと“こういうこと”ができる人を探していたらしい。


「まさかそれが元カレだったとはね……」と元カノは言う。


「俺もこういうのできる子探してたんだよね」


「また会おー」


と、そういうわけで僕と元カノは2ヶ月にわたってずるずると関係を続けていくことになる。



友達でもないけれど恋人でもない。じゃあ、セフレ? それもなんだか違う気がした。僕たちは元恋人であり、一度は本気で愛し合っている。


そして、本気で違うなってなって、別れたのだった。


7年前のあのころ、元カノは学生で僕を最優先に考えてくれていた。逆に、僕は仕事に追われていて恋愛どころじゃなかった。

「返信遅いの直してほしい」と、よく元カノに言われていた。

向こう的に僕は、ろくに連絡もしないで会っては必ず体を求めてくる彼氏だったんだと思う。それで嫌いになる子もいれば、逆に依存する子もいる。元カノは後者だった。

元カノはどんどん僕に依存して、「あれをやめてほしい」だの「もっとこうしてほしい」だの、僕をコントロールしようとしてきた。


それに耐えかねて、7年前、電話だったと思うけど、僕の方から別れを切り出したのだった。



7年ぶりに再会して、3回目に会ったとき、

「返信遅いの直してほしい」

と、元カノに言われた。

「いっしょにいるときスマホ触んないで」とも言われた。


自分が変わろうとするんじゃなくて、相手を変えようとする。元カノは7年前と変わっていなかった。


会うのを重ねていくと、さらに元カノはわがままになっていった。

僕も僕で不満をぶつけたりもした。

元カノは仕事の愚痴が多かった。その中には上司や同僚を貶めるような言葉も平気であり、それをやめてほしいと伝えた。

身体をくっつけているときは幸せだけど、離れたとたんお互いの嫌なところばかり目についた。

している最中だけが幸せで、お互いを大切に思えていたんだと思う。


付き合っていたころは喧嘩も多かったけれど、それでも幸せな時間は多かった。元カノはよく笑っていたし、いつも帰ってしまうのが名残惜しかった。

7年ぶりに会った元カノに対して、最初、またそんな楽しい関係に戻れたらいいなと思っていた。けど、そんな期待は呆気なく消えた。所詮は身体でしか繋がっておらず、ましてや割り切ったセフレでもないところが良くなかった。

「このあと会社行かないとだから」

そうして、僕は元カノをさっさと家に帰らせるための嘘をつくようになった。





そして昨日、元カノから「性欲を全面に出すのはやめてほしい」と言われた。


〈今日、ホテル行けそう?〉という僕のラインが良くなかったらしい。

元カノの言いたいことはわかるけど「今さら?」って思った。


7年ぶりに会って、ちょうどよくSとMで相性が良くて、ずるずる身体だけで繋がって、今さら? 目隠しして、喉奥突いて、首絞めして、ほっぺ叩いて、お腹を拳で押し当てながら挿入して、「彼氏いんのにこんなことしていいの?」って言葉責めして、「ごめんなさい」って言いながら下はどんどん濡れてってさ、



……今さら?



「浮気してるくせに何が『性欲全面に出すな』だよ」


絶対に言ったら傷つくだろうセリフが喉んとこまで上がってきたけど、言わずに耐えた。そんなことを言ってしまったら、あのころ――7年前の記憶まで暗い色に塗りつぶされる気がした。


恵比寿のD Jイベントで僕から声を掛けていっしょに踊ったこと。
渋谷のライブを見に行ったこと。
ライブを見ながら自然と手を繋いだこと。
その夜初めて部屋に入れたこと。
庭で花火したこと。
深夜にGUのパジャマで散歩したこと。
翌朝寝坊したこと。


元カノが「また近いうち会お」と言い残し、改札口に吸い込まれていく。その背中を見つめながら、「もう会うのやめよ」と僕は告げた。



――


読んでくれてありがとうございます。細貝です。


書いたらだいたいのことは気持ちに整理がつくんだけど、んー。身体の相性ほんと良かったからなぁ……(笑)

みなさんは、元恋人と沼った経験はありますか?


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細貝祐天
いつもありがとうございます。