漫才台本「息子さんをわたしにください」
想定:二十代女性コンビ
A わたし、このままやと幸せな結婚ができそうにないねん。そやから、美容整形することにしたわ。
B いきなり重めの告白やな。整形したからって、幸せな結婚ができるとは限らへんで。
A いや、今すぐ手を打たへんと、取り返しがつかへんから。
B そこまで言うなら止めへんけど、どんな風になりたいん? 人気アイドルと同じ顔とか、高望みはやめときや。
A そうやな、芸能人で言ったら、菅田将暉かな。
B すだまさき? え、あんた菅田将暉になりたいん?
A は? なんでわたしが菅田将暉になるん?
B いや、あんたが言うたんやん。幸せな結婚ができへんから、取り急ぎ整形するって。
A ちがうわ、整形するのはわたしのオトンや。わたしのどこ直すねん。
B あんたの幸せな結婚のために、なんでオトンがイケメン俳優顔になる必要があるん?
A こないだ、親戚のおばちゃんに言われてん。「女の子は、無意識に父親に似た人を結婚相手に選ぶもんやで」って。無意識にオトンと同じ顔選んでしまうんやで。怖すぎるやろ。そんなんと結婚したら、新婚初日からパンツ別々に洗濯せなあかんやん。
B それ、オトンのそっくりさんと結婚するっていう意味ちゃうで。女子は、父親の面影を彼氏に求めがちっていう話や。
A そうやったんか。おばちゃんが変な予言するから、焦って損したわ。
B 予言ちゃうやろ。ていうか、オトンのパンツ別に洗濯するって、あんたまだ思春期真っただ中みたいなことしてたんか。
A 人並みにきれい好きなだけやろ。毎朝、スムージー代わりにカエル丸飲みしてるあんたとは違うねん。
B するか。あんたが先に直さなあかんの、そういうとこやろ。
A 考えてみたら、わたし、結婚願望なんて全然なかったわ。大体、お笑いやってたら結婚なんか無理やし。
B そうかな? 家庭持ってる芸人さん、いっぱいいてはるやろ。
A いや、芸人は守りに入ったらあかんねん。旦那子供なんか、芸の邪魔になるだけや。
B 昭和の芸人か。あんたも、100%自分の理想の相手と出会ったら、結婚したいと思うやろ。
A うん、思う。
B 変わり身早いな。ちなみに、あんたの100%理想の相手ってどんな人なん?
A 大病院の院長の長男。めっちゃ付き合いたい。
B なんで資産家狙いやねん。昭和の芸人魂、どこいったんや。
A どっちにしても、たぶん結婚は無理やで。彼氏の親とうまく行かへんわ。
B そうかな。思いが伝わったら、認めてもらえるんちゃうか。
A ほな、あんたの彼氏が大病院の長男やとして、彼氏の実家に挨拶しに行ってみ。
B わかった。「こんにちは、初めまして、B子です。」
A いらっしゃい。A男の彼女さんね。初めまして、母です。今日は、保険証はお持ちで?
B 保険証? すみません。今日は持ってきてないんですけど。
A 冗談よ。今のは病院ジョーク。
B あ、なるほど。ハハハ。彼氏のお母さん、なんか思ってたのと違う。
A やあ、こんにちは。わたしがA男の父です。
B 初めまして。今日は、お招きありがとうございます。
A お話を聞く前に、まず血圧を測りましょうか。はい袖をめくって
B え? 袖をこう?
A なんてね、冗談だよ。ドクタージョーク。
B あ、ドクタージョーク、面白いですねー。お父さんも同じキャラなんかい。
A じゃあ、体温を測りましょうか。
B またあ、出た、ドクタージョーク!
A はい、ちょっとおでこ出して。ピッ(体温を測る仕草)
B あ、これはほんまなんや。こういうご時世やしな。
A(体温計のメモリを見て)はっ、すごい熱だ!
B え? 熱、あります?
A まずいぞ、これはすぐに医師の処置が必要だ。すみません、この中にお医者さまはいらっしゃいませんか? どなたかお医者さまは? あ、わたしが医者だった。ドクタージョーク!
B なんやねん、ドクタージョークて。家帰ったら、知恵熱出るわ。
A ところで、B子さんはお笑いをやっているそうだね。
B はい、コンビで漫才をやっています。
A わたしも、そろそろリタイアして、院長の椅子を、息子に譲ろうと思っているんだ。B子さんは、息子と結婚しても、お笑いを続けるつもりかな?
B わたし、お笑いが大好きなんです。たとえA男さんとの結婚が許されなくても、お笑いをやめるつもりはありません。勝手なこと言って、ごめんなさい。
A いや、謝る必要はないよ。これからも続けなさい。わたしも、昔からお笑いが大好きなんだ。
B そうなんですか? ありがとうございます!
A これでわたしも、心置きなく院長を退任できるよ。これからは、わたしと三人、トリオでお笑いをやっていこう。
B え、トリオってなんですか。お笑いやるって、お父さん、どういうセカンドライフ考えてはるんですか。
A さあ、トリオ結成記念に写真でも撮ろうじゃないか、母さん、カメラ取ってきて。はい、君はバリウム飲んでね。あっ、それは胃カメラか。ドクタージョーク!
B いやいやお父さん、そんなご機嫌になられても。なんなんこれ、こんなん、うまく行くわけないやん。
A な、だから言ったやろ、彼氏の親とはうまくいかへんねん。笑いの方向性が違うから。
B もういいわ。
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