漫才台本「行きつけのスナック」
想定:二十代男性コンビ
A 外でお酒飲む機会、増えたよね。
B 俺も、最近よく飲み会に誘われるよ。
A 知り合いと飲むのもいいけど、一人でふらっと、初めての店に入ってみるのもいいかなと思って。
B 新しい店を開拓するのか。いいね。
A せっかくだから、ちょっとハードルが高い店に挑戦してみたいんだ。
B ハードルが高い店? 政治家が密談する高級料亭とか?
A ハードル高すぎだろ。ふらっと入れるか。
B 確かに。まずは地元で地盤固めしないと。
A 政界出るつもりないから。
B じゃあ、マフィアが取引するバーとか、店の奥に闇カジノがあるクラブとか?
A 治安悪いな。そんなに店ふらっと入ったら、出てこれなくなるだろ。俺が言ってるのは、昭和のにおいが残る、古いスナックみたいな店だよ。
B 年配のママがいて、客が全員常連みたいな店な。確かに初めて入るのは勇気いるね。
A だから練習させて。俺、客やるから、おまえスナックの常連客な。
B わかった。やってみよう。
A こんなところにスナックあったんだ。レトロで雰囲気よさそうだな。思い切って入ってみよう。こんばんは。
B (Aに気づいて)お、おまえ新しい顔だな。初めてかい? こんな店にどうしたんだよ。まあこっちに座りな。
A そうそう、こういう感じ。(Bの隣に座りながら)いやー、前からこういう店に来てみたかったんです。そちらはここの常連さんで?
B そうかな、毎日来てるからね。ママ、この子にとりあえずビール。
A いいんですか。ありがとうございます。
B 気にするな。金払うのはあんただよ。
A うわ、初めての客が、常連にからかわれる感じ、昭和のスナックっぽいなー。
B 気に障ることがあったらごめんよ。俺、中学も出てねえからさ。
A 中学も? めちゃめちゃ苦労されてるんですね。
B それほどでねえよ。
A よかったら、お話聞かせてください。
B 聞かせる話なんてないよ。(遠い目で)振り返ると、やり残した宿題は多いけどな。
A うわーかっこいい! 先輩、一杯おごらせてください!
B 俺、酒は飲めねえんだ。すまねえな。
A 体でも壊されたんですか?
B(苦笑いしながら)ママから止められちゃって。
A じゃあ、この店にはママとおしゃべりしに?
B まあ、俺とママはあれだから。
A あー、そういう関係で。
B 今日は、いくらか都合してもらおうと。(人差し指と親指で丸を作りながら)
A ママにお小遣いせびりに来たんですか? 悪い男っすねー。
B (まんざらでもなさそうな顔で)そんな言い方するんじゃないよ。(カウンターに向かって)ばあば、俺にカルピス作って。
A カルピス? かわいいっすね、お客さん。
B ばあば、氷はいいから。
A ばあば、氷はいいですよー。
B そんなにお水入れちゃダメ。いつも濃いめって言ってるじゃん、ばあばー。
A ちょっと待て。
B なんで?
A ばあばってなんだよ。
B だから、俺のばあば。
A この店の常連だろ?
B 毎日来てるとは言ったけどな。
A 中学出てない苦労人って言ったよな。
B うん、俺、いま小三。
A 小学生かよ! なんで余計なキャラ足すんだよ。やり残した宿題がいっぱいあって、ママに小遣いせびりに来て? 完全に孫じゃねえか!
B そんなに怒るなよ、ママが孫の面倒見てるスナック、昭和っぽいだろ? ね、ばあば。
A うるさい、さっさと宿題やって寝ろ。俺は、昭和レトロなスナックで、大人の会話がしたいの。やりなおし。「お、こんなとこにスナックあったんだ。入ってみよ。こんばんはー。」
B あら? 新しい顔ね。初めて? わたしの隣に座ったら?
A 今度は女性か。いいんじゃない。そうなんですよー、常連さんですか?
B まあね。ママ、この子にとりあえずビール。
A はいはい、それって、俺の自腹っすよね?
B 何言ってるの、わたしのおごりよ。
A ありがとうございます。うれしいなあ。
B 若いねー、大学生?
A そんなに若く見えますか? けっこう前に卒業したんですけど。
B そっか、学生生活って楽しかった? わたし学校行ってないからさ―。
A これはどっちの「学校行ってない」だ? お姉さん、僕にお酒おごらせてもらえますか?
B やだ、わたしを酔わせてどうするつもり?
A よかったー、冗談が昭和っぽいー。そんなんじゃないですよー。
B ごめんね、からかって。君みたいな子が、あたしなんかに興味ないでしょ。
A そんなことないです。全然、ストライクゾーンです。
B どうだろ。(軽く右手を挙げて)ばあば、カルピス作ってー。
A やっぱりそっちじゃねえか。
B ばあば、ソーダで割ってね。氷ちょっと入れて。
A ばあばに手間かけさせるんじゃないよ。さっさと九九でも覚えて寝ろ。
B (首をかしげて)くく?
A 九九習ってないんかい。幼児園児か! 幼稚園児に「ストライクゾーンです」って宣言させたのか、おまえは。
B そんなに落ち込まないで。
A おまえのせいだろ。今度はちゃんとやれよ。「お、こんなところにスナックあったんだ。入ってみよ。こんばんはー。」
B 「……。」
A (Bに向かって会釈しながら)こんばんは?
B 「……。」
A 無口なお客さんかな?(そっと隣に座る)
B 「……」
A これはあれか?
B 「……」
A 最初が小学生で、次が幼稚園児だろ?
B 「……」
A 赤ちゃんか!
B 「……ニャー」
A ネコ! 人間ですらない! なんだよこの店。大人の常連客は、どこいったんだよ。
B 表の看板見なかったの?
A 看板?
B スナック「託児所」
A そんな店ないわ!
(了)
この台本を書くまでのいきさつはこちら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?