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あのころの私、CDだけが欲しかった。③

放課後、教室の私の机のカバンをかけるフックをご丁寧に折っている三人の男子を見た。

めちゃくちゃ楽しそうだった。 

あいつブスだしなーみたいなこと話してた。

彼らは教室の中のヒエラルキーの低い女子の机のフックを折る。そんなことに喜びを感じているようだった。

鞄がかけられないと地味に困る。

その困る姿を見て楽しむ。ブラジャーのホックを外す痴漢みたいな楽しみ方だ。

いつもは気配を消しているくせに。シンナーやってるヤンキーのあの子が来たらすうっといなくなるくせに。

私は中1にして、割と深刻ないじめに遭ってクラスの中でヒエラルキーは最下位だった。

割と今生きているのは私がラッキーだったからに過ぎないと思う。

最大のラッキーは両親が私のことを大切に思っていたこと、その両親に早い段階でいじめに遭っていることがバレたこと。

あの時わざわざ自宅に電話をかけてきたいじめっ子、グッジョブ。

命が取り留められたのはここが大きい。

でも、大切な人たちに自分が人からいじめられるような存在だと認知されることは苦痛以外のなにものでもなかった。


いじめには首謀者がいた。でも面白いことにいじめに遭っていると、まったく関係のない男子まで私の机のフックを折りに来たりするのだ。

私は編集さんにも映像記憶が弱いことをよく口にするけど、あの時フックを折っていた男子三人のニヤニヤとした嫌な笑顔はいつでも思い出せる。

それほど強烈に卑しい顔だった。

彼らの行動に傷ついたけれど、ロックじゃないなと思った。

くそだせえ。

そう思えたのは、きっとロックを聴いていたからだ。

ロックはもっと大きかったし、優しかった。なによりカッコ良かった。

中1の私は日曜日の深夜に山陽放送ラジオのサンデーベストを聴いた。

billboardチャートにのぼる音楽を聴いた。そしてハガキのリクエストで構成されるランキング。

90年代はハードロックとメタルの宝庫だったと言っていいと思う。私はハードロック派。

ハードロックに出会って救われていた。

自分の中でカッコいいとくそだせえが明確になった。

ハードロックと好きな洋楽を聞いている時、私は深々と呼吸ができ、とてつもなく自由だった。

私はサンデーベストにリクエストのハガキを送り続けた。

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