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あのころの私、CDだけが欲しかった。
自転車にまたがり家を飛び出すと大きく漕ぎ出していく。坂道をまっすぐおりていくと、すぐに広がる風景は田んぼの海だ。あぜ道とあぜ道の間の自転車道を切り割いていくように自転車をこぐ。
こんな田舎から、あのビッグスターが生まれたことがあの時も今も信じられない。
90年代だ。中学生の時に1番みんなが読んでいた漫画は幽遊白書。高校生になってスラムダンク。流川の耳にはいつもイヤホン。まだ自転車に乗ってイヤホンで音楽を聴くことは禁じられていなかった。
通学で自転車に乗る時、私の耳にはいつもイヤホンがねじ込まれていた。聞いていたのは洋楽。SONYのディスクマンに入れられていたCDはいつも洋楽。
アラニス・モリセット、ジョーン・オズボーン、シェリル・クロウ、オアシス、クイーン、Mr. Bigにファイヤーハウス、ボン・ジョヴィ、エアロスミス、Green Day、デュラン・デュラン、プライマル・スクリーム、パール・ジャム、ウィーザー、ベック、レニー・クラヴィッツ、絶対にレニー・クラヴィッツ。そして、エトセトラエトセトラ。
男だったらたぶん、ギターかベースを買っていた。どちらかと迫られたらベースだったと思う。
女だったからやらなかった。どうせやってもバンドを組む相手がいないのが目に見えていたから。そんなのやるだけつまらない。
だから、CDだけはせめてCDだけは欲しいものが欲しかった。
狭い田舎で、重たい制服を着て、根暗な性格とうんざりするほどの自意識の過剰さを抱えて、ちっとも自分を大事に思えなくて、息苦しさに窒息しそうな毎日。
音楽を聴いている時間は果てしなく自由だった。
化粧なんかしてる子が学校にほとんどいなかった。服なんて進学校で放課後は塾に行くからずっと制服だった。おしゃれな子だって沢山いたけど、私にはそのセンスがなかったから、どうでも良かった。
高校生の私はCDだけが欲しかった。大袈裟かもしれないけど、間違いなくそれが私の命を繋いでいた。
CDだけが欲しかった。
あのころの私、高校生の私に1番必要だったのは音楽だった。