書籍化は二児の母になった私がいまさら見ている夢だった。
7/24(水)創作大賞2023、光文社編集部賞、テレビ東京映像化賞受賞作の『私の死体を探してください。』が発売されます。
私が小説を書きはじめたのは忘れもしない31歳の時だ。
子どものころから本を読むのが大好きだった。本はいつもここではない世界が必ずあることを私に教えてくれた。私はそれにいつも救われていた。大学も好きが高じて文学部の国文学科に行った。でも、小説家というものは特別な人たちの職業だと考えていたから、卒論の原稿用紙100枚を書くのだってひいひい言っていた私は小説を書くことなんて一生ないだろうなあと思っていたのだ。
結婚して上の子を出産してすぐに東京から姫路に引っ越した。初めての育児と知らない土地での生活で毎日が目まぐるしかった。
数年が過ぎ、上の子が子ども園に通いはじめるようになって目まぐるしさが落ち着いた。なくなってしまった目まぐるしさのせいで心にぽっかり穴が空いてしまったのだと思う。その当時はまだKindleがなかった。もし、あの当時Kindle Unlimitedがあったら私は今も小説を書いていないかもしれないなあと思う。好きなだけKindleを読んでいただろうから。
あのころはガラケーにダウンロードできる小説は少なく、たまたま見つけたパピレスでハーレクイン小説を大量に読んでいた。かなり課金をしていて、今度は罪悪感が芽生えはじめ、他に何かないかなと探していてたどり着いたのがモバゲータウンの小説コーナー(現在のエブリスタ)だった。
色んな作品を読んだ。様々なクリエイターが思い思いに書いていた。上手い人もいればそうでもない人もいたけど、みんな、自分の物語を想いをこめて描いていた。その熱量にとても感動した。沢山読んでいるうちに私はひょっとして小説って私が書いてもいいんじゃないか? ということにようやく気づいた。
いざ書いてみたら10万文字のラブコメディが半年くらいで書けた。
初めて取り組んだことだったのに、ものすごく飽きっぽい性格なのに、なぜか書いていくうちに最後まで書き上げる自信がついていた。読者さまがいる。誰かが読んでいるというプレッシャーが私には合っていたようだった。次第にレビューがいただけるようになりますますモチベーションが上がった。
WEB小説家はストリートミュージシャンに近いものがあると思う。誰も聴く人がいないところからはじめて、音楽と歌声で人を集めていくストリートミュージシャン。
読者ゼロからはじめて同じ場所で同じ時間に更新していくうちに次第に読者さまが集まるようになるWEB小説。
ブックマークが1万件を超えた時のあのゾクゾクした興奮には中毒性もあった。
私を育ててくれたのは、間違いなくWEBで読んでくれた読者さまで、諦めようとしても呼び戻してくれたのも読者さまだった。
「WEB小説なんて、底辺なんだから、もっと上を目指さないと」
こんなことを言われたこともあったけど、私はWEB小説家であることを誇りに思っている。読者さまに育てていただいたことを誇りに思っているのだ。読者さまがいたから書き続けることができた。だから、できたらずっと投稿していたエブリスタで書籍化したいと邁進していた。
そして、その夢は叶った。2017年『三毛猫カフェ トリコロール』という作品でデビューした。しかしながら、続編のお話はいただけなかった。
書籍化してすぐに家庭の事情で書けなくなった。私が物語を紡ぐためには集中力とぼんやりする時間のふたつが必須なのだが、そのふたつの両方がなくなるような事情だった。
どうにもならない。小説を最優先にできる環境ではないのだから仕方がない。ほとんど諦めていた。
けれど、その時も連載中の小説に毎日スター(noteでいうところのスキです)を投げ続けてくれた読者さまがいた。
この方は私の更新を待ってくださっている。それが私の心の灯台になっていた。いつか、いつかまた書こうと思えた。
どうにか書くことを再開しはじめたころに第1回エブリスタ✖️竹書房最恐小説大賞を受賞した。
私はいつも諦めようとしても、読者さまがはげましてくれ、さらには新しいチャンスがめぐってくる。本当にありがたいことだ。
書き続けるしかないんだ、そして、新しい挑戦をし続けるしかないんだと思った。
創作大賞2023への応募は新しい挑戦だった。noteのアカウントは時々エッセイを書く程度だったのでフォロワーも少なく、沢山スキをいただける自信もなかった。
けれども更新を続けていくうちに、エブリスタから来てくださった読者さまだけでなく、noteの読者さまから徐々にスキをいただけた。これだけでも大収穫だと思っていた。
中間選考で『私の死体を探してください。』のタイトルを確認した時、ああ見つけていただけた。これも読者さまのおかげだと思った。
作品は星の数ほどある。その中で見つけてくださってありがとう。読んでくださってありがとう。その思いでいっぱいだった。
ありがたいことに光文社編集部賞とテレビ東京映像化賞をいただいた。
『ヴンダーカンマー』から4年ぶりに3冊目の本を出せることになった。
欲張りだと言われてしまうかもしれないけれど、できたら次はもう少し早いサイクルで4冊目、5冊目を出したい。
それはこの作品の売れ行きにかかっていると思う。
『私の死体を探してください。』7/24発売予定です。単行本ですので全国の書店さますべてには行き渡りません。ご予約いただけたら幸いです。