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わたなべあやこ、状況散文。

ふと数ヶ月前の記憶が蘇ったら、さみしさみたいなものが押し寄せてきた。
気分が変わることをしたくなって、張ってもらったままの弦をはずして、たどたどしくはりかえる。そうしたら、なんと!弾きやすい。音も軽やか。指が痛くならないから、弾きたかった曲のコードをとって、どんどんコピーできる。そうか、もらったものは、大事にとっておくのでなくて、自分で使わなければいけなかった。

そんな折、会いたい人からの返信には、すごく昔のタイの思い出が丁寧にしたためられていて、私が淡く期待した返事とは違っていたのだけれど、それ以上に充ち足りた気持ちになった。ホシヨルのみんなが貸してくれたガイドブックと照らし合わせて、異国の空気の中でそれぞれのことを思いたいよ。タイに行くのは、たった3日だけどね。

昼、営業前に、オーダーのはんこ4つを全部仕上げたら、予定より1時間早かったので、店から飛び出した。外を歩いて、買わなくていいTシャツを1枚買ったら、まとまらなかった10月の展示のためのアイデアがムクムク湧いてきた。いますぐ作り始めたい、ソワソワウキウキとした気持ちが心を占める。そうだ、明日はそれをしよう。器用を装っても、集中できることは限られている。スイッチを入れる方法は、スイッチを切ることから始まるな、と思う。

そういえば、弦の張替え方も、必ず、前の弦をはずすところから書いてあった。

使ったらなくなってしまうような気がして、開封できなかった頂き物の弦は、使わなければないのと同じだった。楽しかった過去が今はないという実感とともに訪れた「さみしさみたいなやつ」は、弦の実体が、その性能によって追い払ってくれた。弦は玉手箱だった。失った時間と相応に歳をとったけど、そこには幸せが入っていた。

10月の展示のテーマは、音楽。
この玉手箱が見せてくれているものを糧に、私は、作品を、作ろうと思う。

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