「ダスカロスの教え」と「東洋医学」を融合させる試み(8)
はじめに
第8回 ~ 第13回は以下に分け、「臓腑の生理機能」、「十二経脈の走行」、「経穴」について書いてゆきます。
WHOが公式に認めている「経穴」の数は361個あり、英語名の “経脈” と合わせて以下のように略号化されています。
「経穴」に関しては、要穴 および “経脈”の走行を覚えるのに必要なものだけに絞ります。略号の数字をみれば、紹介を端折った経穴の数がどのくらいあるか? わかると思います。
手の太陰肺経
“肺” の生理機能
“太陰肺経” の走行
「太陰肺経」は「中焦」から起こり、「大腸」(太陽神経叢)に下って反転し、「胃」を廻って横隔膜を抜け、「肺」に入って前胸部から体表に出ます。これが、全身に “気”(エーテル・バイタリティー)を廻らせる “十二経脈” の始まりです。
「中焦」の「脾」と「胃」が生成した “血” と “津液” はまず「肺」に送られ、そこで “宗気” を得て全身を廻る……という流れは感覚的によくわかります。そして、「肺」と表裏の関係にある「大腸」は、“気” の貯蔵庫である “太陽神経叢” と関係が深いと Noel はみています。ヘソを中心にぐるっと円を描く「大腸」を、“太陽神経叢” の外周部とみてもいいのではないでしょうか?
【メモ】 “デルマトーム” について
「デルマトーム」(皮膚分節)とは、脊髄(中枢神経)から伸びる31対の末梢神経のうち、「皮膚感覚」(触覚、痛覚、温度覚)を支配する 求心性神経(知覚神経)の分布領域を示したものです。
“皮膚感覚” と “気” には密接な関係性があります。
肉体の “気” を感受し動かす “感覚エーテル” と “運動エーテル” は “皮膚感覚” と同調しています。なので、末梢(皮膚)から中枢(脊髄、脳)へ感覚を伝える「皮枝」(ひし、皮膚に分布する求心性神経)を認識しておくことは重要です。
“太陰肺経” のデルマトーム
「太陰肺経」は主に「C6」が支配する領域を走行します。
「太陰肺経」の「列穴」が首のコリによく効くのは、「列穴」と「C6」との間に神経的な連絡があるからではないでしょうか?
“太陰肺経” の経穴
【LU1 中府=肺の募穴/皮枝はC4】
体表面における「太陰肺経」のスタート地点は「中府」(ちゅうふ)です。
「中府」を取穴するときの目印が「烏口突起」で、そこは 小胸筋 の 停止(ていし、筋肉の腱が付着する骨の部位でよく動く方)部であり、上腕二頭筋(短頭)の起始(きし) 部でもあります。
「中府」の周辺を撫でてほぐすと呼吸が楽になり、猫背や巻き肩の改善になりますよ (*^^)v
【中府 → 尺沢】
「中府」から烏口突起の上に行き、上腕二頭筋長頭(力こぶ)の外縁(親指側のほう)を肘に向かって走行します。
【LU5 尺沢=肺経の合穴/皮枝はC6】
肘を曲げると上腕二頭筋腱が浮き出て、陥凹部がわかりやすくなります。
【LU6 孔最=肺経の郄穴/皮枝はC6】
腕橈骨筋 はビールジョッキを持ち上げるときに働くので、“Beer Muscle” と呼ばれます。デスクワークやスマホ操作などが長いひとは、腕橈骨筋がこわばっていることが多いので「孔最」や、後半部で紹介する「陽明大腸経」の「陽渓」(ようけい)から「曲池」(きょくち)の経脈をほぐすと楽になります。
【LU7 列欠=肺経の絡穴、四総穴、八総穴 /皮枝はC6】
「頭項は列欠に尋ねる」といわれる通り、「列欠」は頭や首の凝りや痛みによく効きます(注:押し過ぎは逆効果)。
【LU8 経渠=肺経の経穴/皮枝はC5~C7】
【LU9 太淵=肺の原穴、肺経の兪穴、八会穴の脈会/皮枝はC5~C7】
「太淵」の直下にある橈骨動脈はごく浅く、下に骨があるので “脈” を取るのに適した部位です。「脈診」(みゃくしん)はここを使います。
【LU10 魚際=肺経の榮穴/C5~T1】
【LU11 少商=肺経の井穴/皮枝はC5~T1】
【陽明大腸経への連絡】
「太陰肺経」の流れが「列欠」で分岐し、人差し指に向かうことで「陽明大腸経」につながります。
手の陽明大腸経
“大腸” の生理機能
“陽明大腸経” の走行
「腸」は、「第二の脳」と呼ばれるほど重要な臓器です。
「腸」は「脳」(ヘッド・センター)とダイレクトにつながった “臓”(エーテル・センター)なのです。
「陽明大腸経」の左右の経脈が「人中」で交差することも、「脳」との関係性をうかがわせます。骨格筋を動かす運動神経(遠心性神経)は 延髄 で交叉し(錐体交叉)、左大脳の指令は右半身へ、右大脳の指令は左半身へ向かいます。
で、この錐体交叉のおきる延髄は、「人中」と同じ高さにあるのです。
この部位は、肉体の「シンボル・オブ・ライフ」(ダスカロスの教え)における「第3の十字架」の位置です(注:場所は延髄ではなく小脳とされています)。
“陽明大腸経” のデルマトーム、“脳神経” 支配
「デルマトーム」をみると、「陽明大腸経」が走行する領域の皮膚感覚は、C3~C7の脊髄神経が支配します。
「陽明大腸経」は顔面も走行します。顔面部の感覚は、三叉神経(12対ある「脳神経」のひとつ)が支配しています。
表情筋や眼球の運動、視覚、聴覚、味覚、嗅覚も「脳神経」 支配です。骨格筋にも「脳神経」支配のものがあります。胸鎖乳突筋 と 僧帽筋 は第Ⅺ脳神経の副神経(求心性の感覚神経ではなく遠心性の運動神経)支配です。
胸鎖乳突筋と僧帽筋は相互に影響しあっているので、胸鎖乳突筋が悪くなると僧帽筋も悪くなります。首や肩のコリや痛みには大体この2つの筋肉が関係しています。
胸鎖乳突筋の周辺や僧帽筋の上を走行する経脈は、すべて「陽経」です。
首、肩、背中の痛みやコリには、「陽経」への刺激が効きます。
“陽明大腸経” の経穴
【LI1 商陽=大腸経の井穴/皮枝はC7】
「陽明大腸経」の経穴は「下の歯の痛み」に効くとされます。ちなみに「上の歯の痛み」に効くのは「陽明胃経」です。歯はしばらく悪くなってないので試してないですが、“気” の流れを追うと確かにそんな感じですね。
【LI2 ニ間=大腸経の榮穴/皮枝はC5~T1】
【LI3 三間=大腸経の兪穴/皮枝はC5~T1】
【LI4 合谷=大腸の原穴、四総穴 /皮枝はC5~T1】
「面口は合谷に収む」といわれる通り、大腸の原穴「合谷」は顔面部の疾患の特効穴です。
【LI5 陽渓=大腸経の経穴/皮枝はC6】
【陽渓 → 曲池】
「陽渓」から肘の「曲池」までは以下の部位を通ります。
「陽渓」から 橈骨 に沿って 腕橈骨筋 の縁の溝をなぞり、指が止まる凹みが「曲池」です。肘を曲げると腕橈骨筋が蝕知しやすくなります。
【LI11 曲池=大腸経の合穴/皮枝はC6】
「曲池」は腕の疲れや痛みを取るのによいだけでなく、心身の緊張を和らげるのにも使えます。同じような効果が「合谷」にもあります。
【曲池 → 肩髃】
「曲池」から「肩髃」(けんぐう)は、まず上腕骨に沿って肩に向かい、三角筋 と上腕骨の付着部から三角筋の上を通り、肩関節の上に行きます。
【LI15 肩髃/皮枝はC4】
【LI16 巨骨/皮枝はC4】
肩峰は、肩に指先を置いて腕をグルグル回すとわかります。上腕骨頭は動きますが、肩峰は動きません。
【巨骨 → 督脈の大椎 → 陽明胃経の欠盆 → 天鼎】
「巨骨」からまず 督脈 の「大椎」(だいつい)に行き、そこから前胸部に向かって鎖骨の凹み(鎖骨上窩)にある 陽明胃経 の「欠盆」(けつぼん、正中線から4寸)に抜けます。
臓器の「肺」の最上部は、鎖骨よりも上にあることを覚えておいてください。「欠盆」は「肺」を刺激する経穴です。
この「欠盆」から経脈は2手に分かれます。ひとつは「肺」を通って「大腸」に入り、もうひとつは首にある「天鼎」(てんてい)に向かいます。
【LI17 天鼎/皮枝はC3】
「陽明大腸経」は「天鼎」(てんてい)から下顎に入り、「口」を巡って「人中」で交叉して「禾髎」(かりょう)に至ります。この「天鼎」から「禾髎」のルートは、“十二経脈” の中で唯一「左右の交叉」がみられるポイントです。
【禾髎/皮枝はV2(上顎神経 =三叉神経の第二枝)】
【迎香/皮枝はV2(上顎神経=三叉神経の第二枝)】
上顎神経は、目の下、頬、上唇、上顎の口腔内の感覚を支配する神経です。「禾髎」と「迎香」は鼻づまり、嗅覚障害、蓄膿症、耳の詰まった感じなどに効果を発揮します。
【陽明胃経への連絡】
「迎香」からは鼻梁に沿って目頭まで上がり、つぎの「陽明胃経」の最初の経穴「承泣」(しょうきゅう)につながります。
つづく