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バスケはやっぱり面白い

私たちの学校では、月一回、第二or第三月曜日に特別な取り組み「チャレンジデー」なるものが行われる。

その日の午後、生徒には2時間の自由時間が与えられる。
その時間を、生徒は自由に使うことができる、というものだ。

例えば、カラオケ大会を開いたり、カードゲームをしたり、お菓子作りをしたり…それぞれの興味に合わせて、したいことができる。
私はこの「チャレンジデー」が好きだ。


今日はその「チャレンジデー」。
私は、クラスメイトが企画していた「体育館でバスケットボール」に参加することにした。

この「チャレンジデー」も、今回で最後だ。私たちは、あと少しで卒業するのだから。
そんなわけで、「せっかくなら、この取り組みの時間を使って、クラスメイトと良い思い出を作っておきたいなぁ」と思い、バスケに参加したのだ。


体育館に足を踏み入れる。既にクラスメイトが数人来ていて、シュート練習をしていた。
入口に最も近いゴールを使っているのは、元女子バスケットボール部のキャプテンであるクラスメイトだ。
バスケットボールが彼女の両手を離れ、美しい弧を描き、ゴールへと吸い込まれていく。とても上手だ。

その近くに、存在感のある生徒がいた。元男子バスケットボール部のキャプテンだったクラスメイトだ。
(冷静に考えて、男女バスケ部のキャプテンが、二人とも同じクラスにいるってすごいことだな)

彼は、彼女がシュートを決めたのを見届けると、自身もボールを構えた。ダン、ダン、とドリブルの良い音を立てながら、ゴール下まで近づいていく。
ゴールまであと数歩というところで、ステップを踏む。1,2,3のリズムで、ゴールへと近づいたところで、ボールをフワッと優しく放つ。ボールは重力に負けて、ゴールネットの中へ落ちていく。いわゆる”レイアップシュート”だ。
バスケ部の手さばきは、やっぱり違うなぁ…
見とれることしかできない。

私も、彼らのそばに置いてあった、バスケットボールが乱雑に入ったカゴから、固そうなのを一つ取った。
ダン、ダン、と手になじませるようにドリブルする。
バスケは久しぶりだから、試合で足引っ張らないようにしないと。


10分ほど経つと、参加するメンバーが全員集合した。
クラスのリーダー格な女子が、集まった13人をテキパキとチーム分けしていく。
私は、先ほどの「元キャプテンの男子」と同じチームになった。

試合前の準備時間。体育館の壁にもたれて、水を飲んだ。
集まったメンバーを眺めながら、私はかなり湿っぽいことを考えた。
今回集まったメンバーは、”the・陽キャ”という感じの人ばかりだ。インスタヘビーユーザーで、深夜までLINE通話しているような、声が大きい人々の集まり…。
そんな中に、私がいていいのか…?バスケがしたくて来たものの、陰キャは陽キャの波に溺れるだけなのでは…?
この2時間、楽しめるかなぁ…
段々と不安になってきた。


第一戦目が始まる。
バスケは最初、中央でそれぞれのチームの一人がジャンプして、高く上がったボールを空中ではじくところからスタートする。
ボールが高く上がる。味方と敵が同時に高くジャンプする。…今回は、見事にボールが味方の手に渡った!
―ダダダダダ、スッ、…パスッ。
いきなり、例の元キャプテン男子が華麗なボールさばきを見せながら、得点を奪った。

・・・すごい。
彼はボールを股の間にくぐらせたり、背中側でついたりして、敵の動きを鈍らせる。そして隙を突いて、一気に突進する。その瞬間から、ドリブルが激しく、強くなる。体育館中にダンッ、ダンッという音が響き渡る。
閃光のように敵の合間をくぐり抜け、あっという間にゴールへと辿り着き、得点するのだ。

パス無しで、あれだけいる敵をかわせるのか…
驚きしか無かった。

そう考えている間に、敵は反撃を始めていた。息の合ったチームワークで、的確にパスをつないで、ボールをゴールまで持っていく。すぐに同点になった。互角の勝負…徐々に私の心もワクワクしていった。

あっという間に試合が終わった。この試合、チームは見事勝利することができた!例の男子による功績が大きい。感謝しかない。


テンションが上がった我々は、そのまま2試合目に突入した。体がほぐれたからか、みんな1試合目よりも動きが良い気がする。

「はい!」いきなり、鋭いパスが私の胸元めがけて飛んできた。両手でそれを受け止める。
ボールをダン、ダンとドリブルしながら、頑張って敵をかわしていく。足が遅いから、上手とは言えないが。
ゴールは目の前、そして敵も目の前だ。シュートを妨害しようと、ジャンプして経路をふさいでいる。
タイミングを見極めて…ボールを放つ!

ゆるゆると回転がかかったボールが、私の手から飛び立つ。
ボールは優しい弧を描いて。
スッ…と、ゴールネットを抜けた。

「わー‼」「ナイッシュー(ナイスシュート、の略)」「やっぱほしうみさんすごいっすわ」「ナイス―!」
この間1秒。背中から飛び交う称賛の声が、一瞬を永遠のように感じさせた。


私は、小学4年生の時、1年間バスケ部に所属していたことがある。
その1年間は、私に様々な気づきや学びを与えてくれた。体力もついた。
―ただ、いい思い出ばかりではなかった。純粋に、私は弱かった。試合中はボールが思った方向へ行かないし、鋭くパスを回せないし、シュートも外すし…。超負けず嫌いな性格が発動したせいで、試合の後は、毎回水飲み場で泣いていた。

だから、卒部の時に「バスケはもういいかな…」と思った。
中学校でも、バスケ部ではなく硬式テニス部に入った。何となくバスケと距離を置いていたのだ。


「ディフェンスに切り替えるぞー」「あの人誰かディフェンスしてー」
バスケは展開が速い。攻守入れ替わり、すぐに意識を切り替える仲間の声を聞きながら、私は興奮の中にいた。
・・・今、シュートが決まった。仲間があらん限りの称賛をくれた。得点を手に入れた。この高揚感…

めっちゃ気持ちいい!!!!

この時私は、約6年ぶりにバスケの面白さを心で理解できたのだ。


その後も、たくさん試合をした。途中で担任の先生もやって来たので、先生を混ぜてバスケをした。途中、息抜きにドッジボールや鬼ごっこをした。

試合中、私はずっと笑っていたように思う。
こんなに心から笑ったのは、久しぶりかもしれない。


2時間はあっという間に過ぎていった。
帰り道、空を見上げながら、夢のように楽しかった時間を振り返る。

今日はすごく楽しかったな。最初は「陽キャさん達のバスケに混ざっていいのかな…楽しめるのかな…」なんて不安を感じていたけどさ。バスケしているうちに、男女も性格も関係なく、みんなでぶち上がることができた。自分自身の暗い気持ちを吹き飛ばすくらい、強力なパワーにぶつかった感じが、まだ消えずに残っているなぁ。

…スポーツをするだけで、心はこんなにも色んなことを感じ、そして明るくなるものなんだな…。
今日バスケをしたことで、気分がポジティブになった気がする。

USJのCMで「NO LIMIT!」「ぶっとべ!ここは超元気特区」とか言ってるけど。
USJのチケットを買わなくても、私にはスポーツがある。
1つのボールと仲間がいれば、USJに行かなくても、いつでも自分自身を開放して、超元気になれるんだ。
スポーツフィールドそのものが「超元気特区」だな。


雲一つない青い青い空を、白い飛行機が横断していく。
―今日は、なかなか楽しい一日だったな。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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