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ここがすごいよチャイナダンナ

チャイナダンナこと、うちのヤンくん。
友達の友達の紹介で出会った深セン在住のITプログラマー。年下で、留学も海外就労もしたことないのになぜか英語を話す。

駅前の英会話スクールに通って、海外ドラマをずっと見てたら話せるようになったよ

初めてのデートでニコニコと話してくれた。それがホントだったら私にはもったいないハイスペックさだけど。

日本が大好きで、東京、大阪、神戸、沖縄に行ったことがあるって。私より日本旅行してるな、すごい。

日本社会と日本人を拒否しまくってる私は「日本っていいよね〜」とヤンくんに言ってもらえると、そうか、いいところなんだな、と素直に嬉しい。

深センの人気スポットに連れていってくれて、歩いたりコーヒーを飲んで自分のことや日本旅行の思い出を話してくれた。

この人に好きになってもらえたら幸せだろうなと願った瞬間を、今でも鮮明に思い出す。その願いは翌週にあっさり叶って、それから同棲、婚約、結婚の手続き準備中の現在に至る。

トントン拍子とはまさにこういうこと?

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あきらめずにしぶとく生きててよかった。
大好きな歌のワンフレーズが今日も脳内エンドレスリピート。

♪〜 
今まであたしがしてきたこと間違いじゃないとは言い切れない
ケドあなたと逢えたことで全て報われた気がするよ
美味しいものを食べに行こう。それからお茶して、映画を観よう
今日は休みだから大掃除をしよう! オレはバスルームのタイルを磨いてぴかぴかにするから、ゆきのは座ってスマホでも見ながらゆっくりしてて
ふたりのこと、真剣に考えているからね。遊びなんかじゃないからね

知らない街で生活を始めて、ろくに言葉もわからない私に、ヤンくんはたくさんの場所を教えてくれて、美味しい食事を食べさせてくれて、大切にしてくれる。

中国男子はマメで優しくて、家事までやってくれると噂に聞いていたけど本当なんだな。
三歩下がってついてこい、なんつー九州男児の古くささが頭に残るアラサー九州女は、外でも家でも働き者のヤンくんの姿に感動しっぱなしだった。

日本語はゼロだけど「勉強しなきゃね!」と素晴らしい意気込みを見せるヤンくん。でもテキストはなかなか進まない。
にんげんだもの。隙があるというか、こういうムラがあって全然完璧じゃないところも好きだ。

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そんな生活がずっと続くといいなと、また願った。
1年以上経ってもあいかわらず、ヤンくんはニコニコしながら外でも家でもよく働く。

幸せは続いている。

でも最初に比べるとなにかが違う。

時間とともにゆっくりと、でも確実に変化している。

恋は盲目という、脳内幸せホルモンの分泌が減ってきて見えなかったものが見えるようになったのか。
ヤンくんか私か、もしくは2人とも変わってしまったのか。

笑顔で満ち溢れた日々から、思わず吹き出してしまうコントみたいな日常へ。

今回は、そんな渾身のチャイナダンナストーリーをお届けしたい。

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1 あふれる自信

ヤンくんは基本的におとなしくてシャイ。穏やかな話し方で、ずっとニコニコしてる。
ただ、たまにのぞく中国人らしさ。内なる自信が突然にょきっと顔を出す。

とある週末に出かけたタイ料理屋でトムヤムクンをすすりながら、珍しく不機嫌そうなヤンくんが言った。

あの上司はおれのことが気に入らないんだ。おれの才能に嫉妬しているからね!

予想外の一言に、口に含んだ独特のすっぱいスープが飛び出しそうになった。お、おお、すごい自信だ。

そうなんだ、大変だね、と言いながら心の中では動揺していた。仕事では闘争心があるんだな、この人。
これが中国人のメンツというやつだろうか。

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人口14億人を有するこの超大国では、人々は常に競争を強いられている。
子どもの受験戦争はハードだし、会社に入ってからも出世争いや転職でキャリアアップを常に考えているか、起業して自分でビジネスをやりたい野心あふれる人ばかりだ。

隣の人に勝つ、クラスやグループの中で一番になる、誰よりも早く出世するために勝ち続ける。
中国での生活には勝ち負けの意識があって、勝てば勝つほど自信がつくみたい。勝てばまたすぐ次の競争がはじまる、熾烈な世界で生きているヤンくん。

日本人でいうところの草食系男子みたいな人だと思っていたのに、意外な一面を知った。
一緒に過ごす時間が増えるにつれて、その一面はよく現れた。

ゆきのは中国語勉強しなくていいよ、おれが英語話せるからね! 必要なときはいつでも通訳するから言ってね

自信たっぷりにそう宣言してくれたことがあった。頼れるパートナーがいて心強いな、ありがとう。

そしていざ役所での手続きとか電話で確認とか、実際に任せようとすると「いそがしい、つかれてる、また今度」と放置されることが何回か。結局、翻訳アプリをお供に自分でやることに。

ものすごい自信であふれているヤンくんを見て、羨ましいなと思うことがよくある。

みんなで仲良く、争いはやめましょう、謙虚がいちばん。

和をもって尊しとなす教育で完成した日本人の私には、なかなか自信が芽生えてくれない。
ちょっとうまくいかないことがあれば「やっぱり私はダメなんだな」とすぐにしょげる自己肯定感の低さ。

大丈夫! オレがずっと一緒なんだから!

覚えたばかりの日本語で「でえじょぶ!」と江戸っ子みたいな発音で励ましてくれる自信満々のヤンくん。

でえじょぶ、なのかもしれないな。ドンと胸をはって笑顔で返してくれるとそう思えるから不思議だ。
太陽の光みたいにあふれる自信をさんさんと浴びて、私の自信もいつか芽が出ますように。

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2 言いたいことから言う

Wechatで、ゆきのの写真をいちばん最初に見た時「ブスだなー」って思ったの! それが第一印象!
あの写真は今でも「ないわ〜」って思うよね〜

普段はさっぱりしていてこだわりがない性格のヤンくんなのに、このくだりだけはとてもしつこい。
いくら私が自分のビジュアルに無頓着とはいえ、ケラケラと笑いながら何度も言われると、さすがにこちらも腹が立つ。

あのねー! そういうことは言わないの!
だって事実だもん

たまに叱ってみても、小学生みたいな幼稚な会話になって、根本的解決に至らないので最近はあきらめ気味だ。中国女子というか私以外の全女性にこんなこと言い続けていたらいつかホント刺されると思う。
いっそどこかで一度刺されかかってきてくれないだろうか。自分の手は汚したくない。

ヤンくんは優しい。でもそれはきっと、ヤンくんの頭の中で想像する優しさを私に提供してくれているんだろう。
相手の立場に立って考えてみるとか、思いやりとか、そういうのとはちょっと違う気がする。
それを言ったら、受け取った相手がどう感じるかみたいな、他者視点の配慮がないのだ。

ヤンくんは私のことが大好き、というのはひしひと感じる。感謝している。
それと同時に、私のことブスだなーと思ってることもあからさまに伝わってきて、そのドストレートさがいっそ愛おしい。

個人的にヤンくんあるあるエピソードTOP3にランクインするエピソードをここでご紹介したい。

写真撮影が趣味のヤンくんは、SONYのバカでかいレンズがついた高級カメラで人物を撮るのが好きだそうだ。風景より人物、特に女の子を被写体にするんだって。

付き合ったばかりのお互い浮かれきっているフェーズで「写真撮りにでかけようよ! ゆきのを撮ってあげるから!」と朝からノリノリだったヤンくん。ゆきのは撮られたくないんだけどなあ、と思いながらもリクエストに応えようと一念発起して一緒に出かけた。

インスタ映えで有名なスポットに到着、広場の中央で厳しいポージング指導が入る。

足をクロスして!
体を傾けて! もっと! 角度をつけて!

バカでかいレンズをこちらへ向けてバシャバシャ撮影。
自然体ゼロでポーズをとらされるのは恥ずかしいなと思って周りを見ると、みんな似たような、というか堂々と個々の撮影大会を繰り広げていた。私、地味なほうだった。

目線は遠くへ! いいね! 今度は目線こっち!

ふう、と一息ついて満足したのか、撮影したものを画面でチェックするヤンくん。
眉間にシワをよせて、むむむっと仕上がりチェック。そしてぽつりと一言。

ごめん、おれの写真の腕がまだまだだわ。

と仕上がりに大変ご不満な様子。
こんなにも可愛く撮れないなんて…とガチで落ち込んでいる。

ブスでごめんなー、とガチで申し訳ない気持ちでいっぱいになる私。

それからもカフェや旅先で撮影会を実施してくれるものの、今回もダメだ、とヤン巨匠は頭を抱えている。

この人、わたしのことホントに大好きで、ホントにブスだと思ってるんだなあ。ドストレートな感情表現の数々に何度も関心してしまう。

残念ながら、ビジュアル担当ではないという自覚のまま生き延びてしまったので、これからもある日突然インスタ映えするきらびやかな顔面になる予定はない。
ちなみにヤンくんは推定185センチ90キロ以上、仕事のストレスでガンガン飲んでモリモリ食べているので、絶賛増量中だ。

健康は心配だけど、自分のビジュアルに興味がないので、ヤンくんもヤンくんのままでいいと思っているし、言いたいことから言われるのにもずいぶん慣れた。

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3 知らない人にたずねるのめっちゃ嫌がる

ヤンくんは電話をかけるのが嫌いだ。Wechatで済ませたいらしいし、だいたい不動産屋さんとか病院とかもWechatのメッセージのやりとりで完結する。

交際をきっかけに私は引っ越したり転職したりしたので、外国人の住所登録を警察や役所に行ったりとか、どんな書類の準備が必要かとか、聞かないとわからないのに、電話はいやだの一点張り。

ちなみに、ヤンくんと知り合う以前は前職のA先輩にお世話になりっぱなしだった。
中国大好きで中国語が完璧な日本人A先輩は、銀行口座の開設、携帯電話の契約、就労ビザに必要な書類など、必要があればその場で電話で聞いてくれて、それをていねいに教えてくれた。A先輩、いつもありがとうございます。

それに比べて、我が家の自称通訳ときたら。

めんどくさい、というのがいちばん大きな理由らしいけど、あれだけ電話を嫌がるのはなにかほかにもなにかあるのかも。

電話嫌いの謎が解けたきっかけは、付き合ったばかりでよく出かけていた頃、遠くまで足を伸ばしてみたときのこと。
食事をして、カラオケでもいこうかとなった。

中国のカラオケはやたらゴージャスでド派手だけど、友達同士で歌って楽しむ、というのは日本のカラオケと同じ感覚。
検索サイトの百度(バイドゥ)で調べても、よさそうなお店が見つからない。

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さあどうしようとウロウロしていたら、目の前に見えたのが深センでいちばん有名なユエハイホテル(粤海酒店)。
深センにやってくる日本人出張者はほぼ全員ここに宿泊する。日本食レストランも有名だし、スタッフも日本語が話せて日本式サービスを受けられると好評なのだ。

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ユエハイホテルのフロントは日本的な手厚いサービスで、ちょっとしたトラブルも助けてくれると聞いたことがあったので、近隣の人気カラオケ店くらい教えてくれるんじゃないかと思って提案してみた。

あ、ここで聞こうよ。このあたりにカラオケありませんかって
いやだ

即答ですか!?

日本のホテルだったら近所の美味しいお店とか観光情報とか聞いたりするよ、このホテルは日本人に人気なんだよと説明すると、ムッとした表情のヤンくん。

知らないヤツに気軽に聞いたりするもんじゃない
このホテルだって、オレたちになにか教えても一銭の得にもならないじゃないか

お、おお。そこまで拒絶しなくても。
確かにお金は払わないけど、口コミで「いいところだったよ!」って評判が立ったりしたらいいじゃない。

結局ヤンくんはプリプリ怒りながらユエハイホテルの目の前でスマホ検索を続けて、近場のカラオケを見つけた。

電話もイヤだし、知らない人になにかたずねるのはもっとイヤなんだな。なんでだろう?

その翌週に、職場でA先輩に聞いてみた。
日本人A先輩の旦那さんは中国人。A先輩いわく、田舎から出てきたコッテコテ中国人のダンナさん。

うちの人も、その辺にいる人に道を聞いたり場所をたずねたりとか絶対いやがるよ
基本的に、知らない人は騙すものだから信用しない、という感覚みたいね

ほほう!
一発で納得した。さすがA先輩、ホントありがとうございます。

そうなのか。だからヤンくんも聞きたくないのか。騙されるんじゃないかと。
言われてみれば、日本で日本人に道を聞いたり聞かれたりするときは性善説だ。疑ったことないね。

他人は自分を騙してくるものだから注意をはらうこと、で思い出した。

ヤンくんは「当店おすすめ」ってアピールしてる料理を注文するのも嫌いだ。

この店は、売れ残りを客に押し付けるつもりかもしれない

お、おお。
日本人なら真っ先に注文するおすすめ品をまっさきに疑う。真逆の発想で毎日が異文化体験だ。
一見すると草食系男子に見えるヤンくんも、一緒に過ごすにつれて「中国人なんだなあ」と感じることが増えてきた。

ヤンくんの発言や行動にハッとさせられるたびに、無意識にやっていたことや当たり前だと信じ込んでいた虚像を自分の中に発見する。

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おわりに

いかがだろうか、チャイナダンナ。

私としては珠玉の愛おしすぎるエピソードばかりで、ネタの神様がどこかにいるなら毎日お参りしてお供えしてひざまずくくらい感謝しっぱなしだ。

しかし私の表現力がヤンくんの魅力に追いつかないのか、特にファッションやビジュアルのくだりは女性陣から非難の嵐が吹き荒れる。ひどい! って。

まあひどいんだけどさ。そのひどさまでいっそ愛おしいんだよ、今は。

こういうエピソードや性格がどこから出現するのか、ヤンくんの人柄や個性なのか、チャイナダンナゆえの国民性なのか、中国在住1年半のビギナーとしては判断できない。でもぶっちゃけ気にならない。

だから、ヤンくんの好みや意見を尊重すること、中国人気質をもっと知って理解すること、どちらもあきらめちゃいけないなと。帯を締め直すというか、握った手綱に力を込めるというか、なんかそんな所存だ。

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