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赤い視線

あちこちパンを買い巡るようになって久しいけれど、そういえばドレンチェリーを見かけたことがない。
ウサギやカメの形をしたクリームパンに決まってくっついていた、あの真っ赤なねちっとした甘い塊。
そもそも、動物を模したパンというものを、めっきり見かけなくなった。

リュスティック、カンパーニュ、クイニーアマン、フリュイセック、クロワッサンダマンド・・・。
並べるだけで流暢に外国語を喋っているような気分になれるパンは食べ飽きることがなくて、もちろん大好きなのだけれど。
時々、あのテカテカした赤が思い浮かぶことがある。

子どもの頃、たまに行く病院の隣にちいさなパン屋があった。
ドレンチェリーの目をしたウサギはそこにいた。
正直言うと、その頃はあの毒々しい色と味が苦手で。
パンにしみ込んだインクのような赤を見て子ども心に、これは要らないのにな、と思ったものだ。

それなのに、今になってなんだか急に食べてみたくなる。
懐かしい味というのはなんとも天邪鬼だ。
カスタードクリームも、近頃の洒落たパン屋にあるようなバニラビーンズとか生クリームを混ぜ込んだ口どけがどうの、といった高級なものではない。
どこか薬臭いような、ぺったりと舌に貼りつく粘り気があって。

もし今口にしたら、私の舌はなんと言うのだろう。
美味しいとか美味しくないとかではない。
ネットショッピングででドレンチェリーを買うとか、そういうことでもない。
「あぁこれこれ!」
子どもの頃に落としてきた味を拾い上げて、再会を想像することが、今の一時を甘くしてくれる。
記憶の中の味は、未来にささやかな愉しみを遺す。







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