見出し画像

【旅する日本語コンテスト参加作】はやる思い

特急列車の窓の外から燃えるような夕焼けが見えた。腹の底に少しの緊張を感じながら、ペットボトルのお茶をぐっと飲む。大阪から金沢まで、約三時間。僕はいま、北陸に住む遠距離恋愛中の婚約者のもとへ、急いでいる。

今日の昼ごろ、彼女から僕の携帯に連絡があった。「母が急に入院することになった」と。きっと今、仲のいいお母さんが倒れて、不安な気持ちなんだろう。そう推測して、僕は迷いもせずに金沢行きの切符を買った。仕事を少し早めに片付け、大阪駅から特急に飛び乗った。

早く、早く着いてほしい。彼女に会って、少しでも安心させたい。僕のじれったい気持ちを乗せて、特急は夜の中を走って行く。彼女にメールを打つ。「九時過ぎには、そっちに着くから」すぐに「びっくりした。ありがとう」と返事が返ってくる。

あ、しまったお見舞いの品を買い忘れたな。そう思い当たって後悔しながら、落ち着くためにひとつ大きく深呼吸した。

(391文字)

いつも温かい応援をありがとうございます。記事がお気に召したらサポートいただけますと大変嬉しいです。いただいたサポ―トで資料本やほしかった本を買わせていただきます。