【旅する日本語コンテスト参加作】青、白、また青
早春、友人の住む富山に遊びに来るとドライブに誘われた。まだ雪の残る道を、ぐんぐん走りながら彼は言う。
「この季節ならではの絶景が見たくない?」と。海へ行くというのだ。まだ春浅い海は「寒そう」という印象しかなく、正直海なら地元の静岡でも見られるんだけどなあ、と思いながらも、助手席に座っていると「着いたよ」と声を掛けられた。
降りてみて、目をみはった。藍ほど青い冬空と、同じく深い青をたたえた海が、つらなる立山連峰の純白を境に切り分けられていた。なんて美しい光景なんだ、と息を呑む。
「この季節だけの、特別なんだ」と隣の彼は声も出せない私を見て嬉しそうだ。海の青、山の白に引き立てられて、空の青が特別青く見える。
「さ、夜は美味しい寒ぶりの刺身をごちそうするよ。美味しいものいっぱい食べて行ってな」彼はそう言うと、青空に映える最高の笑顔で、こちらを見た。少しだけ、どきどきして、私も笑った。
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