母の執念と150万円
先日、奥歯の詰め物が割れて取れた。
そのとき私が食べていたのは栗ごはんだったので、そんなやわなもので割れたのだから、さすがにこれは寿命なんだろうなあ……………………………………と諦めの境地に至る。(諦めがつくまでに、まあまあかかった。)
そのまま淡々と歯医者に予約を入れる。(ちょっと落ち込んでいたのでテンション低め……。)
歯医者には10代の頃から散々お世話になってきた。
あの他人行儀な匂いにも、神経を逆撫でする音にも、痛みを伴う(ことが多い)治療にも慣れている。
だからと言って一生好きにはなれそうにない。
でも……まあ……かつて暮らしていたニュージーランドと違って、日本では詰め物が取れた歯を1本治療するのに14万円もかかることはないのだからと、自分で自分を無理やりなぐさめている。とほほ。
この1本14万円というのは私の実体験である。
正確に言うと14万円以外にも、
治療費の見積もりを出して貰った時(つまり初診 without 治療)に1万5千円ほど、
更に治療前の歯のクリーニングにも1万5千円ほどかかったので、総額は……うぉぉ計算したくないぃぃ。
(2021年に完全帰国した時に、船便で日本へ送った引っ越し荷物の料金とほぼ同額です。ぎゃふん。)
ちなみにこの初診やクリーニングの費用や治療費は、歯医者さんによって異なる。(聞くところによると、市内中心地より郊外の方が安いらしい。)
私はムスメが矯正でお世話になっていたドクターを信頼していたので、(他所より高めだとしても)そこで治療してもらうことにしたのだが、なんにせよ、歯と胃腸が頑丈な人は、海外生活に有利であることよ……。
☆☆☆
自分自身が歯のトラブルに泣かされ続ける人生を歩んでいるので、親になってからは、ムスメの歯の健康にかなり神経質な母親だったと思う。
……と言っても、ムスメが寝落ちしていても仕上げ磨きは怠らなかったとか、その程度だけど。
ばあば(実母)からは、そんな状態で磨く私も私だが、磨かれても起きないムスメもムスメだと呆れられていた。
しかし、私としてはばあばが私と弟の歯に無頓着だったことを反面教師にしているわけで……(怒)。
その甲斐があったのか、単にムスメの歯が頑丈だったのか、17歳の今日までムスメが虫歯になったことは一度もない。(大事なことなので太字で強調してみました。聞いた?ばあば?)
しかし。
しかし、である。
虫歯予防は私の執念でなんとかなったものの、歯並びはそうもいかなかったのである。
ムスメは1歳半健診の時点で、歯医者さんから「この子は顎の小ささに対して歯がとても立派なので、将来(顎に)歯が収まりきらず、矯正が必要になる可能性が非常に高いと思います」と宣言されて、事実、その通りになってしまったのだ。
(っていうか、この歯医者さん、めちゃくちゃ慎重に言葉を選んでくれる人でした。ありがとう。でも、矯正ショックは大きかったです……。)
☆☆☆
結論から言うと、ムスメは11歳半から、2年の月日と150万円超の費用をかけて歯を矯正した。
この150万という費用は、海外の歯医者だから高かったというわけではないのが、歯科矯正の恐ろしいところである。
ムスメの歯並びの場合、日本でやっても同じくらいかかる。
でも、そのおかげ(?)で諦めがついたので、ニュージーランドでもムスメの歯の矯正に踏み切る覚悟ができた。
(と言いつつ、諦めと覚悟は必要だったわけですが。そして、日本でなら高額医療費の控除を受けられたかもしれないわけですけどね……。)
ムスメの歯科矯正を請け負ってくれたのはインド人のドクター。
ズバズバものを言うけれどそのぶん話が早くて、私たち一家と相性が抜群だった。
診察も朝早くて、午前7時半(登校前)に予約をぶち込んでくるのには驚いたけど。
でも、それも「診察の後で学校に直行すればいいし、午後の授業を早退して診察に来るよりいいよね?」という、いかにもこのドクターらしい気遣いだったのだ。
こうして、ムスメの歯並びは、
本人の忍耐(これはやはり必要です。)と
親のサポート(主に金銭面と通院の送迎)と
信頼できるドクターのおかげで別人のように綺麗になった。
帰国後、日本の公立中学校に通っていた1年と1ヶ月の間に学校で受けた歯科検診では虫歯ゼロと歯並びの良さを市の歯科医師会から表彰された。
ムスメが学校から持ち帰った表彰状は、私の執念と150万歯科矯正の結晶である。
この表彰状はマミィの宝物にしようと思うよ、ムスメちゃん。
(この表彰の話は共通の知り合いからドクターにも伝わり、たいそう喜んでもらえたのでした。)