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メリルのこと〜Kiwiの理想の老後
Kiwi友人メリル(仮名)の話を聞いていると、ニュージーランドの人が思い描く理想の老後は、彼女と彼女のパートナーのトーマス(仮名)が計画しているような生活なのだろうなあと、しばしば思う。
メリルは私と同世代なので、いわゆるboomerの少し後の世代である。日本だと団塊ジュニアの世代だ。
12歳でスモールビジネスを始めたメリルは、19歳の時にノースショアの一軒家を購入。その家を友達とルームシェアすることで得た家賃収入で大学の夜間コースに学び、学位を得た。
当時(1980年代)は彼女のような生き方は、特に珍しい話ではなかったらしい。
今でも働きながら学位を得ること自体は全く珍しくないニュージーランドだけれど、若者がオークランドで不動産を気軽に手に入れることは……無理ゲーというものだろう。人生ゲームなら、ルールがすっかり変わったようなものだ。
メリルはその後もマーケティングの会社を自営しながら、不動産を買ったり売ったりして、オークランドの不動産の恐るべき高騰が始まる直前にオークランド中心部に自宅とオフィスを購入した。
彼女も以前エッセイに登場してもらったMも「私たちはオークランド中心部で、億単位のお金を出さなくても家を購入できたギリギリの世代」と言っていたので、日本でいう団塊の世代みたいな感じだろうか。逃げ切ったという意味で。
でも、Mによると彼女が大学を卒業した頃のニュージーランドは不景気で、彼女のように学位を複数持っている若者でさえ就職難だったらしい。
そして時は流れ、コロナ禍を迎える。
繰り返すロックダウンの最中、50歳目前でビジネスを縮小する決断をしたメリルは、これからは自分1人でやりたい仕事だけ引き受けることにして、オフィス用の物件を売却した。
そして、時期を同じくして、オークランドから車で2時間ほどの風光明媚な海辺の町に別荘を買って2拠点生活を始めた。
メリルとトーマスは遠くない未来、自然豊かなこの街に完全に引っ越すつもりらしい。たぶん、息子のリチャード(仮名)が高校を卒業したら。
そして、その頃にはオークランドの自宅を改築して、賃貸物件にする予定らしい。
前述のようにビジネスはセミリタイア状態なので、メリルは空いた時間でボランティアをやったり、別荘があるコミュニティに人間関係を構築するための社交に勤しんでいる。
そういえば、私たちを別荘に招待してくれた時にもメリルは「いずれ此処に完全に引っ越す予定だから、コミュニティのメンバーの信頼を得るための努力をしているの」と話していたし、またまたそういえば、M(めちゃくちゃ親切だけどシビアな意見も教えてくれる)もニュージーランドの人間関係について「フレンドリーであることとフレンドは違うのよ。なにしろ私達も島国の人間だから」と言っていて、それを聞いたthe島国出身の私はスンとしながら「分かるよ……。ところで、私とあなたは友達?」とちゃっかり確認したのだった。(出会って3年目だから聞けたわけで、1年目や2年目ではさすがに聞かなかったと思いますよ…ええ。)
Mは「フレンドだと思っていなかったら、こんなトップシークレット(笑)は教えないわ」と笑ってくれたし、その後もニュージーランドにおける人間関係のシークレット(耳が痛かったり凹むような話。人によっては反発したり不機嫌になる可能性があるので、信頼関係のない人には伝えないのもよく分かる)を折に触れて教えてくれたので、フレンド確定だと思っている。
ちなみにMも息子くんが独立したら、定年退職する旦那さんと故郷のダニーデンに引っ越す計画らしい。
そこには豊かな自然と(オークランドより)静かでのんびりした生活、そして自分の兄弟と親族と幼馴染のコミュニティがある。
オークランドの不動産は売るにしても貸すにしても、それが年金以外の収入源になるだろう。
メリルだけでなくMの話からも、Kiwiにとっての理想の老後を垣間見ることができる。
「でも、私達の子どもの世代は、そうはいかないわね」とM。
うん、知ってる。日本では私達の世代がそうだから。
☆☆☆
話がメリルから逸れたので戻す。
私がメリルと出会ったのもムスメの学校だった。
最初にお互いの存在に気づいたのは、ムスメがYear3の9月だったから、我が家のニュージーランド生活2年目のことだ。
いつものように学校のベンチで時間を潰している私に、ムスメと同じくらいの年頃の男の子が話しかけてきた。
その子は「ベニスに死す」に出てくる少年によく似ていて、こちらをじっと見つめている様子はまるで映画のワンシーンのようだと驚いたのを覚えている。
しかし、その次の瞬間、私は違う理由で驚くことになる。
少年は手に持っていた1メートル50センチほどあるステンレスの定規を私に見せながら、この定規がいかに素晴らしいか突如プレゼンを始めたのだ。(注……私たちはこの時が初対面です。)
キミはジャパネットたか◯の社長か!
あと、キミ、さてはうちのムスメと同じカテゴリー(マニアックな子ども)だな!おもろい子やな!
私は心の中で盛大にウケながら、真面目な顔で少年の口上に耳を傾けた。
そう、そのユニークな少年こそ、メリルの息子のリチャードだったのだ。
リチャードとムスメの感性が似ていると感じた私の勘は大当たりで、2人はYear4で同じクラスになるやいなや、あっという間に意気投合、その友情は今でも続いている。(2人は毎日のようにDiscordでやりとりしていて、メリル一家とはお互いの家庭の様子まで筒抜けです……笑。)
最初は子どもたち2人の友情に巻き込まれるかたちで始まった私とメリルの関係も、1年、2年、3年と年月を重ねるうちにお互いに信頼と尊敬を抱く大切な友人になった。
メリルはムスメにとって親以外のロールモデルでもあるので、常々ムスメには「ダディとマミィ以外の大人の意見を聞きたい時はメリルに相談しなさい」と伝えてある。(もちろんメリルにもお願いしてあります。)
そんなメリルとトーマスとリチャードは、昨年の9月に、愛媛の我が家まで遊びに来てくれた。
2年ぶりに会ったとは思えないくらい、昨日までも日常的に会っていたような気持ちになったけれど、リチャードの身長はゆうに180センチを超えていてびっくりした。
あれからもう1年も経つなんて。
メリルたちのことが恋しくて、このnoteを書いている私である。
メリルに「We miss you guys.」と伝えたら「I keep trying to find ways to come back.」と言ってくれたので、またいつか会えると信じている。