「悪魔の兄弟。」〈短い小説〉
小悪魔のサタンは、面白くなかった。
姉のルモアが一人前の悪魔になってしまったのだ。親族が集まり、お祝いのパーティーが開かれた。両親も泣いて喜んだ。
ガイコツを部屋中に飾り、料理を食べずにお皿ごと床に叩きつけた。皆で喚き、ののしり合い、それはそれは、豪華な悪魔のパーティーであった。
ルモアは一人前の悪魔になった証拠に、荷物を抱えてヨロヨロしている老人の荷物を、大きな石に変えてみせた。
泣いている赤ちゃんの目の前で、目ん玉を赤く光らせ、よりいっそう泣かせてもみせた。
親族はその様子をみて、また盛大に喜んだ。
「これで、ルモアも一人前の立派な悪魔だ!これからは、より一層、悪魔として自覚を持ち精進するように!」
「はい!お父様!いつかお父様みたいに、世界を経済危機に陥らせるような立派な悪魔になってみせますわ!」
サタンはその様子が、心底、とてつもなく、猛烈に、面白くなかった。
「サタンも、お姉さんを見習って、そろそろいい子を卒業なさいね?いつまでもいい子でいたら、ずっと小悪魔のまま…立派な悪魔にはなれませんよ?」
母親はなにかとつけては、ルモアと比較し、サタンにそう言うのであった。
ある日、サタンは思い立った。
ルモアはその日、線路に牛の大群を出現させ電車を止めてしまおうとしていた。
その様子を、木の陰に隠れて真剣な面持ちで見つめるサタンの姿があった。
ルモアが牛の大群を線路に出現させると同時に、サタンは1匹の狼を出現させ、牛を線路から追い払った。
さらに、サタンは前もって倒産しかけていた牛業者にあるメモを送っていた。
“無料で上等な牛を何十頭も、差し上げよう。欲しければ、大きなトラックを用意して〇〇へこい。"
牛業者はいたずらだろうと思いながらも、わらをも掴む思いで、メモに書かれた場所に向かった。
するとそこには、高く売れそうな牛の大群が本当に目の前にいるではないか!驚き固まる牛業者はさらに驚く。
なんと、牛を追いかけていた狼が、見事にトラックの荷台へと牛を先導すると、そのままどこかへ消えてしまったのだ。
ルモアは何が起こったのか全く理解ができず、なんとも間の抜けた顔で、その場に立ち尽くしている。
止めようとしていた電車は、そんなことがあったとは知らず、定刻通りにルモアの横を通り過ぎ、倒産寸前の牛業者は倒産を免れたどころか、大金持ちになってしまった。
家に帰ると、ルモアは、失望した両親にとことんお説教をされた。悪魔のお説教は恐ろしい。
混乱しながらも、両親に謝り、ポロポロと涙を流すルモアが、ふとサタンを見ると、そこには満面の笑みを浮かべる悪魔がいた。
ルモアは、小悪魔こそが何よりも恐ろしい本物の悪魔だと思った。
(あとがき)
いいことが正しい世界は想像がつくけど、悪いことが正しい世界の想像は難しいなーと思います。
ルモアは一人前の、ちゃんとした悪いことをする悪魔なんだけど、そのことを妬んで羨んで邪魔をしてやろうと企む小悪魔こそが、一番怖い存在じゃないかなと思いました。…悪魔の世界に生まれなくてよかったなと思います。