秋の星々(140字小説コンテスト2024)応募作 part1
季節ごとの課題の文字を使ったコンテストです(春・夏・秋・冬の年4回開催)。
秋の文字 「長」
選考 ほしおさなえ(小説家)・星々事務局
10月31日(木)までご応募受付中です!
(応募方法や賞品、過去の受賞作などは以下のリンクをご覧ください)
受賞作の速報はnoteやX(旧Twitter)でお伝えするほか、星々マガジンをフォローしていただくと更新のお知らせが通知されます。
優秀作(入選〜予選通過の全作品)は雑誌「星々」(年2回発行)に掲載されます。
また、年間グランプリ受賞者は「星々の新人」としてデビューし、以降、雑誌「星々」に作品が掲載されます。
応募作(10月1日〜9日)
10月1日
花明
十年程前、まだ幼い娘が影ぼそを拾ってきた。孤独を好むというそれに私は一室を空け与えた。扉には「入室厳禁」の貼り紙。以来、影ぼそはほとんど姿を見せず、何も求めず、その部屋で長い年月を過ごした。だから先日、いなくなった、と聞いた時には困惑もした。部屋は娘が継いだ。貼り紙はそのままに。
葵
流星が長く尾を引いて夜空の向こうへ、駆けていく。その尾に掴んで、お供をしたい。けれども、僕は——僕たちは仕事があるんだ。夜空にジッと留まって、身体を輝かせる。
誰かの寄る辺になれたら良いなぁ。
あの、流星のように。毎年その姿を見れるから、頑張れる。数兆個の、仲間達とともに。
森川めだか
手袋がすりきれるほど手を握った。初恋。
私のネイビーの手袋とあなたのネイビーの手袋、どれだけ長く握っていただろう。二人の手袋の指が薄くなるほど、握り合ってたなんて他人から見たら嘘だよね。
あの頃、私もあなたも真剣だった。
今なら笑えるかな。「手袋がすりきれるほど手を握った」なんて
東方健太郎
銀杏並木が色めいている。数年前の夏には、八月も半ば、早くに黄金色の葉を揺らしていた。路肩に停められた軽自動車には、まだ若い男性が運転席に座り、助手席には初老の女性がにやついていた。足元には、枯れ葉がかさかさと初秋の風に揺れている。彼は長いため息をついて、そっとコートの衿を直した。
森川めだか
世界一長いマフラーが秋から編まれ始め、とうとう最後の人の首にかけられます。さあ、今…、人類が一人残らず一本のマフラーでつながりました!
さあ、そして…、今、最後の一人の首からマフラーが外されます…長い挑戦でした!
もうすぐ春です。人類は長い長い冬を越えたのです! 何の意味もなく
森川めだか
ぼく独立国家の歴史は長い。ぼくが生まれてからずっとだから。しかし今は、黒船が来航し鎖国は解け融和の道を取った。ぼくは普通の人です。
国家元首だったぼくは誇り高い。ぼくはおとなになったらそうりだいじんになりたいです。そしておかあさんに100おくえんあげたいです。それがぼくのゆめです
非常口ドット
落ち葉と靴が織りなすサクサクの二重奏。そこに怒鳴り声が混じって、只の不協和音になった。公園でランチをする私に近づく課長。不快なソロコンサートが始まる。途中退席不可の三十分をやり過ごした後は、取っておきのチョコを一粒口に入れよう。頭の中で鳴り響くオーケストラが午後の私に力をくれる。
非常口ドット
あまりにも赤過ぎる夕陽に浸された目から、血の涙が流れていく。燃えるような町の中で私の心は薪を失くしたまま、ずっと空を見つめている。どこまでも続く長い長い飛行機雲は空の切れ目だ。生温い部屋で壁に凭れ掛かりながら、私は空がぱっくり割れる日をただひたすらに待ち続けた。
非常口ドット
「今年百歳ということですが、長寿の秘訣は何ですか?」
「酒と煙草さ。好きなことだけして嫌いなことはしない。」
「全部体に悪そうですけどね。他にあります?」
「あとはギャンブル、三つ揃えばもう最高だね。」
「何かイメージと違いますね。」
「長生きのために、もう帰らせてもらうわ。」
赤木青緑
長きにわたる戦争が終わった。人々は喜んだ。一方悔しがる者がいた。彼らは戦争ビジネスで儲けていた。彼らの生活は終わった。それでよかった。戦争というものはビジネスではない。命である。ビジネスは命ではない。ビジネスなどなくなってもよい。かわりはいくらでもある。命にかえはない。戦争反対。
赤木青緑
長さを競う大会があるという。なんの長さを競うかは明確にされてはいない。出場者は各々の自信のある長さを携え参加してくる。なんの長さか分からないので競いようがないけれど皆自信がある。一センチの者とと十メートルの者が競い合った。一センチの方が勝った。単純に長ければいい訳でもないらしい。
赤木青緑
異様に鼻の長い動物がいる。なぜ鼻がそんなに長いのだろうと思う。鼻が長いって我々からしてみればとても滑稽だ。鼻が長くていいことあるのかな。もしやウケ狙いか。笑かそうとしてるのか。皆を笑顔にできるのは素晴らしい。我々も鼻を伸ばそう。我々の間で鼻を長くする整形が流行った。笑顔で溢れた。
のびいぬ
産院で性別は産まれたらわかると言われたが聞き出すと女の子、そう聞いて心躍った。可愛い服、お出かけ、楽しい事しか思いつかなかった。産まれて一年程、呼びかけても気づかない、発語がない異変に気づくまでは。障害児とこれから生きていく長い人生、どうか彼女が独り立ち出来るまで見守らせて神様。
のびいぬ
人生とはとのお題、倫理の授業らしい。出席番号1番が理由で当てられた。人生とは自分の夢を叶える為努力する長い道のりであると答えた。何度も聞き返しつつ頷く先生が印象的だった。驚く事に成績は5段階評価で5だった。倫理とは先生の琴線に触れると点がいいのか?それはまるで目に見えぬ芸術点。
裕香
秋の長月夜長月
星見て空見てあなたを想って
あと何回ぐるりと廻れば
あなたのもとにたどり着けるのか
遠い昔に分かれた半身は
今もなお青く輝くあなたを求める
いつかはあなたと
瞬く星を眺める日を夢見て
今宵も月は長い夜を過ごす
裕香
「今日も1日お疲れ様でした」
声をかけてくる女性の声は明るく朗らかだ。
1日中働いていた自分の疲れを癒す心地よい声に迎えられながら俺は「最近は綺麗なものは若くないと得られないから疲れるよ」と錆びた大鎌と成果の魂を彼女に手渡した。
長い夜を与える死神だって綺麗なものが欲しいんだ…
三日月月洞
共に長じて大人になった君は、今日故郷を離れ都会にゆく。引き留めたかった。でも『幸せならばそれで良いじゃないか。いつか僕の事は忘れるさ』そう自分に言い聞かせて自分を戒める。君は僕に近づき「またね」と泣く。あゝ、僕は、じきに逝くのに。僕は長い別れを咎めず「ワン」と鳴き君の鼻を舐めた。
安戸染
実を言うと長芋と山芋の区別が付いていない。そもそも別物なのかどうかもよく分からない。どうでもいいので調べもしないが、もしネガティブに考えるのであれば得体の知れないものを食べている事になる。しかしそういう訳の分からない食べ物って案外多い気がする。例えばゼリーとか。例えばゐゑ汁とか。
安戸染
個人的にはそれを長いと感じるのだが、人によっては短い、あるいは高い、もしくは細い、他にも広い、遠い、明い、柔い、冷い、甘い、星い、分い、定い、調い、保い、着い、実い、遊い、放い、流い、歩い、解い、並い、結いなどと受ける印象は様々で、見る者の心の在り方によってその姿は変わるようだ。
安戸染
うっわ長っ!長すぎでしょ!いやいやいやちょっと待って、え、待って待って!うわわわわ!なっが!これ誰がどう見ても長いでしょ!ていうか長いにも程があるでしょ!マジで長いんですけど!長すぎるって!え、自分では長いって思わない?だよね?長いよね?そう思うよね?うん、長い、ガチで長いから!
はるな
「ほーらマグロだぞ。もっと食べて、胴長になってしまえ」
びよん。と伸びた長い胴体。
彼は器用に二本足で立って、瞳をお月様のように光らせながら獲物を狙っている。
去年の十月は、消えかけの小さな命だった猫。
今では長い胴に幸せをいっぱい詰め込んで、私の手からマグロを奪い取っていった。
畳
長身の人だった。髪も長く背中まで伸びている。踵の少しある靴を履いておりその肩は隣に立った男の耳位の高さになって、靴の爪先には指が10本並んで指1本1本につき1枚ずつ緑や白やピンクや黒やオレンジに塗られた爪が生え、肩は露わになっている。なめらかな皮膚。小さな花の絵が彫られている。
季エス
ねえ、気付いた? 電話をしながらね、髪を切っていたの。ちょきちょきってね、長い髪をね、切っていたの。そんなに可愛い音ではなかったけれど。あなたと長い話をしながら、長い付き合いに終止符を打つために、髪を切っていたのよ。ねえ、気付いた? 気付かないの? 私の髪の色、覚えてる? ねえ?
あぴ
人生ってなんでこんなに長いんだろう。私はそんな事を考えながらいつものあの場所へ向かった。昔幼なじみとよく遊んだ廃墟の学校へ。私は幼なじみとよく行った屋上へと向かった。私はそこである事を思い出した。それは幼なじみとよく屋上で星空を見た事だった。でもその幼なじみにはもう会えない。
真津道 夜縋
秋の夜は長く感じるものだと口にしたのは、他ならぬ貴方ですね。夜半過ぎ、同じ布団の中。公転周期により日照時間が短くなるなんて、浪漫の欠片も無いことです。あのときは頷きましたが、でも、今になって納得できずにいます。だってそれにしても、こんなに長いものでしょうか、貴方が隣にいない夜は。
石動志晴
カエデが宙を舞う。僕は両手で掴もうとするけれど、ひらりひらりと避けられる。大人になって、僕の背が伸びて「大きくなったね」と言われたら、カエデを捕まえられるのかな。でも、その時には僕と同じくらいカエデも成長しているはずだから、カエデも今より避けるのが上手くなっているかもしれない。
こおり
心を揺さぶる作品って何か特別な力を秘めているのだろうか。心を揺さぶらない作品は秘めるものが一欠けらもないのだろうか。
「あの作品には心を揺さぶられなくてもなぜか惹かれてしまう」
恋のような、そんな作品と出会いたい。そんなことを考えていたら長い夜が明けた。
10月2日
久保田毒虫
長い坂道を上っている。この長い坂道を上りきったら、きっと君の街。僕にはわからないよ。どうしてこんなに坂道が長いのか。どうして僕と君の間にはこんなに隔たりがあるのか。悲しみを固めてできたアスファルトを踏み締める。長い坂道を上っている。この長い坂道を上りきったら、きっと君の街。
三日月月洞
私は、と或る島に流れ着いた。其処には、およそ現代人の影というものは無く、私の前に島に辿り着いた男は、鎧を着た精悍な武者で、九郎と名乗ったそうな。島民は総じて異様に手が長く、伝説の長臂人という種族だと推察された。翌日救助が到着。あゝまったく、ろくろ首の私には居心地の悪い島だったわ。
東方健太郎
鈴虫の鳴き声が微かに聞こえている。枯れ葉を踏む音が混じる。かさかさと渇いた音を立てて、枯れ葉は足元で崩れていた。もう久しく雨は降っていない。コートの衿を直すと、彼女はその足を早めた。待ち合わせの場所には、人影もない。長いこと、忘れていたことに思いを馳せる。それは、初秋の夜のこと。
つるた
暗闇の中僕は君の笑顔を守っていた。君の笑顔を守ることが僕の使命だ。無邪気に笑う姿が色あせないように君が忘れても僕が覚えていられるように長い長い時間守り続けた。
「あったあった、懐かしいな」
君は僕を取り出して、記憶のテープを巻き戻した。ああ、よかった。君は僕を見て無邪気に笑った。
星宮ななえ
彼はみんなからお調子者だって言われているけれど、深く冷静な人なのだと気が付いたのはずっとあとになってからだった。三十年間、彼は誰かを威嚇する為に声を荒らげることはなく、感情を暴力的にぶつけることもなかった。長い年月一緒にいてやっとわかった。だから私はいつも少しだけ寂しかったのだ。
あしたてレナ
長い刑期を終え、やっと出所だ。刑務所はシステムが全自動となりロボットに厳しく管理されている。数日前に暴動が起きたが、模範囚の俺は今日のために大人しくしていた。自動で解錠された居房から外へ出てみると、ロボットが死体を山のように積んでいる。呆然とする俺に赤い光が向けられた。あっレーザ
あしたてレナ
水溜まりでトンボがひっくり返っていた。まだ翅が動いている。近くを翔ぶもう一匹は番だろうか。長いこと眺めていたが、やがて溺れたトンボが動かなくなり番はどこかへ行った。私も興味を失って立ち去った。助けるべきだと非難されるだろうか。だが介入こそ不自然で、あるまじき行為だとは思えないか。
あしたてレナ
病死してあの世にやって来た。天使に来世の希望を聞かれ、早くに死んでしまったから細く長く生きたいと願う。気付くと温かい湯に浸かっていた。きっと産湯だろう。俺は生まれ変わったんだ。今度は長生きするぞ。そのとき、頭上から声がした。「へいお待ち、かけ蕎麦一丁!」……あれは悪魔だったのか?
冨原睦菜
私の幼馴染たちは、いくつになってもやたらと元気でキャピキャピしている。確か「にいちゃん・ねえちゃん」と呼んで甘えて頼りにしていたはずの面々を見た目ではとっくに追い越した。独身の私は、いつしか「長老」と呼ばれ、皆から介護される身となった。しゃぼん玉みたいな人間の寿命の儚さに涙する。
草野理恵子
人間の胴の太さで人間の長さのミミズになり棲んだことがある。僕は落ち葉を食べ寝ころんでのびのび暮らした。それを見て楽しんだ人がいた。僕は人の役に立ちたかったから笑った。ミミズの時の気持ちで人に接するとすべてがミミズのようにうまくいく。ミミズのようにうまくいくって何?でもそれいいね。
藤和
飼い猫の脇をつかんで持ち上げる。にゅるんと伸びて思ったよりも長い。この子も拾ったばかりのころは手のひらに乗るくらい小さくて冷え切っていて、あたためたお米袋に寄り添って縮こまっていた。あんなに弱々しかった子が、今では元気にこんなに長い。体重もだいぶ増えた。このまま長生きしてくれよ。
藤和
だいぶ涼しくなってきた。おやつ時にキャンプチェアをベランダに出して本を読む。日が傾いていき、夏には酔芙蓉を育てていた植木鉢の影が長く伸びる。本のページにオレンジ色の光がきらきらと射す。風が肌寒くなってくる。本にしおりを挟んでキャンプチェアをたたむ。この本の続きは秋の夜長に読もう。
三日月月洞
母と十三参りに行ったその日の夜に、星の落ちる夢を見た。空を離れたその星は、僕の枕の上に転がり、何故だか口を利き、自ら『長庚』という名であると明かし、忘れ物を届けに来たのだと言う。臍の緒だった。目を覚ました僕は母の元へと走る。「母さん! 僕、養子だよね」「違うわよ!」金星が瞬いた。
藤和
もうずいぶんと長生きした気がする。子供もすっかり老け込んで孫も成人した。しあわせな人生だったろうと言われればそうであると言える。それなのに心の中にずっと隙間がある。模範的な人生を歩んできてしあわせなはずなのに。そう、しあわせなんだ。昔失った大切なものをずっと忘れてさえいられれば。
terra.
秋の夜長、私は独り、読みかけの本をやっと開いてのめりこんだ。紅茶が冷めるのも忘れて、背を丸め、ただひたすらに。物語は唯一、私を振り向かせ、その世界へ導いてくれた。険しい壁を懸命に乗り越える勇ましい主人公が、私に夢と希望を叫ぶ。独りじゃない。私はまだ、生きているのだからと。
terra.
長い長い髪を切った。ヘアドネーションをしようと、長い髪に願いと想いを込めてきた。切られ、ふさりと床に落ちてしまっても、気持ちはもっと長く続く。美しい髪が欲しいあなたへ。髪に携わるあなたへ。誰かの、長い笑顔のために。だけど本当は、髪があってもなくても受け入れられる世界を祈っている。
東方健太郎
まるで秋の太陽を反射するかのような赤煉瓦の建物のその前には、白と灰色のまだらな大理石の手すりの階段がある。初老の女性が手すりに捕まりながら、その階段を降りていた。向かいから、母親に手を引かれていた子どもが、長い距離を走ってくる。ふと初老の女性の視線が、その子どもの視線と交わった。
10月3日
いなばなるみ
男は急に死にたくなくなって長寿の薬を探す冒険に出た。長い階段を登ったり長い線路にそって歩いたり、それはそれは冒険を楽しんだ。ますます死にたくなくなって血眼になって薬を探しているうちに自分がどれだけ生きているのか分からなくなった。いつまでも長寿を欲しているうちに男は長寿を全うした。
刻人
人生は長い旅路のようだ。電子音と共に開いた扉に目を向ければ、私が眠る金属でできた繭型のベッドへ、長く共に過ごした友人が近づいてくる。
「君はもう長くないと言われたんだ。次の星につく前に君の旅は終わるんだね」
友人の声は酷く湿っている。仕方がないな。私は一声「にゃあ」と鳴いた。
久保田毒虫
どれだけの長い時間が流れただろう。久しぶりに君とすれ違った。でも「おはよう」すら言えなかった。君はとても綺麗だ。他の誰よりも。でも俺はコバエ。他人との比較でしか自らの価値を見出すことの出来ぬ、弱みに集るコバエなんだ。また君が遠くなっていく。
君はとても綺麗だ。他の誰よりも。
日室ちぐ
互いに再婚。もう失うものを持ちたくなかった私を夫が口説き落として二十年。夫は私をどこへでも伴った。ついにこんな山の中、私の手を握り、置いてかないよと夫は微笑む。
嬉しい。隠された健診結果を知っていたから。連れ添う旅路は長いほうがいいから。
滑落して動かない体で二人、目を閉じた。
藤和工場
庭の片隅に黒いトンボを見た。頭の上に夕べがかぶさり、長く伸びた自分の影から、黒いトンボが飛び立つ。一匹二匹、四匹八匹、やがて数百、影も自分もトンボになって一瞬、数億の目に過去が映り、世界が一回りしたとき、一歩踏み出していた。音も匂いも色もそのまま、ここがあなただけがいない世界。
久保田毒虫
秋の夜の山。威張り散らしていた夏の太陽は消え、緑の月が僕にウィンクしてる。星たちが僕を手招きしてラプソディを奏でる。無数の星があるんだ。一つくらい失敬しよう。星の明かりを頼りに山頂を目指す。長く険しい山道を登る。山頂には君が待っている。
「遅かったわね」
僕は君の骸を抱きしめた。
見坂卓郎
つらい時間は長いのに、楽しい時間は早くすぎちゃうのっておかしくないですか、楽しい時間が長くないと意味なくないですか、神っていうならそれくらいチャチャッとやってくれないともう神じゃなくないですか、ってさっきから聞いてるなら返事くらいしたらどうですか。ねえ、前の人のお祈り長くない?
藤和工場
東へ向かう列車の車内は、夜の暗さと裏腹な明るさ。空の座席群の眺め、ひとりきり、継ぎ目を超える音だけがリズムで続く。鏡と化した窓をのぞき込むと並走する真っ暗な道路を、車でいつか走った事を思い出す。母と甥を乗せた夜のピクニック。いつかの私も想いも、全てを捨てて行く、長い夜のはじまり。
いなばなるみ
夢を見た。僕は流れ星だ。長い夜に、瞬く間に消えてしまう閃光を放つ間に、様々な願い事が僕に届く。お金持ちになりたい、誰かに好きになって欲しい、全部叶えたいのに、もう僕の光は消えそうだ。最期に聞こえた、流れ星が消えませんように。という君の願いが叶えばいいのに。僕は目覚めて星に願った。
いっっっぬ
同窓会の帰り道。
ふと長さの尺度が変わっているのに気付いた。
「タクシー代が勿体無いし歩いて帰るべ」
同級生の気分に従う。元々、時間を贅沢に使う気で来た訳だしな。
道中では下らない話に花が咲く。
「妻子持ちは大変だ」
笑いながら、寒さを感じる夏の終りの夜風に身構えた。
10月4日
いっっっぬ
「ハァハァ」
今日のノルマはクリア。
大会最後のスタメンに選ばれる為の道のりは長いや。
「大学生ってイメージ沸かないな」
まだ見ぬ未来の話をしてみる。自分に課したノルマが、決して他者に劣らないモノだと信じて。
「いい加減、報われたいよ」
秋の夜空を眺めて同士に笑った。
偽造文庫
「長寿の秘訣は?」と聞かれた120歳の老人は、真面目な顔で答えた。「それはね、規則正しい生活、適度な運動、そしてバランスの良い食事さ」聞いた人が感心していると、老人は肩をすくめて笑い、「まあ、本で読んだだけで、自分は全然やってないけどね」と答えた。
10月5日
モサク
長い間泣いていなかったのだと、景色の明るさで気がついた。朝まで眠ったのも久しぶりだ。枕元には涙で皺の寄った本がある。きれいな表紙の本だ。買いなおそうか。ちらっとよぎる考えをそっと打ち消した。「ちゃんと謝ろう」そして繕わない感謝を伝えよう。貸してくれる彼女の手が、温かかったから。
亜古鐘彦
夜が長くなるこの季節、とても視線を感じるんです。噂に聞くと、可愛らしい動物がいるという伝説があるようですね。それか単にこの棲み処が美しいから見上げるのか。いずれにせよ、みんながっかりしますかね?月の渓谷の洞穴にこんなのが住んでいると知ったら。大人しく、隠れておいた方がいいのかな。
亜古鐘彦
「月から兎が落ちたと聞いた」現地調査に赴いた研究員たちは、得体の知れないその物体に慄いた。熱を帯び、ジウジウと地表を溶かすソレには、長く伸びた突起部分が確認された。生物なのかは不明。連日メディアが押し掛け、好き勝手に報道する。研究員は繰り返す「月から兎が落ちたと聞いた」
亜古鐘彦
「先にどんな所か下見しとくよ。上の人にこういう態度はダメとかあるかもだし。時間かかると思うから、すぐには来ないで。あと、毎日庭の花に水やりしてるか見ておくからね。忘れないでよ」これからも続くこの長い人生は、好奇心旺盛だった君の想像力に救われている。明日も君との約束を守らないと。
見坂卓郎
佐藤鈴木高橋田中伊藤渡辺山本中村小林加藤吉田山田佐々木山口松本井上木村林くん、よろしくね。隣の席になった小鳥遊さんが話しかけてきた。長いから佐藤でいいよ、前の学校でもそうだったし。僕が言うと、でもやっぱフルネームで呼びたい、と彼女は笑った。この学校でもうまくやっていけそうです。
terra.
楓ちゃんは相変わらず慌ただしい。やっと追いついたと思いきや、すぐにぐわんと向きを変え、あっと言う間に行ってしまう。長々と宙を舞う自由気ままな動きは、馴染めない私を孤独にさせる。
「ごめんごめんメイプルちゃん。おいで!」
鮮やかな一片の紅葉が、少し角が枯れた一片と共に戯れて舞った。
畳
長槍がまっすぐ空から降って垂直に土に突き立った。投げ下ろしたという感じではなくどことなくふわふわした浮遊しているものが次第に次第に落下してくるような印象を与えた。影がその土に突き刺さったところから南西の方へと伸びた。刃には「◯」の形に小さな穴が開いて、その向こうに地平線が覗けた。
10月6日
有木珠乃
曲線を描きながら、地面すれすれに構えているミットの中へと入っていくボール。
取り辛そうとは思うものの、視線は投手へ。
だってフォークボールの投げ方を知ってしまうと、見る度に「あの投手、指が長いのかな」と邪推してしまうからだ。
こんな野球の楽しみ方をしてしまう私を許してほしい。
日々
老女の背中には刺青のように刺繍が施されてあった。見事な花々。先生、切っておくれと仰るので糸切鋏で切って差し上げる。何十本もの刺繍糸を手にした老女は、その中から鮮やかな赤い糸を一本摘まみ出す。運命を自分で彩りたかったの、と彼女は笑った。彼女のすらりと長い薬指を私は美しいと思った。
日々
アニメのエンドクレジットを凝視する。やはり彼女だ。アニメーター長崎逸子。彼女の描く線は、あらゆるジャンルの作品に溶け込みつつも、私を惹き付ける固有の魔力があった。彼女の訃報が届く。頬を秋雨の雫が打つ。傘を差すと、一粒の染みに目が留まった。長崎逸子が今、雨を描いているのが分かった。
日々
地理準備室でオルゴールを見付けた。懐かしさに眩暈がする。僕が生まれる前の年号が彫られた卒業生作品なのに。かつて教室をいっぱいにしていたはずの子供たちの記憶が僕には埋め込まれていた。頭のメモリチップを取り外し、新しいチップを挿し込む。オルゴールの蓋を開けると、ハ長調の旋律が流れた。
永津わか
少し凹凸が分かる。鱗に似た皮膚は私の形に緩く沈む。ひんやりするのは秋の月に浸っていたからだろうか。温かくなる? 君と僕を足して割ったくらい。笑った口元から二股の舌が見える。君も変温動物になったら生きやすいよ。そうだろうか。どうだろう。でもたまには、長いものに巻かれるのも悪くない。
永津わか
あれもこれも考える。教科書に隠れた横顔の中身、渦巻く言葉にちくちくする心臓の不思議、眠ったら明日が来ないいつか。考えすぎらしい。大したことないからさ、と背中を押す手に足が縺れて悲しくなる。手を振って別れる。長考だね、と隣で駒が笑った。次の一歩を探しているだけだから大丈夫だよ、と。
江渡みきあ
僕の名前は"寿限無寿限無五劫の擦り切れ··"そう、長すぎるキラキラネーム。いやシワシワなのかな。真面目な彼女は全部を愛してるってフルで呼んでくれる。流石にこのままではと改名会議を開いた。いっそ"愛してる"とか?と僕が笑うと彼女が急に愛してる、って呼ぶから、僕の耳の先が熱を帯びた。
江渡みきあ
点滴に繋がれた彼女の声はふわふわ浮かぶ雲のように軽かった。「私、長生きしてもっと人生楽しみたいの」 俺は短い彼女の髪を撫でると病室を出た。その帰りに通い慣れたジムで黒く長い髪の女性と合流し、ジムでもその後のホテルでも汗を流した。あぁ長生きしながら人生を楽しみたいのは俺も一緒だよ。
江渡みきあ
幼馴染が結婚したと知り、苛立って親方を殴りクビになり、家賃も払えず追い出されて。ふらふらと辿り着いたのは化物が出る噂のボロ長屋。早速現れたろくろ首。それでも誰かにただ慰められたい気持ちに負けて、気づけば長い首に抱きついていた。苦しそうな声で聞こえてきたのは「オラは雄の狸だべよ‥」
星野あき
長い人生だから。シャキシャキする時も、クタクタする時もあるんだ。昨日の辛かった僕も、一昨日の黒く焼けた僕も、「美味しいね」って言われれば満足なんだ。ほら、今日も冷蔵庫が開けられて、「もう寒いから」って鍋で煮込まれる。これで僕の長い人生はおしまい、なんて長葱の独り言。
10月7日
あまなす
鼻が長い、ゾウを見て思う
ゾウにとっては、それが普通
ゾウは、なんとも思っていない
首が長い、キリンを見て思う
キリンにとっては、それが普通
キリンは、どうとも思っていない
鼻がどうだ
首がどうだ
頭がどうだ
色がどうだ
そんなこと考えてるの
ニンゲンくらいだ
あまなす
キミの歩いている道は
長いのかい?
短いのかい?
どうだろうねえ、けど
まだまだ、先は
あんなにあるみたいだ
嫌になってるのかい?
どうだろうねえ
長いほうがいいのかい?
短いほうがいいのかい?
どうだろうねえ
歩きながら、考えるとしようか
小野姫雪
上を見れば澄んだ空にうろこ雲。下を見れば赤色と黄色の葉の絨毯。冷たい風が頬を刺す。散り逝く儚い紅葉や銀杏の葉のように短い秋が終わる。そして、もうすぐ長い冬がやってくる。
小野姫雪
陽が落ちるのが早くなり、夜の時間が長くなる。街灯のない暗い道。まあるい月の明かりだけが私たちを照らしてくれる。言葉なく並んで歩くふたりの背中に冷たい秋風が吹く。すると寂しそうにしていた手が繋がれて冷たかった体も熱くなってしまった。
文乃きり
君の長い髪の毛がカーテンのように垂れ下がる。ああ、これから僕は君と愛し合うのだ。心臓は跳ね上がり、呼吸が浅くなった。苦しくて、幸せで、涙が零れ落ちる。そのまま手を離さないで。僕の全てを奪って。何も怖いことなんてない。これで僕らは二人きりだ。君は一層手に力を込めて、僕の首を絞めた。
文乃きり
君の長くて真っ黒な髪の毛が好きだ。白くて透明感のある肌も、細長く美しい指も。全部が愛おしい。僕の背丈を遥かに超える身長も、僕を包み込んでくれるようで好きだった。誰がなんて言おうとも、僕は君のことが綺麗だと思う。ああ、君のその少しだけ高めな笑い声も好きなんだ。聞かせてよ。「ぽぽぽ」
文乃きり
どうやら僕は記憶を失くしてしまったようです。僕はどんな人でしたか?不思議な人ですか。他には?長い間、病を患っていて、見えないものと戦っていたと。ケガもしていたんですね。いつ頃……中学二年生から高校三年生の今まで。なるほど、全て思い出しました。もう一度、強く頭を叩いてくれませんか。
たつきち
夕陽が作る影が長く伸びる。身長が10cm違う彼の影はそれ以上の差を作る。影の天辺に乗っかっている頭がとても小さくて隣を歩く彼を見上げる。
「何?」
「頭ちっさいよね」
「よく言われる」彼は言う。
「お前の頭も小さいぞ」と影を指差す。
確かに。何だか可笑しくなってふたりで笑った。
ミラバ
「すみません、1時間延長で…」
窓一つない薄明かりの部屋。受話器を壁に戻すと、時計の針が朝の4時から3時に巻き戻る。
(これでまだ明日が来なくて済む…)
だけど不安は止まらない。遠ざけても現実はまた来る。
夜更かし延長ルーム。その料金の支払い方を、私は知らないふりをし続けている。
速水静香
深海探査艇のライトが深海を照らす。未知の文字が刻まれた石柱。遺跡だ。探査艇のアームが柱に触れた時、遺跡が輝き始める。警報が鳴り響き、船長の顔が青ざめた。「圧力センサーが急上昇中!」通信機器からの無慈悲な報告とともに海底から巨大な影が徐々に浮上する。眠りから覚めた何かが動き出した。
速水静香
月明かりに照らされた長い石畳の道があった。そこに足音だけが周囲に響いた。旅人は提灯を手にして足を進めた。不意に鈴の音が耳に入り、振り返る。白い狐が尻尾を揺らしていた。「迷った魂よ」と狐が人語を話す。「お前の求めるものは、この先にある」旅人は狐に導かれ、霧深い森へと足を踏み入れた。
速水静香
長雨が続く中、私は古書店で一冊の本を見つけた。興味本位で汚れた本を開くと、そこには走り書きがあった。読み上げた瞬間、強烈な眩暈を感じた。とっさにしゃがみ込んで、目を閉じる。しばらく耐えていると、収まった。周りを見渡すと、そこは見知らぬ和室にいた。襖の向こうから足音が近づいてきた。
有木珠乃
今年のお祝いは、ネックレスにしてみたの。
いつもお花にしていたけれど、生花はいつかかれてしまうから。
そしたら、花言葉の意味もなくなってしまうような気がして……だから受け取ってほしいな。
りんどうのネックレスを。
いつまでも長生きしてね、おばあちゃん。
有木珠乃
気がつくと毎日チェックしてしまう、星占い。
いい日になるのか、悪い日になるのか。
ただそれだけを知りたくて見るのに、そっとラッキーカラーと同じハンカチを選んで出かけてしまう。
だから今日も今日とてスマホでチェック!
「嘘! 最下位だなんて」
どうやら今日は長い一日になりそうだ。
10月8日
松葉颯太
息子が私の元にまだ色の青い紅葉の一葉を持ってきた。息子は小ぶりな葉を指して足だと言った。どうやら紅葉は枝になっていたもので、息子が千切ったから不揃いな茎が二手に分かれている。私は息子の想像力に挑戦してみたくなった。私は茎を均等に千切り、舌の長い蛇だよと言って息子に紅葉を手渡した。
草野理恵子
「黒くて首の長い生き物は鵜? 私、今それかも」彼女は寂しそうにコートを開いた。彼女は鵜のように見え、お腹には赤ちゃんが丸い乗り物に乗って上を向いていた。ゼラチン状の円盤が振動している。「行ってしまう?」「そうかもしれない」
暗い日が続き、僕は首が長くしなる空っぽの鵜を抱きしめた。
松葉颯太
校長の要領悪さによって運動会が始まるのが一時間ほど遅れた。会場にいる皆が彼への怒りや不安を胸に、長く退屈な校長の話を待っている。彼は仏頂面で閉会式に登壇し「実は運動会の会場がどこか忘れちゃって……」「って小学校以外にあるもんか!」と、自分でツッコミを入れると急いで会場を後にした。
松葉颯太
読書嫌いの楓は先生に図書室に連れていかれた。借りたい本もなかったので、世界地図の入った長い筒を許可なく持ち出した。下校中、物珍しそうに近づいてきた小学生に筒を奪われそうになったので戦ったが、筒はボロボロになってしまった。楓は先生の機嫌を取るために読書の秋を全うしようと心掛けた。
草野理恵子
足の指が長くなった。まるで手のようだ。木の上を歩くの歩きやすい。よかった。私は手も手で足も手で赤い毛糸で編み物をし、すごくいっぱい編むことができた。蛹の中で一回全部溶けちゃうんだって。私の中が変化するのを感じる。次の私は赤いセーターを着る。次々大きくなってもいいように沢山編んだ。
10月9日
摂津いの
長い。もう秋だと言うのに気温は未だに猛暑日の記録を叩き出す長月の朝。滴る汗もそのままに、体育館で教師の話をずっと聞くのは長い。その感想しか心に残らない。大人になればこれも記憶の感想は変わるだろうか。
倉田こまめ
「ずっと前から好きでした」その一言で、僕の長い長い片思いは終わりを迎えた。頬を赤らめ、こちらを見上げる彼女。僕と双子の兄を間違えているのは明白だった。「違う、僕は弟のほうだ」「知ってるよ、あなたが好きなの」その一言で、僕の長い長い片思いは終わりを迎えた。
倉田こまめ
好きだった。憧れだった。だからこそ、あなたが変わってゆくところなんて、見たくなかった。いくらあなたといえど、時の流れには逆らえないことくらい、私にだってわかる。それでも、変わらないでいてほしかった。いつまでも、私の一番星でいてほしかった。長かった初恋は、朝焼けに消えていった。
冨原睦菜
孫と一緒に長い長い千歳飴みたいなドーナツを買ってみる。ひとくち頬張ると、街中を流れるラジオのような音が聴こえてきた。もうひとくち頬張ると『身体大事にしろな』と耳馴染みある声が聞こえた。「じいちゃんどしたん?ないてるん?」孫の声にハッとする。もう何十年も聞いていないお袋の声だった。
一羽すずめ
長いことどこへ行ってた?
そうね、レモンと柚子ともみじの星へ行ってきた。とんちゃんを探しに。長い旅だったから疲れたよ。もう冬眠するから静かにしてね。それでとんちゃんにはあえたのだろうね。あえたのか、あえなかったのか、わからない。でも宇宙にも、レモンと、柚子と、もみ・・・