若者のための労働組合 学生を使い捨てるブラックバイト
2023/11/1発行 学祭号(1056号)
学生が中心となって構成されている労働組合「ブラックバイトユニオン」。学生による学生のための労働組合である。アルバイト先での不当な目にどう向き合うか。ブラックバイトユニオン共同代表の荻田航太郎氏に取材した。
そもそもブラックバイトとはなにか
学生であることを尊重しないアルバイトをブラックバイトといいます。元はネットスラングであった「ブラック企業」から派生した言葉ではありますが、厳密には2010年代半ばに社会学者の大内裕和氏が、在籍していた大学の学生が授業にアルバイトのシフトが入っているため参加できないといったケースが増えたことから定義したものとなっています。勤務先から学業よりもアルバイトを強要され、単位落としたり留年したりといった問題が多発する状態からブラックバイトというものがあるのではないかと取り組みが始まりました。
ブラックバイトユニオンはどのような活動行うのか
学生であってもアルバイトとして働いていれば当然権利を持っています。学生自身が声を上げてその権利を行使できるよう私たちは活動しています。大事な点は、ブラックバイトユニオンはお助け機関ではないことです。賃金未払いやパワハラなどの労働相談があった際、私たちは相談者の代理として何かをするわけではありません。弁護士であれば代理交渉などをしますが私たちはそういった団体ではありません。労働組合において労働者は自ら声を上げる必要があるからです。労働組合として団体交渉の際には相談者と一緒に行い、未払い賃金があれば相談者自身が請求します。私たちは相談者自身が声をあげられるように一緒に戦うというスタンスです。私たちが活動する上で重要視する点は、学生自身が声を上げて問題解決することです。会社が学生をぞんざいに扱う態度を改める関係性を当事者が声を上げることでつくりあげることに重きを置いています。
ブラックバイトの特徴と発生する原因とは
基本的な特徴は「シフト強要」、「辞められない」、「過剰な責任」の三つです。またフランチャイズ展開の企業が多いです。特に塾や飲食店、コンビニです。これらの特徴は日本の産業構造の変化が起因しています。かつての日本は製造業が中心でしたが現在ではサービス業が中心です。そこから24時間営業のコンビニや飲食店などが参入してきました。ポイントは、こういった新興産業は労働内容が徹底的にマニュアル化している点です。その産業における利益追求の核心はマニュアル化されているため、労働者に経験は求めず、低賃金の労働力をいかに確保できるのかが重要になります。そこで深夜勤務などの無理が効く学生が戦力としてターゲットになるのです。学生は10代後半で社会経験が少ないという点で足元も見られています。先述したマニュアル化された仕事内容は店長でもバイトでもできるような仕事です。そうなると、店長と学生の大きな違いはマネジメントする仕事の有無です。店長には労働力を確保し維持管理する、学生から「逃げられないように」するマネジメント能力が求められます。学生バイトを確保できないと店長がシフトに入ることになり店長も長時間労働となるため、学生にシフト入ってもらわないと困るのです。ここからシフト強要が発生します。学生がアルバイトを辞めたいと申し出ても辞めさせてくれない現象も原因はシフト強要と同様です。職場に迷惑かかると言って学生の責任感に訴え、それでも辞めますと言うと就職に響く、懲戒解雇だと脅しにかかるのがブラックバイトです。実際は就職にも関係ありませんし懲戒解雇はできませんが、ここで不当な目に遭ってまで辞められない学生の事情もあります。一つ目の理由は学生の貧困化と奨学金問題です。学費の高騰や学生の親世代の賃金水準の低下により仕送り額が減少しています。学費と生活費を学生が稼ぐ必要性が高まっているのです。そんな学生にとってアルバイトは、遊ぶためのお金を稼げればいいというものではありません。奨学金は借金であるため借りないでおこうという意識もはたらき、「自発的に」深夜シフトに入る学生の姿があります。二つ目の理由は責任感が高く、人手不足により本当に学生アルバイトがいないと場が回らなくなることを知っているからです。他の理由としては、社会人として自分がやっていけるのかを試す気を持ちながらアルバイトをするというのもあるでしょう。これらがブラックバイトの発生する典型的な原因となります。
求人詐欺や契約書詐欺について
アルバイトの面接や採用された時は、テスト期間や就職活動の際はシフトに入らなくて良いと言われていても後からシフトに入れと言われたケースは多いです。契約書にサインやハンコをしていても、その契約書が違法であれば無効となります。サインやハンコがあっても引け目を感じる必要はありません。嘘をつかれた契約書ですから泣き寝入りせず声をあげてほしいです。
アルバイト先の証拠集めはどうすべき
証拠を取ろうと思った段階で労働組合に相談してほしいです。詳しい証拠集めの方法はアドバイスしてくれます。契約書や給与明細書などはできる限り手元に残しておきましょう。
声をあげる精神力がもたない場合はどうするのか
まず信頼関係を構築させる中で声を上げることの重要性について一緒に考えていきます。私たちも無理に声を上げろというのではなく、学生が泣き寝入りしないようにここで声を上げることが重要だと言います。無理に奮い立たせるようなアクションをとるわけではありません。
コロナ禍でのブラックバイトについて
コロナ禍の1年目は特に学生からの相談が多かったです。学生を都合の良い労働力として見ていることにコロナ前と変わりはなく、休業補償を申請させてもらえないケースがあることがコロナ禍での変化でした。いつ営業を再開するか不明確なものの、いつでも対応できるよう学生をシフトカットで休ませ労働力を確保しながら、休業補償を払わない企業があったのです。アルバイトによってシングルマザー家庭の家計を支えていた、私学の薬学部に通いながら学費を稼いでいたといったような学生たちは貧困化しました。
休業補償を手にするまでの過程とは
ある事例では休業補償10万円を労働組合で団体交渉を行った結果円滑に手にすることができましたが、ほとんどはすんなりとはいきませんでした。塾でアルバイトをしていた学生は団体交渉が成立しなくなったため、ビラ配りやマイクでの訴えを行いました。そうしてやっと後日の団体交渉にて、声を上げた労働組合の組合員だけでなく全従業員に対して休業補償が支払われた休業補償の申請ができたというケースもあります。
最近の労働相談の傾向とは
以前と変わらず賃金や労働条件に関する相談もありますが、それ以外に労働環境の相談が増えています。例えば食品ロスが多いコンビニのあり方に疑問抱きアルバイトを辞めた相談者がいました。また外国人従業員を受け入れないといった人種差別的な方針をとる職場に反感を抱き辞めた相談者もいました。そしてパワハラやセクハラという相談もあります。そのような相談が増加した理由ではっきりとしたものはありませんが、賃金や労働条件だけが重要なのではないと最近の学生は考えるのかも知れません。社会問題についてもよく考えているのでしょう。賃金に関係ない話でも当事者として向き合う学生が増えたのではと思います。またこれは非常に興味深いのですが、バイト先で労働組合を作りたいという相談もありました。某大手学習塾では塾長が長時間労働で辞めてしまい学生が塾講師以外の業務を行うことになりました。しかし賃金は少ないままであったので労働組合を作りたいと言った学生がいたのです。自分で声をあげたいという学生が増えてきたのではないかと思います。労働組合の一番の特徴は必ずしも違法ではない事柄についても交渉し、闘うことができるということです。まだ未知数ではありますが、セクハラの事実を認めさせるとか食品ロスに関する職場でのルールづくりを企業に申し出るとか色々なやり方があるのではないかと考えています。
ブラックバイトユニオンはどのような流れで問題を解決するのか
労働組合は企業に対して申し立てができます。それがユニオンの基本的な解決方法です。また法律上、企業は団体交渉に応じる必要があります。例えばタイムカードが15分単位で打刻されていれば、それは違法であるため賃金未払いがあればその要求ができます。申し立てをしても最初は容易に会社は認めません。未払い賃金の多くは企業側のうっかりミスというより、違法性を認識しつつ払わない場合が多いため、申し立てをされてもすぐに全額支払うことは少ないのです。しかしそうなれば争議活動を行うことで会社に要求を通します。労働組合には争議権があります。具体的にはビラ配りやマイクを握っての訴え、厚生労働省の記者クラブでの記者会見など社会的な争議活動が中心です。かつての労働組合は大企業の男性正社員を主流として構成され、現在でも学生からすれば身近な存在とはいえません。しかし私たちは誰でも一人から入れる労働組合です。もちろん正規非正規問いませんし、国籍や年齢も関係ありません。
学生に一言
働いていておかしいと思ったら誰かに相談してください。親や友達でもいいけれどやはり労働が専門のNPO 団体や労働組合にアクセスしてみてほしいです。親に相談した場合に「それは社会では普通だから」などと言われることがあるかもしれません。しかし学生が職場で抱いた違和感は正しかったりするわけです。人手不足と叫ばれますが結局は従順で使い捨て可能な労働力がほしいだけなのです。ブラックな職場を労働者側が容認してしまうと人生における豊かさが切り詰められてしまいます。学生自身がシフト強要や店長からのパワハラを受け入れる必要は全くないですし、自分で声を上げる必要があります。何か不当なことをされたら泣き寝入りせずにぜひ声をあげてみてほしいです。それが社会を良くしていくと僕は思っています。(長谷川桜子)