子ども 日本風土記〈長野〉より① 「 ことしもかあちゃんが工場へ行く 」 3 江島 達也/対州屋 2023年3月29日 21:08 ことしもかあちゃんが工場へ行くことしもかあちやんは、十月二十六日から大町の東洋ぼうせきに行く。きょ年の冬もそうだつた。かあちゃんは、朝の十時半に出て、ひとばん工場にとまつて、つぎの日の四時半ごろ帰ってくる。行くときは、瀬戸川のとうふやのわきまで、マイクロバスがむかえにくる。かあちゃんは家から二十分ぐらい歩いて行ってのって行く。帰りはまた、とうふやのわきまでマイクロバスできて、歩いて帰る。帰ってくると、すぐ畑の仕事に行くこともあるし、家の中で仕事をしていることもある。きょうもまたかあちやんは、工場へ行った。学校で勉強しているときは、なんでもないけれど、 帰るとき、「かあちゃんいないんだっけ」と思って、きょうもやだなと思いながら帰る。うちに帰って、かばんをおろして、「かあちゃんは、あっちの方にいるんだな」と西の空の方を見る。ねえちゃんは、中学校のきしゅくしゃにとまっていて、土曜日にしか帰らない。とうちゃんは、どかたに行って夜の六時ごろしか帰らない。かあちやんが、おきを入れておいてくれたこたつにあたって、マンガを読んだりしている。五時、六時、とけいの音が、「カチカチ」大きくいっている。六時のとけいの音が、いつもよりいっそう大きい音でさびしかった。話しあいてもない。家の中は、きのうよりひろくなっているかんじ。そとはまっくらで、なにかはいってきそうな気がする。かおがあつくなってきた。社会の本を読んだり、算数のわり合の勉強をしていた。つまらない。とうさん早くこないかな。そとで、自動車の音がした。ゆっくりはしっている音だ。いつもとうちやんがのってくる車の音だ。とまった。とうちやんはだまってとをあけた。ほっとした。いままでのさびしさもふきとんだ。とうさんはくたびれているようだ。こんなことは、なん日もあった。そしてらい年の四月までつづくんだ。かあちゃんは、よくおかしやノートなどをかってきてくれる。わたしがさびしがっていることを思ってかって きてくれるんだな。四年のときは、そうは思っていなかった。かってきてくれなんでもいいから、工場へ行かなんでって、かあちやんに言ったこともあった。かあちゃんは、「農業だけじゃ、やっていかれないから、少しでもお金がはいるようにしなくちやあいけないからな」と話してくれた。さびしいけれどもしかたない。がまんしなくちゃ。(上水内部小川北小五年 宮下道子)子ども 日本風土記〈長野〉より****ひとりっ子なのだろうか。冬の木曽路の、さびしい夜の光景が浮かんできます。北国の農家では、やはり冬季には農業が成り立たない為か、こうした出稼ぎのことを綴った作文が多く見られます。しめくくりの「がまんしなくちゃ。」の言葉には、何とも胸が詰まります。木曽海道六十九次を描いた広重の浮世絵の中の、37番「宮ノ越」は、夜道を帰る親子の姿が描かれており、私がシリーズの中で、最も好きな一枚です。このような土地であるからこそ、親子の絆というものは、より深かったことでしょう。 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! ※「チップ」は有難く拝受させて頂きます。もし、この記事が多少でも役に立った、或いは「よかったので、多少でもお心づけを」と思われましたら、どうぞよろしくお願いいたします。贈って頂いたお金は1円たりとも無駄にせず大切に使わせて頂きます。 チップで応援する #長野県 #作文 #子ども日本風土記 #上水内部小川北小学校 3