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少女の日記としてではなく、一人の人格ある人間のものとして「アンネの日記 増補改訂版(文春文庫)」を読む ⑤ ミープ・ヒース

アンネ達、8人のユダヤ人をかくまい、手助けしたのは、以下の引用に出てくる4人の一般オランダ市民だった。
もちろん、かくまった事がナチ親衛隊にばれると、自分たちにも命の危険が及んだのである。
私は、特に日記の中にミープ・ヒースという女性の名が頻繁に出てくることに気が付いた。
オーストリアで生まれたミープは幼い頃、実親が貧しく、子どもに十分な栄養を摂らせてやることができなかった為、裕福なオランダ人の家庭に引き取られ育ったという経歴を持っていた。
引き取った先のオランダ人家庭は、ミープを非常に温かく迎え入れ、実の子どものように接した。
ミープの中には、そのような、当たり前のように「困った人を助ける」オランダ人の気質が受け継がれていたと思われる。
仕事の雇い主であったアンネの父、オットー・フランクから潜伏生活の手助けを頼まれた時、二つ返事で承諾している。
彼女には、ヘンクという夫と結婚したばかりであったが、夫ヘンクもまた、すぐに8人のユダヤ人を手助けすることを快諾している。
何の根拠も無いユダヤ人を目の敵にし、抹殺しようとするヒットラー=ドイツ人に対し、ミープ・ヒースら命をかけて正義を貫こうとした4人は、それこそアンネの目には「ヒーロー」以上の存在と映ったことだろう。
その心情が、日記の各所に読み取れる。

クリスマス用として、食用油とキャンディー、シロップの特配がありました。
デュッセルさんはハヌカー祭のお祝いとして、すてきなケーキをうちのママとファン・ダーンのおばさんに贈りました。
ミープがデュッセルさんに頼まれて焼いたもので、事務所の仕事やらなにやらのほかに、こんなことまで頼まれるなんて!
マルゴーとわたしは、小さなブローチをもらいました。
1セント(百分の一ギルダー)の硬貨でできていて、ぴかぴか光っています。きれいはきれいなんですけど、なんとも形容のしにくいものです。
わたしのほうからも、ミープとベップにクリスマスの贈り物があります。
これまですくなくとも一か月ほど、毎朝のオートミールに入れるお砂糖を節約して、ためておいたんです。

アンネの日記増補新訂版P263

一九四三年十二月二十七日、月曜日
金曜の夜、生まれてはじめてクリスマスの贈り物をもらいました。
クレイマンさん、クーフレルさん、そしてミープとベップ、みんなが今年もわたしたちには内緒で、思いがけない贈り物を用意してくれたんです。
ミープは、すばらしいクリスマスケーキをこしらえてくれました。
表面に、「平和―1944年」という文字が書かれています。
ベップのくれたのは、戦前のような甘い上等のクッキー五百グラムほど。
そのほか、ペーターとマルゴー、そしてわたしには、 ヨーグルト一瓶、おとなたちにはビール一本ずつ。
ぜんぶがとてもされいに包装され、 一包みごとにカードが飾られていました。
こんな贈り物をもらわなければ、クリスマスはわたしたちの知らないうちに過ぎてしまったことでしょう。
アンネ

アンネの日記増補新訂版P268

わたしたちが生きのびてこられたのも、ひとえにこの人たちのおかげですし、どうかこれからもわたしたちを支えて、ぶじに安全の地まで到達させてくれるように祈りたいものです。
そうでないと、この人たち自身、現在追及を受けているわたしたちとおなじ運命に陥ることになります。
わたしたちの存在は、きっとたいへんな重荷になっているのにちがいないのに、この人たちの口から、そういう愚痴は一言たりとも聞かれませんし、わたしたちのかけているさまざまな迷惑についても、不平をこぼすのを聞いたことがありません。
だれもが毎日のようにわたしたちのところへあがってきて、男たちには会社のことや政治のことを、女たちには食べ物のこととか、戦争に伴うさまざまな不自由のことを、そして子供たちには、新聞や本のことを話してくれます。
いつもせいいっぱい明るい顔をくずさず、お誕生日や祭日には、花やプレゼントを持ってきて、 つねにできるだけわたしたちの力になろうとしてくれてくれています。
この恩は、けっして忘れてはならないと思います。
戦場でも、ドイツヘの抵抗運動でも、勇敢に闘っている人たちはほかにも大勢いますけど、わたしたちを支えてくれているこの人たちは、その快活さと誠意とによって、またとないヒロイズムを発揮しているのです。

アンネの日記増補新訂版P308











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江島 達也/対州屋
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