私が対州馬を絶滅から救いたいと思う理由 その㉙
調教 = 「トーン(音程)」のこと
馬は、言葉の意味を理解しませんので、指示の言葉=馬語ではありません。
馬語とは、馬とのコミュニケーションの要素全体を指す言葉であって、人が発音する言葉は、その一部に過ぎません。
乗馬には乗馬の、長崎の荷運び馬にはそれぞれの決められた指示の言葉があります。
例えば、「止まれ」の指示語は乗馬では「ウォー」ですが、長崎の荷運びでは「ダァー」と言います。
大事なのは、言葉の違いではなく、その言葉を発する時の「声のトーン」です。
馬を止める時は、より注意を促す時なので、「ダァー」を低く太く発音します。
その時には、同時に手綱を下方に引く(頭を下げさせる)、馬の方を向く(前にいる時)、手を馬の前にかざす等の動作を同時に行います。
特に、馬が興奮した時など、えてして人は甲高い叫び声を上げてしまいますが、この高い音のトーンは、馬にとっては、「苦手な」「興奮させる」音程なので、逆効果になってしまいます。
この高い音程の音は、馬に「それダメ!」「何してるの、行くよ!」などという指示を伝えるときに使う舌鼓(ぜっこ)もそのひとつです。
この舌鼓も微妙に高さや強さ、音程を変えることによって伝えるメッセージの意味が変わってきます。この舌鼓は、動物にとってよく聞こえるトーン(音程)なのです。
試しに道で見かける犬や猫に向かって、この舌鼓を送ってみると、かなり遠くからでも、こちらの方を向きます。
もっと強く「いけない!」という意味を伝える時は、言葉というより「シーッ!」という音を出します。
よく動物を追い払う時に「シッ、シッ!」と言いますが、それも同じ理屈ですね。
口の隙間からもれてくる空気音は、動物が嫌う音だからです。
試しに、野良猫に出くわした時に、その目をじっと見て「シーッ」と音を出してみてください。すぐに猫は一目散に逃げだすと思います。
反対に、やさしい顔をしてじっと見つめ低く静かな声で「やあ、おはよう。元気でいるんだよ」などと言ってみると、おそらく猫は逃げ出すことも無く、むしろあなたに親しみの表情を見せるかもしれません。
考えてみたら、これは同じ動物である人間でも一緒ですね、知らない人であっても、やさしい目で穏やかに話しかけられたら、誰でも警戒心を解くでしょう。
反対に険しい顔で舌打ちでもされたら・・・もう結果はおわかりでしょう。