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地方創生における「縦糸」の勘違いと、第三の糸としての「意図」

地方創生の議論では、「縦糸」と「横糸」がよく例えとして使われます。「縦糸」は地域の不変の基盤、「横糸」は新しい価値を生むための柔軟な要素。

しかし、この縦糸の理解が曖昧なまま議論が進められることが少なくありません。たとえば、「せいぜい50年~100年の伝統」や「人間の手で変えられるもの」を縦糸だと勘違いし、その維持に過剰なエネルギーを注ぐケースが散見されます。

ここで知っておいてほしいのは、本当に縦糸であるものは、人間の力では変えられないものだということです。

言い換えれば、縦糸は存在そのものが揺るがないものなので、「守るべきか」や「変えるべきか」と心配する必要はありません。それをどう活かし、横糸と結びつけるかが重要なのです。



縦糸は何か:揺るぎない基盤とは?

まず、「縦糸」の本質について具体的に説明します。縦糸とは、地域において「人間の力では変えられない」基盤のことを指します。この基盤は、地域の性質そのものを形作っており、プロジェクトの土台として必須の要素です。

縦糸の具体例

  1. 地形と自然環境

    • 山、川、海、気候、火山など。これらは人間が変えようとしても根本的に変えられません。
      たとえば、雪深い地域はその地形と気候のために冬の積雪が避けられませんし、逆に南国のような温暖な地域が雪国になることもありません。

    • : 日本の豪雪地帯(新潟、青森など)は、冬に大量の雪が降る地形と気候条件によって成り立っています。この「雪が降る」という事実は変えることができません。

  2. 歴史の不可逆性

    • 過去に起きた出来事や地域に刻まれた歴史は、変えることができません。戦争、産業の発展、文化の流入などは、地域の成り立ちを形作り続けます。

    • : 広島の原爆の歴史。どれだけ年月が経とうとも、この歴史を消すことはできませんし、それが今も地域の価値観や文化に影響を与えています。

  3. 自然の法則

    • 地球の自転、重力、昼夜のリズム、季節の移り変わりなど、人間の力では制御できない物理的な現象です。

    • : 日本では四季が明確に分かれており、この気候特性は地域の農作物や文化に大きな影響を与えています。これも変えられるものではありません。


縦糸の勘違い:変えられるものを基盤にしてはいけない理由

地方創生の議論では、「縦糸」を誤解してしまうことがあります。特に「変えることができるもの」や「短期的な伝統」を縦糸としてしまうことが問題です。

勘違いの例

  1. 短期間で形成された伝統

    • 例: 「このお祭りは50年前からやっています」といったもの。地域にとって大切な文化ではありますが、50年の歴史は、人々の価値観や環境の変化によって簡単に形を変える可能性があります。

    • なぜ縦糸にならないか?
      その土地を根本から支えるものではなく、人の意思で増やしたり減らしたりできる要素だからです。

  2. 人間の手で影響を受けやすい自然

    • 例: 「この地域の森林が縦糸です」。確かに森林は重要な資源ですが、伐採や開発、外来種の侵入によって簡単に変化します。これは揺るぎない基盤とは言えません。

  3. 住民の感情や価値観

    • 例: 「地域の誇りを縦糸にしましょう」。住民の感情は地域の動機付けには重要ですが、個人の価値観や環境の変化によって揺らぎやすいものです。


縦糸は変えられないからこそ、心配無用

ここで強調したいのは、「本当の縦糸は変えることができない」という事実です。

守る必要がない縦糸の理由

縦糸は、そもそも人間がどう努力しようとも変えることができません。たとえば、地形や気候、歴史はそのまま存在し続けるものであり、変わることを心配する必要はありません。それをどう活かすかが議論の焦点になるべきです。

縦糸を守ろうとすることのリスク

一方で、「守らなければならない」という意識が過剰になると、次のような問題が生じます

  1. 変えることができるものを縦糸として過剰に保護し、革新を妨げる。

  2. 縦糸が本質的に何であるかを見失い、本当に重要な基盤を活かすことを忘れる。


第三の糸「意図」の役割

縦糸が揺るぎない基盤であり、横糸が変化を生む要素だとすれば、第三の糸「意図」は両者を結びつける存在です。「意図」は、縦糸と横糸を調和させ、地域全体が目指すべき方向性を明確にする力を持っています。

意図が必要な理由

  1. 全体をまとめる方向性を示す
    縦糸を基盤としながら、横糸で地域に新しい価値を織り込む際、「なぜこの方向性が重要なのか」を示すのが意図です。

  2. 多様な価値観を包み込む
    他人の心は変えられませんが、意図を明確にすることで、多様な価値観を尊重しながら共通の未来像を描くことができます。

  3. 一貫性を保つ
    地域活性化プロジェクトがぶれないように、意図が軸となり、全体を支えます。


具体例:雪深い地域での三つの糸

  1. 縦糸: 冬の豪雪という自然条件、雪と共に生きる知恵。

  2. 横糸: ウィンターツーリズム、雪室技術、雪を活用した芸術祭。

  3. 意図: 「雪の価値を次世代に伝える」をテーマに、観光や教育、地域ブランドを統一。


おわりに:揺るぎない基盤を活かし、未来を紡ぐ

地方創生における「縦糸」「横糸」「意図」の三要素は、すべてが揃って初めて美しい織物を作り出せます。縦糸の本質を見極め、横糸で新たな価値を織り込み、意図で全体を統一する。このプロセスが、地域の未来を形作る鍵となるのです。

重要なのは、「変えられない縦糸をどう活かすか」です。本当の基盤を見失わず、それを起点にして変化を作り出す議論を始めましょう。それが、地方創生の成功の第一歩です。

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Horo(鈴木和浩)
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