すてる すてる
ひどいシトラスの匂いがする。
シャワーを浴びずに勝手に寝るなって何回言っても聞かないのだから、私のベットはアロマディフューザーになってしまった。
横になった体をむくりと起こすと、重たいカーテンの隙間から入る日差しに、この狭いアパートの机の上が当てられていた。
そこには、カップヌードルのゴミや空いた缶ビールがうず高くってほどじゃないが積まれていた。このくらい片付けていってくれてもいいのにな、というのは少しだけわがままだろうか。腹を掻きながら立ち上がり、それらを集めて拾う。
ゴミ箱のあるキッチンに向かう途中、玄関に目をやる。靴は私の分しか置いてはいない。
あいつはもう、ここにはいない。
ひどい悶着の次の日にしてはどこか冷静で、私の心はもう冷たくなってしまったのかもしれないなどと思う。
綺麗に真っ白のキッチンの流し台の直ぐ横に、ひとつだけ浮いた赤茶けた円形があった。なんだろうこれは、と一度思ったけれど、そこにはもともとあいつの灰皿が置いてあったことを思い出した。灰皿のひとつすらも律儀に持っていくなんて、ほんとうにケチなやつだなと思った。
しかも、吸い殻が一つ、流しの奥の方に隠すように置かれていることに気がついた。
そいつはまだ、湿気った形跡のないものだった。てことはつまり、昨日揉めて私が寝たあと、あいつは一服していったってことになる。私はなんだかそれが、すごく許せなかった。
むかし、あいつが言っていたことを思い出した。それがどうにも許せない。
今すぐに拾って、捨ててやろうとした。
気持ちも一緒にせいせいさせてやるためだ。
しかしあるべきところにゴミ箱はなかった。
それも持っていかれたのだ。
「あいつ……」
気がつけば走っていた。
裸足だった。何かの主人公のようでクサくて仕方がないが、まだあいつが近くにいる気がしたからだ。いやいなくとも、何だか気持ちが落ち着かないのだから、こうするしかなかった。
駅まで向かう道の、最後の曲がり角を曲がった先に、いた。大荷物を持って歩いていた。
あの吸い殻もまだ新しく、出たのはそれほど前ではなかったみたいだった。
見つけたとき手に持ったままのゴミを全部ぶん投げてやろうなど考えたが、ふと私は気がついた。
これじゃまるで、
私に未練があるみたいじゃないか。
すごく複雑な、
いいやきっと複雑ではない。
私が考えることを、明文化することを放棄した気持ちがそこらじゅうに蟠り、ついには涙という形を伴ってそれは溢れた。
「きっとおまえを捨てるときは、このタバコも全部捨てちゃうよ」
「だって、おまえの好きなこれを吸っていたら、まだおまえに未練があると思われるだろう?」
未練があるのは私じゃないだろう。
覚えているかも怪しいことを、いつまでもそうして捨てられないでいる。
まだ中学生です