政治家の役割とは何か?

政治家の役割とは何か?

最もシンプルな問いだが、あなたは何と答えるだろうか。

僕は長らく、「実行すること」だと思ってきた。小泉純一郎さんが長く首相を務めた後、日本では1年ごとに総理大臣が変わる時代だった。第一次安倍政権に始まり、福田、麻生、鳩山、菅、野田……。菅さんや野田さんは在位1年は超えたものの、短期政権だと言って差し支えないだろう。短期政権では、腰を据えたような政治は難しい。意気揚々と首相の座についた人たちが、あっという間にジレンマに絡め取られて身動き取れなくなっている様を見て、「小泉さんのような実行力のある政治家はいないのか」と嘆いたものだった。

我ながら、愚かな考えだったと思う。

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2022年10月4日、朝日新聞の耕論にて、「「聞く力」からの1年」という岸田政権の総括ともいえる有識者の私見が寄稿されていた。

僕が「なるほど」と唸ったのは、政治学者の三浦まりさんの寄稿だ。

三浦さんは自身が共同代表を務める団体で、女性の政治リーダー育成に取り組む教材用のビデオを作ったそうだ。その中に「政治家の役割は何ですか?」と12人の女性政治家に尋ねたインタビューが収録されているという。彼女らは全員が「聞く力」だと答えたそうで、それを学生や市民に見せると驚くと三浦さんは嘆く。

「政治家の仕事って聞くことだったんですか」と。一方的に自分の意見を押し付けるのが政治家というイメージが強く、自分たちの声を聞いてくれる存在だと見ていなかったのです。質の高い政策は、政治家と有権者の豊かなコミュニケーションから作られます。しかし、話を聞いてもらえると思っていなかったり、最初から諦めたりしている人々が多くいます。民主主義の観点からとても深刻な事態です。

(朝日新聞デジタル「(耕論)「聞く力」からの1年 三浦まりさん、角谷浩一さん、阿川佐和子さん」より引用、太字は私)

2021年9月、岸田文雄さんが自民党総裁選で自らをアピールしたときに、口をついたのが「聞く力」だった。小さなノートを手に、聞いたことをメモしていると語っていた。

リベラルを自認している僕は、とうの昔に政治家の発言なんて鵜呑みにしていない。だけど「聞く力」という言葉には、岸田さんの実感が込められているような気がした。安倍・菅政権で、都合の悪い情報がとことん排除されていった中で、国民やメディアによる「耳の痛い」批判も聞いてくれるんじゃないかという僅かな期待を持ったのも事実だ

すっかり忘れていたけど、当時、こんなnoteも描いている。

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パフォーマンスの時代だ。

誰かの話をじっくり聞くことの意味が軽視されていて、それが独断であったとしても「やり切る」ことが良いと見做されている。

結局、あれだけ多くの反対意見があったのに(SNSのリアクションでなく、各メディアの世論調査で明白だった)、ついに国葬を止めることはなかった。一部では喝采を浴びていたようだが、聞く力とは、何だったのだろうかと悲しくなる。

これから、政治はどうなっていくのだろう。

いま話題になっている沖縄の基地問題は、政府が沖縄の人たちの声を聞いてこなかったことにより決定的にねじれた状態が続いている。デマを流され、インフルエンサーに笑い者にされている。そのことによって、当事者が二重にも三重にも苦しむことを、聞く力を持つ岸田さんはどれだけ理解しているのだろうか。

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政治家は、あくまで国民の代表だ。

国民が全員集まって合議制をするわけにはいかないから、選挙によって「あなたに任せるよ」と言われた人たちが政治を運営するという構造である。

だからこそ、国民の声をまず聞くことは大事だろう。言うまでもない前提として片付けられている感もあるけれど、「聞く」ことが蔑ろにされている今、「俺たちの声を聞いてくれ!」ともっと叫ばないといけない世の中になっている気がする。

叫べば喉が痛くなる。叫んだことで「うるさい!」と周囲から攻撃されるリスクもある。だから、できれば叫びたくない。平穏な生活を送りたい。

それでも三浦さんが指摘するように、「広く聞かず済む政治構造」があるのであれば、「聞かずにはいられない」といった状況を再構築しなければならない。

それがどうすれば実現できるか。少しでも前進できる解を求めて、考えを深めていこうと思う。

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