チップを渡すという行為
ヨーロッパやアメリカを訪ねるとき、日本の商習慣との違いが幾つかある。「チップを渡す」というのも大きな違いの1つだろう。
昔はこの行為を嫌悪していて、なけなしのお金でモノやサービスを購入し、その上で更に10〜20%のお金を支払わなければいけないのか納得がいかなかった。学生時代を含む20代の頃はお金もなかったし、サービスの水準に関して何の参照点も持ちえていなかったからだ。
だけど少しお金に余裕を持ち、たぶんそれなりに考え方も成熟してきたからだろう。チップを渡すという行為がとても双方向で良好な関係性を築く上で有効なものだと思えるようになった。「良いサービスをしてくれてありがとう」の返礼を示すものでもあるからだ。
確かに「ありがとう」「Thank you!」「Danke schön!」と言葉を掛けることが、相手に励みになることは間違いない。関係性を築くこととチップ=お金をあげる行為が直接結びつかないことも分かる。サービスの総量は個人の頑張りでなく、サービス主体者(レストランだったりUber運営会社だったり)の仕組みでマネジメントすべきという考え方にも異論はない。
ただ現実的な問題として、チップは個人にとって重要な収入源になる。
レストランでの売上はお店に回るが、いかに繁盛しようと事前に提示されている給料に変化はないだろう(海外の事情は分からないが出来高制を取っているところはそう多くないのでは?)。日本でいうお心付けに当たる行為が派生して、日常的にチップという形で示しているに過ぎない。
そんな習慣が僕は日本でも広まれば良いのにと思っている。(もしかしたらエンジニアや人事にも同じことが言えるかもしれない。どんな形でチップの支払いが行なわれるかは別にして、法人への対価とは別に、貴重な情報を仕入れてくれた「フロントマン」には個別にチップを払っても良いはずだ)
そのために僕は以下を提案したい。
・「チップが渡る」ことを肯定すること
・「チップが渡りやすくなる」仕組みをサービスの中に盛り込むこと
前者は、見方を変えると「中抜き」として捉えられるかもしれない。また税制上どんな扱いにすべきか考えるとキリがなくなってしまう。その懸念は多々あるものの基本的には肯定してほしいなという願いを込めて。
後者は、Uberの仕組みが参考になる。サービス終了後にタクシードライバーの評価と共に「チップを払いますか?」という画面が出てくる(1ユーロ、2ユーロ、5ユーロみたいな選択肢と共に)。直接手渡すのは躊躇われるけれど、ボタン一発で済む気軽さがあるなら分かりやすい。こういうUI/UX設計がサービスの中に盛り込まれていることは重要だ。
考えてみれば、noteの「サポート」もチップのようなものだ。
とりわけWebサービスは無料になりがちだけど、クリエイターを支援するためにピースオブケイクさんはチップに近い概念をサービス設計に組み込んでいるのではないか。素晴らしいサービスだなあと改めて思う。