見出し画像

華やかなんだけど、どこかイラついている。(企画展「アレック・ソス 部屋についての部屋」を鑑賞して)

東京都写真美術館で開催されている企画展「アレック・ソス 部屋についての部屋」に足を運んだ。

部屋についての部屋(A Room of Rooms)」というのは、写真家のソスが初期に制作したシリーズだ。『Sleeping by the Mississippi』という写真集に掲載されている作品が並び、Room1ではどこかチャーミングなポートレートが楽しめる。

ただ、そんな印象が大きく覆るのが、Room5で掲示されていた「I Know How Furiously Your Heart is Beating」というシリーズである。直訳すると“あなたの心臓がどれだけ激しく鼓動しているか知っている”となるが、そこで掲示されている作品の多くが、華やかな衣装や背景、構図の中で映る物憂げな表情たちである。

「Anna, Kentfield, California」の老婆は、おそらく人生を何とか乗り切って生き抜いてきたのだろう。だがその表情はどこか“諦め”の境地に達したような表情を浮かべている。80年ほどだろうか、それほど長く生きてきた老婆に、「人生なんて、意味ないよ」なんて言わんばかりの表情をされると、切なくなってしまう。

パートナーの男性の横で寝そべる女性(「Sonya and Dombrovsky, Odessa」)の表情も、何ともいえない。男性が薄ら笑いをしている横で、満足とも不満足ともいえない顔を浮かべている。

要するに、華やかなんだけど、どこかイラついているのだ。(というふうに私は見えた)

イラついているというのは、私なりの解釈だ。もしかしたら、ただただ緊張していたり、何かに一点集中していたりするのかもしれない。ネガティブでなく、ポジティブなエネルギーを携えている可能性もあるのだろう。私は、そうは見えなかっただけだ。

作家であるアレック・ソスのシグネチャーとは何か。

私は、異なるふたつ(以上)の概念を、同時に表出することができることだと思う。それは村上春樹の小説を読んで、

「ああ、これはハッピーエンドの話だね」
「ええ?バッドエンドじゃない?ほんとに全部読んだ?」

なんて、真逆の解釈が生まれる類の作品と共通している。誤読の誘発。それはとても人間的で、豊かな想像力の証明といえるだろう。

当然ながら、それができるクリエイターの才能は、間違いなく「非凡」といって差し支えないだろう。まだ50代中盤、これからも味わい深い作品を発表してくれるはずだ。

──

企画展は2025年1月19日まで開催中。

「ロスト・イン・トランスレーション」から着想を得た、「Park Hyatt Hotel, Tokyo」も幻想的で美しい。映画が好きな人は、企画展を訪ねて損はないと思います。

#アレック・ソス
#部屋についての部屋
#ARoomofRooms
#東京都写真美術館
#写真
#部屋
#美術館
#美術展
#企画展

記事をお読みいただき、ありがとうございます。 サポートいただくのも嬉しいですが、noteを感想付きでシェアいただけるのも感激してしまいます。