GMOインターネットグループ代表熊谷さんから学んだこと
こんにちは。スマートバンク 代表の堀井(@shota)です。
先日、GMOインターネットグループ代表の熊谷さんと会食させていただく機会があり、とても深い気付きがあったので備忘録として書き残したいと思います。
今年でインターネット業界に飛び込んで16年目になるのですが、インターネット黎明期から第一線で活躍され、今尚、上場企業経営者として日本を代表する会社を率いられている方から直接、お話を聞けることは滅多にないので、大変貴重な機会となりました。
このエントリーは、あくまで熊谷さんのお言葉を受けて自分なりに解釈したこと、感じたこととして書いていきます。
上場企業を経営する上で、組織と事業を拡大させ続ける型はあるのか?
自分も起業家の端くれとして、日々、会社経営に従事していますが、
経営的な経験値はステージが変わらないと得られないことが多く、経営者として成長していく上で、常に非連続な成長を目指し、経営のステージを上げていくことが必須かと思います。
単体事業のみではなく複層化した事業を束ねて、プライム市場での企業経営を続けている熊谷さんに、真っ先に聞いてみた質問は「上場企業を経営する上で、組織と事業を拡大させ続ける型はあるのでしょうか?」でした。
組織は宗教に学び、経営は財閥に学ぶ
その問いに対して回答は「組織は宗教に学び、経営は財閥に学んでいる」という内容でした。
会社を創業して10年以上会社を存続できるケースは極端に少なく、創業して10年後の存続率は6.3%、20年後に残ってる割合はわずか0.3%しかなく、そもそも会社というのは続かない。
会社は、従業員を雇用し、給与や賞与を支払い、基本的に会社を存続するだけでも難しい。逆に宗教組織はお金をもらっている。お金をもらいながら1,000年単位で残っているのは宗教組織だけ。
宗教に共通する目標設定と5つの特徴
宗教には共通する内面的な目標と、5つの共通する外形的な特徴が存在する。事業を作るのは組織であり、組織に宗教のメソッドを如何に組み込んでいけるかが重要。
内面的な目標の部分では、GMOインターネットグループでは熊谷さんは一度も儲かるから事業をやろうという話をしたことがなく。お客さまを幸せにする。お客さまが喜ぶからやる。No.1サービスを作り、社会と人々に貢献するという目標を掲げているそうです。
また、外形的な5つの特徴を取り入れるという点では、以下のような点を実際に取り入れられているそうです。
毎週月曜日にグループ会社の社長並びに経営幹部が集まって、スピリットベンチャー宣言を唱和
パートナー(従業員)にはGMOイズム(社是・社訓)が配布されている
パートナーは必ず、左胸にGMOインターネットグループの社章のバッチ(銀色に輝くしっかりしたやつ)を付ける
GMOインターネットグループのポーズ(No.1)があり、写真撮影のポーズでは皆んなが同じポーズを取る
朝会などの会議やミーティングではGMOイズム(社是・社訓)の唱和、また宴席での音頭は「かんぱい」(乾杯=完敗)ではなく、「かんしょう」(完勝)と言うことになっている
パートナーに配られるGMOイズムを特別に見せてもらったのですが、よくあるカルチャーブックではなく、非常に実践的な内容が盛り込まれており、仕事への取り組み方、考え方が、めちゃくちゃ細かく定義されており、かつ参照しやすいように何度も改定された跡があり、見せていただいたGMOイズムには第7版との記載がされていました。ちなみに全て、熊谷さんご本人が執筆されているそうです。
自分はこれを見せてもらって中を拝読させていただいた時に、真っ先に般若心経の経典を思い出しました。例えばスピリットベンチャー宣言の一文には以下のような記載がされています。
即日ミートという現場で使える独自ワードが入っており、競合相手の動きを察知し、あらゆる面で上回るレベルで相手にやられたことを瞬時に上回ってリリースする。組織に競合分析だけの専門チームを作る、など独自の観点と実践的な内容が書いてあります。
また、実際に会食の完勝(乾杯)の音頭の際には、GMO流の完勝(乾杯)の音頭とポーズを熊谷さんに教えていただき、同席いただいたパートナーの皆さんは当たり前のように音頭とポーズを実践されていました。
(ちなみにGMO No.1ポーズで検索すると徹底されていることがよく分かります。)
組織に宗教性を取り入れるタイミング
ここまで読まれた方の中にはやり過ぎでは…。
と多少なりとも違和感を感じた方もいるのではないかなと思いました。
正直、自分も若干そう思ったことを否定しません。
また、いきなりこんなことを取り入れても社員からの反発もあって浸透しないのでは?という懸念も浮かびました。
その点もまさに熊谷さんは指摘されており、従業員が300人~500人みたいなステージでこんなことを取り入れたら、従業員はみんな辞めてしまう。
導入するタイミングとしては創業者が従業員全員の顔と名前を一致することができなくなってきたぐらい、100人前後が最適という話をされており、
まさに、カルチャーを強く体現するメンバーから、信奉する多様性を持ったメンバーが増えてくる、カルチャーの浸透のグラデーションが変わるタイミングなんだろうなと思いました。
経営者の仕事は仕組みを作って祈ること
質問の続きとして、GMOインターネットグループにおいて熊谷さんは教祖のような役割なのか?仮に熊谷さんが会社を去ることになった場合は組織はどうなるのか?という質問をさせていただきました。
永く繁栄を続ける会社、例えばコカコーラとかは製品の名前は知っていても、創業者の名前を誰も知らない。
創業者の才覚やキャラクターだけでもっている会社は、創業者が去ってしまれば終わってしまう。TVやメディアには極力でず、経営者は黒子に徹して、仕組みを作ること。自分の経営は文字通り、「祈りの経営」であることを
明言されていました。
カルト的なカルチャーの是非
ここまでで、自分も新卒で入った会社や買収された経験を元に以下のような感想を持ちました。
楽天にも強い朝会文化が存在した。後から入社する人が、これはこの会社にとって当たり前なんだなと染まれるような形にしておくのは重要なんだろうなと思えた。
前創業時代にクックパッドに投資いただいていたこともあり、元代表の穐田さん(くふうカンパニー代表)に長く続く会社の組織は「宗教型か軍隊型」のどっちかだけだよ、キミはどっちだ?と話されたのを思い出した。
今尚、成長し続けるネット企業、楽天、リクルート、サイバーエージェントなどは多分にカルト的な要素を含んでおり、実際に楽天、サイバーエージェントグループに所属していた身としても似たような事例は存在した。
少なくとも永く続く会社を経営するという点では、名著「ビジョナリーカンパニー」の第6章には「カルトのような文化」の醸成が繁栄する会社の共通点であり、個人崇拝のカルトではなく、基本理念を維持する一貫性を持った仕組みを作ることの重要性が説かれています。
「ビジョナリーカンパニー」には、カリスマ的な指導者を中心とするカルト主義は、時を告げるのに似ている。永続的な基本理念を追い求める仕組みを創っているカルト主義は、時計をつくるのに似ていると記載されており、まさに熊谷さんは「ビジョナリーカンパニー」を意図的に、徹底して実践されてるんだなと思いました。
財閥の歴史から学ぶグループ経営
宗教と全く同じ理由で、永く繁栄し続ける経営モデルを分析すると、財閥に辿り着く。経営を学ぶ上で、各財閥の歴史や本質的に成功した要因を学ぶことが大事と説かれていました。
少し調べると出てくるのですが、財閥とは同族の出資による持株会社を統轄機関として頂点にもち、それが子会社、孫会社をピラミッド型に持株支配するコンツェルンを形成し、多角的事業経営体で、各事業がそれぞれの産業で寡占的な地位を占めるものと定義されています。
財閥とはグループ会社上場の連続
GMOインターネットグループの事業ポートフォリオを振り返ってみると以下のような特徴が見られます。
財閥の本質的な部分はグループ会社上場の連続であり、昨今だと、スイングバイIPOという表現で語られることが多く、KDDIにグループ入りしたソラコムの例が目新しいですが、その元祖がGMOインターネットグループであり、スイングバイIPOという言葉が流行る前から実践しているのが大きな特徴です。
熊谷さん自身も、M&Aのことを「仲間づくり」と話されており、同席されていた投資担当役員の方の名刺にも「仲間作り担当役員」と記載されていました。
「M&A」や「買収」といった上から目線の言葉を使うことは社内で禁句とされており、買った側、買われた側いう上下関係ではなく、あくまで対等なパートナシップであり、むしろ「GMOインターネットグループに来てもらってありがとう」というスタンスとのことでした。
これは従業員の方と接する時にも全く同じであり、社内で従業員の呼称は「パートナー」で統一されており、元々アルバイト雇用の方はスタッフという呼称を利用されていたそうなのですが、そこも差を生む表現にはなるということで、スターバックスに倣って、パートナーで統一されているそうです。
高いEQ(心の知能指数)をもって迎え入れる
熊谷さん自身がエピソードとして話されていて、素敵だなと思ったのは、現GMOペパボがグループ入りされる際に、全く異なるカルチャーや仕事の進め方であることに感動し、GMOインターネットグループのやり方を押し付けるのではく、ペパボの文化通りにやってもらうこと、むしろペパボのスタンスを見習うようにと指示したと言うお話でした。これは会社によって買収した会社に対するPMIの姿勢がかなり異なるだろうなと思いました。
モチベーション高くグループ入りしてもらい、GMOイズム(大切にしていること)は共有しつつ、やり方は任せることで成長してもらって上場を目指す。
こういった再現性を持った型化がされており、N1にはなりますが、GMOペパボの創業メンバーの佐藤さん、GMOペイメントゲートウェイの現副社長でGMO Venture Partnersの取締役でもいらっしゃる村松さんのようなスタートアップの創業者で優秀な経営人材が重用され、グループ内で活躍し続けることで、更に成長することができることが特徴なのかと思います。
トップが規律のバロメーター
ここまでの感想として、総じて熊谷さんの人間力、おもてなし力、異次元の共感力的な部分でPMIが抜群に上手いことが強みとなっており、
有望な会社にグループに参画してもらい、どんどん上場してもらうという型化が組織としては実践されているという、代表の強みからくる美しい戦略が垣間見えた気がしました。
合わせて、従業員に対する呼称一つとっても、熊谷さん自身が規律のバロメーターとなり、行動や言動を体現する、背中を見せるといった形で、グループ入りしてもらった従業員や既存の従業員に配慮されていることも非常に印象的でした。
実際に同席された方がうっかり「買収した会社」と表現してしまった際にも、熊谷さんは「買収ではなく、仲間づくりですよ」と優しく窘められていたり、繰り返し、PMIがうまくいくかは「経済条件とかではなく、高いEQでの接し方、トップが対等に接することが重要。会社を買うなど間違っても言ってはダメ」と話されていました。
おまけ
自分は元々、ネット記事などで熊谷さんの逸話は何度も拝見しており、
学生時代には熊谷さんの夢手帳を使っていたこともあるので、ある意味、経営者としてのファンでもありました。今も個人サーバーはバリュードメインを利用しています。
その上で、熊谷さんに対して元々抱いていた印象は以下のようなものでした。
習慣化の鬼であり、地味で辛い習慣を徹底している
一度、会った人の名前を忘れない、話すときは必ず目を見て話す
誠実、おもてなしの達人
実際に対面してお会いした際に、「しっかり目を見て会話をする」「堀井さんはお酒飲めないんですよね?という細かい配慮がインプットされている」「飲み物がなくなったら熊谷さん自身が注いで回る(パートナーさんも含め)」など、元々の印象通りの方であり、ここまで事前の印象と齟齬がなく、トップの方の徹底ぶりに驚きもあり、ファンとしても嬉しいなと思いました。
その点もあり、もっと起業家という熊谷さんを掘り下げたいなと思い、以下のような質問をさせてもらいました。
起業家としての胆力をどう身につけるか?
ネットバブル絶頂期だった頃もあり、自身にも慢心があった。
当時はまだ若かったから乗り切れたが、今年60歳であの状況ならとても乗り切れたかは分からない。
なんとか乗り切れたのは、既に数百人以上のパートナーがいたので、みんなを路頭に迷わすわけにはいかないという使命感だけだった。
もちろん救済買収等を受け入れれば、自身は資産を持ったままExitすることもできたが、このまま逃げればみんなはどう思うだろうか?漢ならここで逃げ出すわけにはいかないという思い一つだったとのことでした。
結果的に、PL経営しかしてこなかった部分に、初めてBS経営の重要性を学び、今ではGMOインターネットグループ内ではBSの真ん中をアイデアラインと呼んでおり、グループ経営にも取り入れているそうです。また、その経験を経て、初めて神に祈ってクリスチャンにもなられたそうです。
起業家としての理想像とのギャップ
全てはGMOイズムに書いてある55ヵ年計画を達成するためにある、理想像はそれを実現することができること。それが全て。
常にそれを達成できる自分自身を客観的に振り返り近づけていくだけ。
一番大事なのは心構えと、仲間づくりですよ。とのことでした。
経営者として、どうありたいかとの気持ちが大事。
個人的な感想
手配していただいたハイヤーの中での帰りの道。
最後まで徹底したおもてなしの余韻に浸りながら、考えていたことは、歴史から学ぶことの大切さ、そしてそれを愚直に実行するための心構えの大切さの2点でした。
熊谷さんは今ほど成功メソッドがなかった時代から、名著「ビジョナリーカンパニー」、歴史や宗教から学び、そしてそれらを愚直に実施してビジョナリーカンパニーを体現されている。 これこそが今のGMOインターネットグループの成長に繋がっているのだと感じました。 早速、私も財閥系の歴史の書籍をいくつか購入しました。
また、起業家に苦難はセットであり、苦難の大きさを乗り切るためにはそれ相応の覚悟がいるということも改めて感じることができました。
覚悟は目指している頂への高さであり、熊谷さんは自身で作成した55ヵ年計画を達成することに覚悟を持って、命を懸けて取り組んでいらっしゃるんだなと感じました。
自分を客観的に振り返りながら、理想像を描いて、律し続ける。
自分もかくありたいものです。
ではまた!
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