弁護士ほり

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弁護士。著書『13歳からの天皇制』http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/sa/1076.html 記事についてのご意見等はhttps://twitter.com/ShinHori1 まで

最近の記事

自民の改憲案で緊急事態条項を作ると、政府が刑罰を自分で勝手に作れてしまう件

はじめに  (2023.4.6追記 これは2022年の参院選前に書いた記事ですが、再掲します) 憲法改正と緊急事態条項の問題は、このnoteでたびたび触れてきましたが、今回は選挙前ということもあり、テーマを一点にしぼって簡単に解説をします。  自民党の改憲案(2012年の改憲草案と2018年の「たたき台」がありますが、どちらでも本記事の論点では結果的に同じ)が実現した場合、政府(内閣)が、自分で勝手に刑罰を作ることができるようになります。以下、簡単に説明しましょう。 規制

    • あえて問う:憲法で改正した方が良い点は?

      あえて憲法で改正した方が良い点を問う このnoteの記事では、世間の改憲議論について批判的なことをこれまでいろいろ書いてきましたが、今の憲法がもちろん完全無欠とか不磨の大典だと言いたいわけではありません。  今回は、筆者自身が現時点であえて憲法で改正した方が良いと考える最低限の点を簡単に紹介することとします。  まず先に結論をいうと 以上の三点です。 いわゆる「9条」の問題は「附則」で解決 まず「9条」がらみのポイント1について。これは以前の記事で詳しく書いているので、

      • 敗戦後の日本にGHQが新憲法を作らせたのは、国際法違反ではなかった件

        日本国憲法の制定は国際法違反なの? 日本は第二次世界大戦に破れて連合国の占領を受けたあと、大日本帝国憲法にかわる新たな憲法を作ることを迫られ、GHQの与えた憲法案をもとに、日本では議会の審議を経て日本国憲法を制定しました。  このように占領中に連合国が日本に新憲法の案を与えて制定させた点については、「押しつけ憲法」論として今日まで議論になっています。(この点については本noteの過去の記事を参照ください。) https://note.com/horishinb/n/n37

        • 実は「2000年前からの不変の伝統」は、いつでも新たに作れてしまう件

          「不変の伝統」って何ですか? 「○○は日本の2000年の古い伝統だ」などという話題はよく見かけるものです。こういう言い方は、皇室に関する議論で特におなじみになっていますが、この皇室や天皇の話は、伝統に関する人間の思考パターンを検証するのにぴったりの興味深い材料を提供してくれるので、今回はこの点について考えてみます。  「時代が変わっても不変の伝統がある」などと言いますが、皇室や天皇の場合、「不変の伝統」とは何でしょうか?  まず一例として、天皇と政治の関わりがどのように位

        自民の改憲案で緊急事態条項を作ると、政府が刑罰を自分で勝手に作れてしまう件

          男女平等の国である「日本国」の象徴がどうして男性限定なの?

          日本は男女平等の国 いうまでもなく日本は「男女平等」の原則を持つ国です。社会の様々な局面での実態や世間の意識が現実にどこまで男女平等になっているかどうかは別として、男女平等の原則が定められていること自体については異論の出ようがありません。  憲法14条も次のとおり定め、性別による差別を禁じています。 第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 男系男子だけに限られる天皇 一

          男女平等の国である「日本国」の象徴がどうして男性限定なの?

          「日本は解雇規制が厳しい」というのはウソだった件

          日本の解雇規制は国際的に見て厳しいの? 日本の解雇規制は厳しすぎるとか、解雇規制を緩和して雇用を流動化させなければならないなどという言説はすっかりおなじみになっています。(もちろん恣意的に何でも解雇できるわけがなく、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効とされています。)  ただ全般的にいって、日本は本当に「解雇規制」が厳しいのでしょうか?  まず以下のリンク先が作成してみた2019年のデータによれば、OECDの基

          「日本は解雇規制が厳しい」というのはウソだった件

          皇室を支持する層が、二つに分断されている件

          二つに分裂した「天皇制支持派」 皇位継承問題についてはこのnoteでもたびたび取り上げていますが、今回は、世間一般において皇室を支持する層(現時点での日本社会では多数派に属する、いわゆる「天皇制支持層」)の現状について考えてみます。  大雑把にいえば現在、この皇室を支持する層は、二つに分断されているということができます。  わりとメディアに出てくる話題に即していうなら「女性天皇・女系天皇容認派(または愛子天皇待望派)」と、「男系死守派」の対立ということになりますが、もう少

          皇室を支持する層が、二つに分断されている件

          過去の歴代天皇の顔ぶれや人数は、時代によって増えたり減ったりする件

          天皇の数は126代? 皇位継承が話題になるごとに「現在までで126代になる天皇の歴史をどう守るか」みたいな言説がよく聞かれるようになりました。  宮内庁の公式見解では、神話上の神武天皇を初代とすると、確かに現在で天皇は126代となります。  しかしこの歴代天皇の中には後になって追加された天皇がいる一方で、逆に後になって排除された天皇もいるので、126代という数え方の元になっている基準は、実は時代によって変わってきているのです。基準が変われば、今の天皇も126代ではなく別な

          過去の歴代天皇の顔ぶれや人数は、時代によって増えたり減ったりする件

          女系天皇がダメだという主張には説得力がない件

          女系天皇と皇位継承議論 皇位継承問題でたびたび議論にあがるのが、「女系天皇」の問題です。  この「女系天皇」という言葉の定義も細かくいうといろいろな議論になるのですが、ここでは「母親の方でしか天皇・皇族に血がつながらない天皇」「父親の系統(男系)を遡っていっても過去の天皇につながらない天皇」という意味で使うことにします。(「非男系天皇」という方が正確かも知れません。)  わかりやすくいうと、女性天皇が一般男性と結婚して、その子が天皇になるとしたら、この意味での「女系天皇」

          女系天皇がダメだという主張には説得力がない件

          そもそも「皇族の人数の確保」って必要なの?

          政府の有識者会議の案 皇室に関する政府の有識者会議が、「皇族の人数の確保」について報告書を発表しました。  報告書は、皇位継承のあり方については、悠仁親王までは現状(=天皇は男系男子の皇族に限る)を維持することとして変更を求めることなく、当面の皇族の人数の確保策についてだけ論じています。  既に報道でも明らかにされていますが、その案としては ①女性皇族が結婚後も皇室にとどまる。ただし夫と子は皇族にはならず一般国民のままとする ②皇族が養子を取れるようにする。具体的には旧

          そもそも「皇族の人数の確保」って必要なの?

          憲法改正して天皇制を廃止するにも、天皇が必要である件

          仮に天皇制廃止の改憲をすることになったら? 今回は「仮定」の話をしてみましょう。仮に何らかの理由で天皇制を廃止することになったとします。革命とかクーデターとかではなく、あくまでも憲法の改正で、第1条から第8条の天皇関連の条項を削除や変更することによって、象徴天皇制を廃止し共和制に移行することになった場合、どのような手続になるでしょうか。 国民投票だけでは憲法改正は終わらない 「憲法を改正するんだから、国民投票をすれば良いに決まっている」という声が出てくるでしょう。正確にいう

          憲法改正して天皇制を廃止するにも、天皇が必要である件

          世論調査の「憲法改正に賛成ですか、反対ですか?」という質問は、まったく無意味である件

          世論調査の改憲賛否の質問  政治に関する世論調査でよく出てくるのが「憲法改正に賛成ですか、反対ですか?」とか「憲法を改正すべきと考えますか?」という質問項目です。  例えば2021年5月に行われたNHKの世論調査では、「今の憲法を改正する必要があると思うか」という質問があり、これに対する回答としては「改正する必要があると思う」が33%、「改正する必要はないと思う」が20%、「どちらともいえない」が42%という結果が出ています。  また2021年11月の朝日新聞の調査では、

          世論調査の「憲法改正に賛成ですか、反対ですか?」という質問は、まったく無意味である件

          皇族は「人権を制限されてる」の?それとも「人権はない」の?

          眞子さん問題で注目された「皇族の人権」 このnoteでも何度も取り上げてきた世間で騒がれている眞子内親王と小室さんの結婚もようやく正式発表となりましたが、この問題を機に、「皇族の人権」が話題になるようになりました。  これは私の著作『13歳からの天皇制』でも大きな分量を割いて論じているテーマの一つです。(まだの方はぜひお読みください)  皇族は、国民と同じ人権保障は受けられない 今回の記事では、いわば入門編として、どういう考え方があるのか、その簡単な紹介だけしてみます。

          皇族は「人権を制限されてる」の?それとも「人権はない」の?

          新たな改憲デマ=「私権制限に歯止めをかけるためには、憲法改正が必要」論にご注意!

          崩壊してきた「今の憲法では私権制限できない」というデマ新型コロナ危機が広まる中で、政界や言論界などでは  「今の憲法では、コロナ対策のために必要な私権制限ができない。だから私権制限をするためには、改憲が必要だ」 「憲法を改正して緊急事態条項を作らないと、必要なコロナ対策ができない」 というたぐいの改憲論の主張が目立つようになったのは、ご存じのとおりです。(ここでの「私権制限」は、一応、憲法で保障された自由・権利の制限一般の意味で使っています。)  このnoteでは、これまで

          新たな改憲デマ=「私権制限に歯止めをかけるためには、憲法改正が必要」論にご注意!

          一番わかりやすい憲法の「八月革命説」の話

          はじめに 日本国憲法の話でよく出てくる八月革命説については、このnoteでも過去に何度か触れましたが、やや特殊な話題ということもあり、かなりわかりにくいところがあったかも知れません。  このテーマはいろいろな説明の仕方があると思いますが、今回の記事では、私なりに可能な限りわかりやすく説明してみることにします。 「主権者」は漫画家、「憲法」は漫画作品まず議論にあたっては、次の二つのレベルを分けて考えます。 レベルA. 憲法を制定できる権力を持つ者=主権者 レベルB. その

          一番わかりやすい憲法の「八月革命説」の話

          自民の改憲案が実現していたら、コロナ対策はどうなっていたの?

          はじめに:仮に改憲されていたらコロナ対策は? このnoteでは、コロナ危機と改憲問題について何度も語ってきたところですが、今回はガラッと切り口を変えて 「仮に日本が、自民党の案のとおりに憲法を改正していたら、コロナ対策ではどうなっていたのか?」 ということを検討してみましょう。  「自民案のとおり憲法改正して、緊急事態条項があれば、コロナ対策はうまくいっていた」とか「改憲すれば病棟や医師がすぐ揃っていたはず」などという評論家や政治家もいますが、実際のところ、どうだったのでし

          自民の改憲案が実現していたら、コロナ対策はどうなっていたの?