『歓びの毒牙(きば)』映画感想文・動物3部作の中ではベストでした
ホラーの巨匠、ダリオ・アルジェントの長編初監督作品です。
初期の三部作が公開されたので鑑賞して来ました。
あらすじ
感想(ネタバレ含む)
家でもう一回ゆっくり見たいと思ったら、今のところ配信がなくて残念。
物語も面白いですが、切れ味鋭く美しく、全編に漂う薄ら寂しい感じも味わい深かったです。
その場に居合わせただけの主人公サムが、連続殺人事件に魅了されて、関わるうちに巻き込まれていきます。森の中で一人道に迷うような怖さを感じました。
サムには恋人がいますが、かといって問題を分かち合ったりはしません。ひたすら自分と向き合い、止まらない好奇心(変態性とも言える)で、犯人を追い求めていくのです。
「何かを見た、けれどそれが何だったか思い出せない」
それが何であったかがわかった時の、血の気の引くような感覚。これを見る側に共有させる手腕がアルジェントらしく素晴らしいと思いました。
意識の底に埋められた「何か」があらわになる、それは名作『サスペリアPART2』にも共通しますが、恐怖が自分の中にあるという恐怖なのです。
冒頭で主人公が目撃する殺人未遂現場がとても印象的。画廊の美しい女性経営者が血まみれになってこちらへ助けを求めている…先入観に主人公も見る側もだまされます。
カメラワークは被害者でも犯人でもなく、第三の視点により二人だけの緊迫した場面を追っていきます。
俯瞰する神の目でもないため、見る側が傍観者となることを許しません。
子どもの頃に見た怖い夢のような感覚で、なぜか緊張を強いられて心臓がバクバクしました。
そして殺人シーンに独特の美学、美意識を感じます。
もはや犯人は誰でもいい…ぐらいの気持ちで楽しみました。
警察はモニカに話を聞きもせずサムを疑うのはおかしいとか、ゲイの画家やボクシング協会の集まりのくだりはなんだったのかとか、ミスリードとも言えない妙なところはチラホラあります。
しかし、それらも含めてダリオ・アルジェントの世界観であり、揺さぶられ、引き込まれるのが楽しいと感じました。
今回3作品を鑑賞して、最もインパクトの大きな作品でした。これをブラッシュアップしてサスペリアに繋がっていくというのも感慨深いです。
助監督の経験もないまま、20代で初めて監督を務めた作品であり、その才能の源泉を目の当たりにできたという意味で、とても価値ある鑑賞体験でした。
昨年『ヴォルテックス』に主演したのがやっぱり不思議だなと思いました。