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『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者 ー古川薫・山田洋次・庵野秀明ー』がUBE出版からついに刊行!



書影(表紙)


庵野秀明の故郷・山口県宇部市のUBE出版からこれまでにない人物群評伝『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者』が堂々登場!

直木賞作家・古川薫の『君死に給ふことなかれ』、映画監督・山田洋次の『男はつらいよ』シリーズ、アニメ興行師・庵野秀明の『シン・エヴァンゲリオン』の原風景を、巨匠たちが生きた地から炙り出す渾身の力作!
作品に投影された知られざる風景とは。隠されたメッセージとは…。
語られなかった封印がいま解かれる。
巻末に日本画家・馬場良治のインタビューを収録。
関連マップ付きのオールカラー・アーカイブ版人物群評伝が誕生!

庵野秀明の故郷は、明治維新の震源地となった山口県宇部市。
この地域には、戦前に渡邊翁記念会館が建築家・村野藤吾の手で建てられていた。村野を招聘したのは宇部興産㈱(現、UBE㈱)の初代社長・俵田明だ。俵田は科学技術と文化芸術を融合した美術工業都市をこの地に建設した功労者である。

庵野秀明のエヴァンゲリオンシリーズは、まさにこうした俵田明ー村野藤吾の「革新」的文化土壌から生まれていた。

本書で扱うのは、評価がほぼ定まった直木賞作家の古川薫、男はつらよシリーズで戦後映画界を牽引した山田洋次、そして庵野秀明である。
だが、彼らのほかにも、限られたこの地域から日本を代表する以下の表現者が登場していた。

経済界では、日本一の富豪となった柳井正さん(株式会社ファーストステアリング代表)。
美術界では日本画家の西野新川(本名・西野博)画伯。
島根県津和野出身の安野光雅画伯は、宇部工業高校に進学し、明治町や藤山で暮らしていた。
洋画家の松田正平画伯も島根県日原町出身だが、やはり宇部の松田家に養子入りして、宇部中学(現、宇部高校)時代から油絵に目覚めていた。
現役の日本画家では、馬場良治画伯の墨絵を、際波の集估館で見ることができる。
ジャーナリストでは戦場カメラマンの橋田信介さん。
音楽界では、緑橋教会の牧師の子で、シンガーソングライターの陣内大蔵さん。
元EXLEのボーカル清木場俊介さんや、元モーニング娘の道重さゆみさんなども宇部市出身である。
最近では、ショパン国際ピアノコンクールで入賞したピアニストの小林愛実さん。
音楽バンドYOASOBIのAyaseさん。演劇界では演出家の品川能正さん。
女優では西村知美さんや〝みっちょん〟こと芳本美代子さん。
『Gメン75』(TBS系・1975年~1982年)で活躍した藤田三保子さんも宇部市ゆかりだ。
すそ野は広く、ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑さんも、宇部で青年期を過ごしていた。
朝鮮半島から来日して昭和6(1931)年から宇部で生活をはじめ、上宇部小学校や長門工業学校で学び、宇部鉄工所に勤務した加藤九祚さんは、日本を代表する民俗学者になっている。
芸人のやす子さんも、宇部市である。
お笑いコンビ「完熟フレッシュ」の池田57CRAZY(本名・池田哲也)さんも、そうだ。

本書は、本州最西端の限られた範囲から出現した古川薫、山田洋次、庵野秀明の隠された生い立ちを発掘したことで、彼らの作品の聖地を巡礼する新たな文化論となっている。

これまでの作家論や作品論とは全く違った世界が見えるはずである。

〈主要目次〉


古川薫
 見初小学校時代  宇部と映画  オートジャイロ郷愁  長門工業学校  修学旅行の思い出  敗戦と二木家  『里程標』の創刊  山口大学教育学部へ  「文学」人脈による救出劇  『関門往来』の発行  筆一本の生活
 
山田洋次
藤山の秋富家  山田家のルーツ  「寅さんのふるさと」  山高時代の思い出  進駐軍病院と「笑いの原点」  「学校」の先生
 
庵野秀明
 故郷の〈美術工業都市〉  オウム世代  仕立師の父  宇部線とクモハ  「明光荘」からの眺め  動物ねんど工作コンクール  「かふぇれすと らいぶ」  逆説としての宇部高校  水と墓の風景
 
《特別編》馬場良治と集估館
 京都での生活  平山郁夫の門下となる  墨絵  下積み時代
 
《編著者》 堀 雅昭
 著書に『戦争歌が映す近代』(葦書房)、『杉山茂丸伝』、『ハワイに渡った海賊たち』、『中原中也と維新の影』、『井上馨』、『靖国の源流』、『靖国誕生』、『鮎川義介』、『関門の近代』、『寺内正毅と近代陸軍』、『村野藤吾と俵田明』(以上、弦書房)。『靖国神社とは何だったのか』(宗教問題)。『炭山の王国』(宇部日報社)。『琴崎八幡宮物語』(琴崎八幡宮)、『宇部と俵田三代』(宇部市制100周年出版企画実行委員会)など多数。

書評■表現者を炙り出す

                                          永冨 衛

「よくぞ書いてくれました」と、まずは賛辞を送りたいのが〝読前感〟である。
著者のノンフィクション作家・堀雅昭さんと同郷で生きる物書きの一人として、新聞記者を長年、生業(なりわい)としてきた身として取材活動の延長線上に、堀さんが取り上げた宇部ゆかりの直木賞作家古川薫さん、映画監督山田洋次さん、アニメーション作家などの顔をもつ庵野秀明さん、その3人の語られざる秘話や悲話を耳にしたことがある。
決して活字にはできなかったし、客観性を重視する新聞の性格上、踏み込んではならない“聖域”でもあったからだ。
「はじめに」で「巨匠たちの原風景を炙(あぶ)り出すことにした」のキーワードを見つけた。
隠されていた物事を明らかにしていく「炙り出す」には少々、個人的には抵抗感があるけれど、この文言に注目したい。
膨大な資料と史料を紐(ひも)解き、時系列で分かりやすく3人の表現者の青春ストーリーを紹介している。精度の高い〝芸術品〟である。一気に読破した。
本の内容は読んでいただくとして、3人の表現者に切り込み書かせたご本人を炙り出したい。
記者経験者として「人間堀」に興味が湧くのである。
詩も書き、言葉を削った行間に無言の言葉を染み込ませる筆者の作業と、知り得たほとんどを活字にする堀さんの行為は真逆なのだ。
あえて言わせてもらえば欲張りである。隠し事の無い堀さんから滲(にじ)み出た姿勢の現われだろう。
著書「エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者」の出版費を捻出(ねんしゅつ)するため、クライアントを小まめに回った。
インターネットを通して自分の活動や夢を発信し、資金調達するクラウドファンディングが趨勢(すうせい)のご時世からすれば、時代遅れと言われるかもしれない。
しかしフィールドワークを重視するノンフィクション作家に相応しいクラウドファンディングのアナログ版。さすが、である。
堀さんには同じジャンルでペンを振るいノンフィクションの世界を駆け抜けた佐野眞一さん(1947-2022年)が重なる。橋下徹氏を題材とした週刊誌の記事を、部落差別を助長させるとして連載が中止に追い込まれ、ライター人生の苦境に立たされた。
堀さんへは「東京でも十分にやれるんじゃないですか。その度量をしっかりお持ちですよ」と、これまで幾度なく進言させてもらった。
けれど、地元に居座り続け「ふるさとの活字文化の発展のために出版事業にも寄与したい。若い書き手も発掘したい」と強調する。
その熱い気概が伝わってくる。だからこそ、地方を代表する表現者をさらに意識して、「やる(書く)べきこと、やってはいけない(書いてはいけない)」ことのお手本を示してほしい。
読後感として、3人の表現者を「炙り出す」ことで、4人目の表現者として自らの身を晒(さら)して炙り出されているのは、堀さんの思惑の範ちゅうにあるかどうか、読む楽しみも膨らむ。
歴史から学び、そのページを捲(めく)って独自の切り口で時代を照らす堀さん。
プライバシーに触れるぎりぎりの波打ち際で書き続けている。
寄せる波、引く波をうまく取り込んでこれから向かう社会からも、もっと学んでほしい。伸び代が無限の作家への期待も膨らむ。

(ながとみまもる)
山陰詩人同人
1953年 宇部市生まれ
1980年 島根大学大学院農学研究科修了
第53回宇部市芸術祭・詩部門宇部市長賞受賞
 

『エヴァンゲリオンの聖地と3人の表現者 ―古川薫・山田洋次・庵野秀明ー』
ISBN 978-4-910845-01-2 C0023
定価 1,650円(本体 1,500円+税)


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