判断軸と判断基準
「部下が聞きに来ない」は誰の問題?
1on1研修、OJT研修などを担当すると、多くの受講者からあがる質問があります。それは、
です。
受講者は講師である私にあることを期待して聞いてきます。
その期待とは、
というもの。確かにこういう居酒屋の愚痴のような回答がウケたこともありました。(若手の皆さんごめんなさい)
ところが、最近お答えするのが、
判断軸を伝えていますか?
判断基準を部下と擦り合わせていますか?
オブラートに包まずにいうと、
「部下の問題ではなく、上司のあなたの問題」ということです。
研修のアンケートコメントを拝見すると
と、本題である1on1やOJTの技法はそっちのけで、嬉しいコメントをいただきます。
今回はその判断軸と判断基準の話をお伝えしようと思います。
上司部下の関係性問題に逃げるな
かくいう私も、「部下が聞きに来ない」問題には様々な角度から格闘しました。
戦歴1.関係性問題
研修講師になりたての際に、バ○の一つ覚えのように振りかざしていたのが、有名なダニエル・キム考案の【成功循環】です。
なんと便利なことでしょう。
あらゆる解決策は【関係の質】にありそうです。
・・・しかし、研修講師の職を離れて組織開発コンサルやコーチ職として一人一人と対話をすると、上司との関係性が良くても自分から質問に行けないという事象を目の当たりにしました。それも、かなり多くの割合です。
よく飲みに行く上司でも、仕事上で苦手な人は苦手ですよね。
関係性が全てを解決してくれるわけではないようです。
戦歴2.若手の傾向問題
若手研修を50案件ほど担当すると、若手の傾向について知恵がついてきます。新入社員がどのような歴史を歩み、学生時代に何を見て考え、ゆえに社会人としてどのような価値基準を持っているのかがストーリーとして語れるのです。
そこで「部下が聞きに来ない」問題を、「最近の若手は〜」と語ることができます。しかし、語っている自分自身、ある違和感を抱きます。それは、
自戒の念を込めて記しますが、ステレオタイプ的な思考によって安易に他者のことをわかったつもりになることは危険です。もちろん、その思考によってある程度、人物理解が進むでしょう。ただ、それによって満足しているのは自分自身。つまり自己満足でした。
「他者を一方的にわかる」ことと「他者と分かりあう」ことは決定的に違います。
戦歴3.言葉の思考力問題
この問題は最近も処方箋として使います。もっとも、「上司に質問に行けない」社員とコーチングをして、ある特徴に気づきました。それは、
ということです。
例えば私が健康診断に関するアンケートの提出に遅れたとします。
すると上司は、
と指摘します。
さて、この指摘が指す意味として、最も適切なものは以下の中からどれでしょうか?
多くの皆さんは、この上司の指摘を1.の意味で取るでしょう。
ところが、実際には2.や3.で意味を受け止める方が少なくありません。
2.は過小抽象化です。なので指摘された方は「健康診断についてだけは指摘された。」と解釈し、似たようなミスを繰り返します。
3.は過大抽象化です。1つのことを気にし過ぎ、上司の知らないところで「取り返しがつかないようなミスをした」と落ち込んでしまうのです。
そこで上司の皆さんにお勧めしているのが、
ただ、このキャンペーンはものすごく不評です。
理由は、上司の脳のキャパシティーを著しく使用するからです。
脳のCPUやメモリの増設ができればいいのですが。
戦歴4.判断軸と判断基準
ようやく辿り着いた解決策は判断軸と判断基準という問題です。
この解決策はとてもシンプルです。以下に、判断軸と判断基準で説明します。
判断軸が揃っていない問題とは
判断軸とは、判断に用いるモノサシ自体のことです。
例えば、時間、品質、リスク評価、メンバーのモチベーション、などがあるでしょう。
例えば先の「上司に聞きいけない」というメンバーと対話をしたとします。
するとよく聞くセリフが
というものです。
そこで私はコーチとして
という質問を投げます。すると、
などが出てきます。
つまり、部下本人は【上司自身の時間】をモノサシだと思っていたのに対し、よくよく上司のことを思い出すと、上司は【目標達成度】や【品質】というモノサシでコミュニケーションをしていたということです。
モノサシ自体が違っていたという思い込みは、かなり多くのケースで存在します。
判断基準が擦り合っていない問題とは
よくある”朝令暮改”という批判。時事刻々と環境が変わるビジネスシーンにおいては必要な態度でしょう。これも「上司に聞きにいけない」問題を生んでいます。コーチングでもこのようなやり取りをよく耳にします。
怒られた側の辛さもわかります。怒った側の辛さもわかります。
この場合は「良い」という判断基準が擦り合っていないのです。
「良い」と「良くない」の境目には何があるのか?を明らかにすることで、この部下は自ら相談に来たかもしれません。
しかし、多くの場合「良い」という判断結果のみを伝え、判断基準については触れないことが多いでしょう。理由は忙しいからです。
しかし、皮肉なことに、判断基準を伝えていないことで忙しさは増えているのです。
できる人は判断軸を聞きに行く
一緒に活動してくれる優秀な営業パーソンに共通するのが、
という質問を行なっていることです。この質問は判断軸と判断基準を同時に情報収集しています。
例えば
すると、研修を選ぶ側の人事はこのように伝えます。
これだけでも、自社の提案で何を訴求すれば良いのかが明確になります。その上で、判断基準を明確にしたいところです。
ところが、判断基準は答える側も明確に持っていないことが多いものです。そこで、できる営業パーソンは関連質問という技を使います。
判断基準は関連質問で
私はリクルート時代に先輩から「顧客の予算感を聞け」と良く指導されました。しかし、顧客を目の前にして、
なんて聞けないものです。
そんな失敗体験を2〜3ヶ月させたあと、先輩はマジックフレーズを授けてくれました。
すると不思議なことに、顧客は
と答えるものです。
あとは〇〇円と、ビンゴな予算感を当てるのは時間の問題。
(もちろん、【関係の質】があった上でですよ。)
つまり、判断基準は関連質問で聞き出すと良いでしょう。
その際、だいたいの目安を仮説立てして聞くことで、相手は答えやすくなるものです。
居酒屋の愚痴は8割消せる
いかがでしたでしょうか。「部下が聞きに来ない」問題を私の戦歴から検証し、判断軸と判断基準のすり合わせ方までお伝えしました。
職業柄、居酒屋での他のテーブルの愚痴に興味が向いてしまいます。
すると、私の感覚では愚痴の約8割が仕事上のトラブル。それもコミュニケーションエラーです。
さらに、コミュニケーションエラーとは判断軸のズレや、判断基準のすり合わせ不足です。
というビジネススキルが向上すれば、居酒屋の愚痴の8割は消えるでしょう。
すると、もっと美味しくお酒が飲めますよ。
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